18 / 22
本編
15 共にする夜
しおりを挟む
「あの、イザークさま?やはり式を挙げる前に夜を過ごすのはよろしくないのでは……」
湯浴みを済ませ、薄いリネンの服を身に纏う彼を見ると頰が熱くなるのを感じる。
「アイリスの身の安全が第一だろう。ただ同じ寝台で過ごすことがそこまで問題なのか?」
今の私たちは、挙式後のために用意されていた夫妻部屋の大きなベッドに横になっている。
私のためを思ってくださるからこそだ、そう思うとそのまま流れに身を任せてしまったのだけれど……そう心のなかで一人葛藤する。
「それとも、怖いのか?それなら俺は端で寝て背を向けよう。アイリスが怖いと感じることは何もしない」
「怖いということでは決してありません!ただ、いくら私たちが眠っているだけだとしても何だか噂がたってしまいそうで……」
心配そうにこちらを伺っていた彼が、途端に口角を上げた。
「そんなことなら気にするな。仮に勘違いされたとして、誰も責める者などいない」
「責められるというだけのお話ではないのです!恥ずかしいではないですか!」
耳まで熱くなるのを感じながら抗議するが、余計悪戯っ子のように笑うだけだ。
「笑わないでください」
つい幼子のように拗ねると彼は落ち着いて表情を和らげる。
「ああ、すまない。俺はただ君を守りたいだけだ。頼むからこうすることを許してくれないか」
熱くて優しいその瞳を見てしまえば、頷くことしかできないのだ。
(それをきっとイザークさまは解っていらっしゃるから、こんなにも近づいて見つめてくるのだわ。誠実で、真っ直ぐで、愛に溢れたほんのちょっぴりずるい御方。)
「アイリス、安心して休め」
「はい。おやすみなさい」
眠りにつく前の挨拶を交わすと、イザークさまはやはり距離を保って目を閉じただけ。
その心遣いが嬉しいのだけれど、もう少しそばにいてほしい────。
そんなわがままな感情が芽生えてしまう。
躊躇いながらも、柔らかなシーツの上で近づき彼の顔を下から覗き込んだ。
涼し気な目元は鋭いけれど、私を見つめる瞳はいつも温かい。
眉の傷跡は彼が戦った証として皆から褒め称えられ、騎士からも憧れられる勲章だ。
本当は、大切な貴方の身に危険が迫ることなどしないでほしいと思ってしまう。
そんなことはイザークさまにはもちろん、誰にだって口が裂けても言えないのだけれど────。
ただ、これだけは。
「私にとっても貴方が大切です」
そう、いつも私や周りのことばかり考えている貴方だって大切な存在。
騎士団長としてまた戦場へと向かってしまうのは解っているけれど、貴方を想う私がいる。
もう寝なくてはとすぐ隣で目を閉じると、クスクスと小さな笑い声が聞こえてきた。
おかしい、そう心の中で呟き閉じたばかりの目を再び開けるとイザークさまが私を見て微笑んでいたのだ。
「き、聞いていらっしゃったのですか?」
「ああ。この耳で確かに」
「もう寝ていらっしゃるかと思って……恥ずかしいです」
「君を守るために共に過ごしているのだから、先に一人ぐっすり眠るだなんてしないさ」
穏やかな低音が耳を擽り、心臓の音が大きくなった。
「……寂しいのか」
普段より少し掠れたで囁かれる。
「どうしてそのようなことお聞きになるのですか?」
「君が、自ら近づいているから。慣れない状況だし寂しいのかと思ってな」
言われた言葉に一気に顔に熱が集まった。
「私ったら、申し訳ありません……」
「なぜそうすぐ謝る。何も怒ってないし、アイリスが悪いことなどないだろう」
窘める甘い声音。
「だって……イザークさまは気遣ってくださったのに、私から勝手に近づいてしまうだなんて」
自分勝手で、はしたないと思われても仕方のないことだ。
「君が信頼してくれているのだと俺は嬉しく思う」
恥ずかしくてまた俯き無言になってしまうと、彼は楽しそうに笑う。
「アイリスが良いのであればこうして毎晩共に寝よう」
「ま、毎晩ですか……?」
「嫌か?」
「嫌じゃ、ないですけれど」
「ならそうしよう。……今度は本当におやすみ、アイリス」
硬い掌に頬を包まれ瞼を閉じると、すぐに深い夢に落ちていった。
「君のためにも、君が想ってくれる自分自身のためにも、もっと強くならなくては」
その言葉はどちらのものだったのかわからない。
湯浴みを済ませ、薄いリネンの服を身に纏う彼を見ると頰が熱くなるのを感じる。
「アイリスの身の安全が第一だろう。ただ同じ寝台で過ごすことがそこまで問題なのか?」
今の私たちは、挙式後のために用意されていた夫妻部屋の大きなベッドに横になっている。
私のためを思ってくださるからこそだ、そう思うとそのまま流れに身を任せてしまったのだけれど……そう心のなかで一人葛藤する。
「それとも、怖いのか?それなら俺は端で寝て背を向けよう。アイリスが怖いと感じることは何もしない」
「怖いということでは決してありません!ただ、いくら私たちが眠っているだけだとしても何だか噂がたってしまいそうで……」
心配そうにこちらを伺っていた彼が、途端に口角を上げた。
「そんなことなら気にするな。仮に勘違いされたとして、誰も責める者などいない」
「責められるというだけのお話ではないのです!恥ずかしいではないですか!」
耳まで熱くなるのを感じながら抗議するが、余計悪戯っ子のように笑うだけだ。
「笑わないでください」
つい幼子のように拗ねると彼は落ち着いて表情を和らげる。
「ああ、すまない。俺はただ君を守りたいだけだ。頼むからこうすることを許してくれないか」
熱くて優しいその瞳を見てしまえば、頷くことしかできないのだ。
(それをきっとイザークさまは解っていらっしゃるから、こんなにも近づいて見つめてくるのだわ。誠実で、真っ直ぐで、愛に溢れたほんのちょっぴりずるい御方。)
「アイリス、安心して休め」
「はい。おやすみなさい」
眠りにつく前の挨拶を交わすと、イザークさまはやはり距離を保って目を閉じただけ。
その心遣いが嬉しいのだけれど、もう少しそばにいてほしい────。
そんなわがままな感情が芽生えてしまう。
躊躇いながらも、柔らかなシーツの上で近づき彼の顔を下から覗き込んだ。
涼し気な目元は鋭いけれど、私を見つめる瞳はいつも温かい。
眉の傷跡は彼が戦った証として皆から褒め称えられ、騎士からも憧れられる勲章だ。
本当は、大切な貴方の身に危険が迫ることなどしないでほしいと思ってしまう。
そんなことはイザークさまにはもちろん、誰にだって口が裂けても言えないのだけれど────。
ただ、これだけは。
「私にとっても貴方が大切です」
そう、いつも私や周りのことばかり考えている貴方だって大切な存在。
騎士団長としてまた戦場へと向かってしまうのは解っているけれど、貴方を想う私がいる。
もう寝なくてはとすぐ隣で目を閉じると、クスクスと小さな笑い声が聞こえてきた。
おかしい、そう心の中で呟き閉じたばかりの目を再び開けるとイザークさまが私を見て微笑んでいたのだ。
「き、聞いていらっしゃったのですか?」
「ああ。この耳で確かに」
「もう寝ていらっしゃるかと思って……恥ずかしいです」
「君を守るために共に過ごしているのだから、先に一人ぐっすり眠るだなんてしないさ」
穏やかな低音が耳を擽り、心臓の音が大きくなった。
「……寂しいのか」
普段より少し掠れたで囁かれる。
「どうしてそのようなことお聞きになるのですか?」
「君が、自ら近づいているから。慣れない状況だし寂しいのかと思ってな」
言われた言葉に一気に顔に熱が集まった。
「私ったら、申し訳ありません……」
「なぜそうすぐ謝る。何も怒ってないし、アイリスが悪いことなどないだろう」
窘める甘い声音。
「だって……イザークさまは気遣ってくださったのに、私から勝手に近づいてしまうだなんて」
自分勝手で、はしたないと思われても仕方のないことだ。
「君が信頼してくれているのだと俺は嬉しく思う」
恥ずかしくてまた俯き無言になってしまうと、彼は楽しそうに笑う。
「アイリスが良いのであればこうして毎晩共に寝よう」
「ま、毎晩ですか……?」
「嫌か?」
「嫌じゃ、ないですけれど」
「ならそうしよう。……今度は本当におやすみ、アイリス」
硬い掌に頬を包まれ瞼を閉じると、すぐに深い夢に落ちていった。
「君のためにも、君が想ってくれる自分自身のためにも、もっと強くならなくては」
その言葉はどちらのものだったのかわからない。
32
あなたにおすすめの小説
虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ
あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。
その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。
敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。
言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。
白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。
だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。
異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。
失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。
けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。
愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。
他サイト様でも公開しております。
イラスト 灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様
妾に恋をした
はなまる
恋愛
ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。 そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。
早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。
実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。
だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。
ミーシャは無事ミッションを成せるのか?
それとも玉砕されて追い出されるのか?
ネイトの恋心はどうなってしまうのか?
カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
【清い関係のまま結婚して十年……彼は私を別の男へと引き渡す】
幼い頃、大国の国王へ献上品として連れて来られリゼット。だが余りに幼く扱いに困った国王は末の弟のクロヴィスに下賜した。その為、王弟クロヴィスと結婚をする事になったリゼット。歳の差が9歳とあり、旦那のクロヴィスとは夫婦と言うよりは歳の離れた仲の良い兄妹の様に過ごして来た。
そんな中、結婚から10年が経ちリゼットが15歳という結婚適齢期に差し掛かると、クロヴィスはリゼットの嫁ぎ先を探し始めた。すると社交界は、その噂で持ちきりとなり必然的にリゼットの耳にも入る事となった。噂を聞いたリゼットはショックを受ける。
クロヴィスはリゼットの幸せの為だと話すが、リゼットは大好きなクロヴィスと離れたくなくて……。
ロザリーの新婚生活
緑谷めい
恋愛
主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。
アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。
このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。
全部私が悪いのです
久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。
姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。
世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。
*全18話完結となっています。
*大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。
*後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。
*この作品は他誌にも掲載中です。
「この結婚はなかったことにしてほしい、お互いのためだ」と言われましたが……ごめんなさい!私は代役です
涙乃(るの)
恋愛
男爵家の双子の姉妹のフィオーリとクリスティナは、髪色以外はよく似ている。
姉のフィオーリ宛にとある伯爵家から結婚の申し込みが。
結婚式の1ヶ月前に伯爵家へと住まいを移すように提案されると、フィオーリはクリスティナへ式までの代役を依頼する。
「クリスティナ、大丈夫。絶対にバレないから!
結婚式に入れ替われば問題ないから。お願い」
いえいえいえ、問題しかないと思いますよ。
ゆるい設定世界観です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる