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ピクシー系エルフ種の少年、ジーゴ=トーリュ
過去と決別するための対峙
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「ところで、そのヒムロって人、誰?」
ジーゴの質問には店主は少し答えをためらう。
「……まぁ、例え話だな。で……」
「テンシュさーん、持ってきたよー」
倉庫から店の中に置かれたそれを見るために、店主とジーゴは店の中に入る。
シエラと呼ばれた女性が持ってきたの物は、真上から見ればほほ正方形で、縦横共に十九本の線が刻み込まれている。横から見ると平べったさが感じられないほどの高さがある直方体。
その下面には四隅に近い位置に足がついているそれは、ジーゴも小さい頃に見覚えがある形の物。
しかし彼が見たことのある物と大きな違いがある。
それは色。
ジーゴが見たことのあるそれは木製。片づけを手伝うためにそれを持ち上げようとしたが、小さい頃の彼にはびくともしないほどの重さがあった。
シエラが持ってきたそれは、木の色よりも濃い色をしており、輝きが感じられる。
彼女のにこやかな顔を見て、重さはあまり感じられない物に見えた。
「それ……何の木?」
「木? これはね、宝石だよー」
「宝石? 石なの?」
「見せるだけなら朝飯前。で、こいつを見てどうしたいんだ?」
シエラからの説明を受け、さらに詳しく聞こうとするジーゴに店主は割って入る。
執拗に頭を下げるジーゴの態度を見て、その道具を見ることが目的ではないと店の主人は感じ取る。
そしてこの道具を見てどうしたいかも薄々感じる。
しかし彼は、このエルフ族の少年がしたいことを主張する手助けはしない。
それは親切というもので、その親切心は、少年と関わる周りの者達やこれから関わろうとする者達全員がそんな思いを持つわけではない。
今後さらに厳しい境遇に囲まれるかもしれない。
その時には過去に当たる、今の自分が見せるわずかな親切心にいつまでもしがみつかれていては、この生を恨みながらこの世と別れる羽目になりかねない。
店主はそんなことを思う。
それに応えたわけではないだろうが、ジーゴは店主の問いに答える。
「これを……やってみたい。小さい頃、爺ちゃんから教わって、何回かやったことがある。多分これからはこんな物を目にすることはないと思うんだ。今ここで一生で最後の……」
「……勝負をしたい、か」
自分の言葉の後を継いだ店主の言葉に、ジーゴははっとして目を見開き、そのままテンシュの顔を見つめる。
そしてゆっくりと大きく頷いた。
それも店主の親切心だろうが、それは単に少年が適当な言葉を知らないだけ。いわば後押しをしただけのこと。
そして店主は少年の意図を知る。
最後の一勝負をして過去の甘い思い出の数々の未練を断ち切る。
その決意に満ち溢れた目であることを感じた。
しかし店主は渋い顔になる。
その思いを聞き入れようと思っても、適当な相手がいない。
店主ももちろん相手は出来るが、実力に差がありすぎたら未練を切るどころか絶望を感じさせないだろうかと、少年の心を案ずる。
かといって逆に少年が相手にしないほど弱い力の者を紹介するわけにはいかない。
「おはよーございまーす。テンシュ、今日は何か目玉になる商品ないっすかー? って、あら、取込み中だったか……」
「……冒険者業引退して次の仕事決まって頑張ってると思ったら、朝っぱらからぶらついて、何やってやがんだお前ら」
「ちょっ。いきなりひでぇな。養成所の教師役っつってもさぁ、出番ってのがあるわけで。それにいい教材とか揃えてるしさ……って、この子は? 俺と同じエルフ……ってピクシー亜種で男の子かよ。珍しいな。だがその格好にこの時間ってこたぁ、訳ありか」
この店の最初の客は五人組。その中で一番背の高い男が事情を察する。
「……それも随分懐かしい物持ってきたわね。……え? ひょっとして、この子、それをやりたがってるの?」
「あぁ、エルフ生最後の一勝負だと。浮浪者生活してたら、娯楽を嗜むどころじゃねぇだぅからな」
五人は神妙な面持ちになる。
娯楽は生きていく上での張りになることもある。
このエルフ族の少年の素性を詳しく知らない五人はそんな建前よりも、今の少年に必要なことを手にすることの方が大切に感じる。
それは、この五人もかつて、似たような体験をし、そして切り抜けてきた経験を持っている。
しかし、自分達を見本にして頑張れなどという綺麗事を言うつもりもない。
この少年には周囲の者の気持ちを慮るほどの余裕はないのが、簡単に予想がついたからだ。
五人は少年に希望する。
今本人に必要な物を手にすることに集中してほしいということを。
そのために余分なことを切り捨てることも大事である。
「じゃあ私が一役買いますか」
五人の中で一番背の低い、ドワーフ族の男が名乗りを上げる。
ドワーフ族はこの世界に住む種族の中では知性などは平均を下回る者が多い。
しかし彼は、獣人の双子の姉妹と共に魔術による支援や、冒険者全体的に見て珍しい、前線にも出られる攻撃魔術の使い手でもある。
それだけ知力や知性が高い。
そしてこの勝負事の心得もある。
ほかの四人は、その少年を労わるような眼で見るが、その男は違った。
例え年端もいかない者であろうが、勝負事とあらば真剣に相手をする。そんな鋭い目つきで少年を見る。
ジーゴもその男を真正面に見据え、低めのテーブルの上に置かれたその箱の形状の道具を間に挟んで対面し、シエラが持ってきた椅子にそれぞれ座った。
ジーゴの質問には店主は少し答えをためらう。
「……まぁ、例え話だな。で……」
「テンシュさーん、持ってきたよー」
倉庫から店の中に置かれたそれを見るために、店主とジーゴは店の中に入る。
シエラと呼ばれた女性が持ってきたの物は、真上から見ればほほ正方形で、縦横共に十九本の線が刻み込まれている。横から見ると平べったさが感じられないほどの高さがある直方体。
その下面には四隅に近い位置に足がついているそれは、ジーゴも小さい頃に見覚えがある形の物。
しかし彼が見たことのある物と大きな違いがある。
それは色。
ジーゴが見たことのあるそれは木製。片づけを手伝うためにそれを持ち上げようとしたが、小さい頃の彼にはびくともしないほどの重さがあった。
シエラが持ってきたそれは、木の色よりも濃い色をしており、輝きが感じられる。
彼女のにこやかな顔を見て、重さはあまり感じられない物に見えた。
「それ……何の木?」
「木? これはね、宝石だよー」
「宝石? 石なの?」
「見せるだけなら朝飯前。で、こいつを見てどうしたいんだ?」
シエラからの説明を受け、さらに詳しく聞こうとするジーゴに店主は割って入る。
執拗に頭を下げるジーゴの態度を見て、その道具を見ることが目的ではないと店の主人は感じ取る。
そしてこの道具を見てどうしたいかも薄々感じる。
しかし彼は、このエルフ族の少年がしたいことを主張する手助けはしない。
それは親切というもので、その親切心は、少年と関わる周りの者達やこれから関わろうとする者達全員がそんな思いを持つわけではない。
今後さらに厳しい境遇に囲まれるかもしれない。
その時には過去に当たる、今の自分が見せるわずかな親切心にいつまでもしがみつかれていては、この生を恨みながらこの世と別れる羽目になりかねない。
店主はそんなことを思う。
それに応えたわけではないだろうが、ジーゴは店主の問いに答える。
「これを……やってみたい。小さい頃、爺ちゃんから教わって、何回かやったことがある。多分これからはこんな物を目にすることはないと思うんだ。今ここで一生で最後の……」
「……勝負をしたい、か」
自分の言葉の後を継いだ店主の言葉に、ジーゴははっとして目を見開き、そのままテンシュの顔を見つめる。
そしてゆっくりと大きく頷いた。
それも店主の親切心だろうが、それは単に少年が適当な言葉を知らないだけ。いわば後押しをしただけのこと。
そして店主は少年の意図を知る。
最後の一勝負をして過去の甘い思い出の数々の未練を断ち切る。
その決意に満ち溢れた目であることを感じた。
しかし店主は渋い顔になる。
その思いを聞き入れようと思っても、適当な相手がいない。
店主ももちろん相手は出来るが、実力に差がありすぎたら未練を切るどころか絶望を感じさせないだろうかと、少年の心を案ずる。
かといって逆に少年が相手にしないほど弱い力の者を紹介するわけにはいかない。
「おはよーございまーす。テンシュ、今日は何か目玉になる商品ないっすかー? って、あら、取込み中だったか……」
「……冒険者業引退して次の仕事決まって頑張ってると思ったら、朝っぱらからぶらついて、何やってやがんだお前ら」
「ちょっ。いきなりひでぇな。養成所の教師役っつってもさぁ、出番ってのがあるわけで。それにいい教材とか揃えてるしさ……って、この子は? 俺と同じエルフ……ってピクシー亜種で男の子かよ。珍しいな。だがその格好にこの時間ってこたぁ、訳ありか」
この店の最初の客は五人組。その中で一番背の高い男が事情を察する。
「……それも随分懐かしい物持ってきたわね。……え? ひょっとして、この子、それをやりたがってるの?」
「あぁ、エルフ生最後の一勝負だと。浮浪者生活してたら、娯楽を嗜むどころじゃねぇだぅからな」
五人は神妙な面持ちになる。
娯楽は生きていく上での張りになることもある。
このエルフ族の少年の素性を詳しく知らない五人はそんな建前よりも、今の少年に必要なことを手にすることの方が大切に感じる。
それは、この五人もかつて、似たような体験をし、そして切り抜けてきた経験を持っている。
しかし、自分達を見本にして頑張れなどという綺麗事を言うつもりもない。
この少年には周囲の者の気持ちを慮るほどの余裕はないのが、簡単に予想がついたからだ。
五人は少年に希望する。
今本人に必要な物を手にすることに集中してほしいということを。
そのために余分なことを切り捨てることも大事である。
「じゃあ私が一役買いますか」
五人の中で一番背の低い、ドワーフ族の男が名乗りを上げる。
ドワーフ族はこの世界に住む種族の中では知性などは平均を下回る者が多い。
しかし彼は、獣人の双子の姉妹と共に魔術による支援や、冒険者全体的に見て珍しい、前線にも出られる攻撃魔術の使い手でもある。
それだけ知力や知性が高い。
そしてこの勝負事の心得もある。
ほかの四人は、その少年を労わるような眼で見るが、その男は違った。
例え年端もいかない者であろうが、勝負事とあらば真剣に相手をする。そんな鋭い目つきで少年を見る。
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