異世界きしものがたり ~魔力体力なくても知力で勝負~

網野ホウ

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ピクシー系エルフ種の少年、ジーゴ=トーリュ

過去と決別するための再会

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 ピクシー亜種のエルフ族の十二歳の少年ジーゴ=トーリュはその種族では多くは見ない男児、男性ということで、それまでは同族のみんなから常に気にかけてもらい、そして愛されていた。

「将来は我々一族の大黒柱、いや、長に」

「いいえ、大魔導士、いえ、もっとはるか上位魔術師になってほしいわ」

「魔法も武術も使える魔法戦士に」

「ねぇジーゴ、将来は何になりたい?」

 …… ……

 物心がついて間もない頃、村の外で一人遊んでいたときに偶然見かけたものがあった。
 それは、どこかへと行進していく数多くの兵士達の隊列。
 一部の兵士が身にまとう、白銀の金属の色に見とれていた。
 自然の世界に囲まれた中で生活していく限り、なかなか目にすることのない色。
 初めて見るその色と輝きは、エルフ族の子供の心を支配した。

「あぁ、その人達は『騎士』っていう種類の兵達だね」

「珍しい物を見たねぇ、ジーゴ。あの人達はとても強い。強いけど、この村、森をも守ってくれる優しい人達なんだよ」

 純真な子供の心は単純だが純粋である。
 川の水のように光を帯びる色彩と、「強い」「優しい」の言葉がジーゴの心の中に深く残る。

 …… ……

「んっと、騎士になりたい!」

「騎士? せっかくエルフに生まれたのに、騎士?」

「いや待て。魔法が使える騎士なんて、今まで聞いたことがない」

「ならばこの国で初めて、魔導士並みの魔術師でもある武の達人というわけだな」

「おっと、戦場を駆け巡る天馬にまたがった、というのも忘れちゃいかんぞ」

 ジーゴの周りの大人達の一斉に笑う声が聞こえる。
 少年にはなぜ大人達が笑っているのかは、その時は理解できなかった。

 しかし彼の境遇は暗転する。
 同族の者なら持ってて当然の魔力が全くないということが判明し、七歳のころ一族と家族から生まれ故郷を追い出された。
 姉妹、そして弟もいる。みんな魔力が高く、高位魔術も扱える中で、長男であるジーゴ一人だけ、魔力に関するすべてが出来なかった。
 ジーゴは彼らの一族の突然変異である。

 騎士になるどころではなくなった。
 生命力が比較的低い種族でもある上、危害を加えられたら抵抗する手段がほとんどない子供である。
 家族達と一緒に生活している間、自分達を食料とする魔物も存在することを教えられた。
 一日一日を無事にやり過ごす。その繰り返しの生活がジーゴの目標となってしまった。
 愛する家族達の変貌ぶりに泣き喚き、悲しむどころでもない。
 しかし幸いにも、その危険な時間や場所を察知する力は高く、本人の気持ちはどうあれ、命や健康が奪われるような危険な場面は未然に回避しながら年月を重ねてきた。

 しかしその思いはそんな生活の中でもジーゴの心の中で積もっていく。
 一緒に仲良く生活していたあの頃に戻りたいという望郷の念。
 未だに色あせない、訳も分からずいきなり故郷を追い出された悲しみと恨み。

 しかし今のジーゴには、大人達の力を借りずに生活するための術を身に付けなければならない。
 だが誰からも愛される傾向がある本来の種族の姿とはかけ離れたみすぼらしい身なりの少年には、一般の仕事に就くことは難しい。
 浮浪者の生活を始めたらば、普通の者達の生活に戻ること自体至難の業。
 どこの誰とも分からない者の身寄りを誰が引き取るというのか。

 ジーゴは、魔力がゼロでもなれる可能性がある冒険者になることを目指す。
 幸いその手伝いをしてくれる人がいるという情報を手に入れ、それいらいこの道具屋の主主催の勉強会の参加にこぎつけた。

 楽しかった過去を振り切らねばならない。
 楽しかった思い出を切り捨てなければならない。

 その勉強会の中で、店主の話は横道に逸れる。
 それは、あの楽しかった毎日の中に、思い出の一つとして残っていた娯楽の一つだった。

「……道具を見たい?」

「うん、店主さんの話聞いて、俺もちょっと興味湧いたし。家族と一緒に住んでた頃、おじいちゃんたちもそれをやってて、俺もちょこっとだけ習ったんだ」

 店主は深いため息をつく。

「お前、雑談しか耳に入ってないだろ。今日の勉強の内容は、魔物についての話だったと思うがな」

 雑談の一つが、国民的な娯楽の一つの名称についてだった。店主が関わったことで、それが変更された話を聞かされた。

 店主の元で勉強を続けていけば、冒険者養成所にはいくらかでも入りやすくなる。しかし魔力ゼロという現実は、ジーゴに不安をいつも付きまとわせた。
 過去を捨てたい、そのいいきっかけであるかもしれないが、少しでも心の安らぎがほしいという無意識のうちの欲求が、店主に頭を下げさせたのかもしれない。

 彼の祖父の手ほどきを受けることが出来、この勉強会に来る子供達はあまり関心を持てなかったのは、やはり知力が高いおかげか。

 店主の顔も、迷惑そうな顔から一気に気が抜ける。

「やれやれ。そこまで頭下げるからてっきり無茶な願い事かと思ったら……。シエラ、在庫置き場の奥の方に一組あっただろ。持ってこいや」

「あの試作品のやつですね。表に出すの久しぶりですね」

 四本腕を持つ女性はワクワクしながら店の奥の方に姿を消した。

「あ、あの、試作品って……」

「今日の話聞いてたのか聞いてなかったのかどっちだよ……」

 店主はぼやいた後、ジーゴが頷くのを見て本日二回目の同じ説明を始めた。

 その競技の数ある大会の中で、栄誉ある大会がいくつかある。
 そのうちの一つである大賞戦、いわゆるタイトル戦の一つ、当時国主杯という大会の賞品の製作を手掛けた店主。

 失敗しても予定通り献上できるように、同じものをいくつか途中の工程まで作っていた。
 一つは盗まれたが、残った物の一つを完成まで仕上げ献上。それがもし失敗しても大丈夫なように、競技が出来る形に整えている段階まで一つ作り上げていた。献上した物がそのまま認めてもらい、途中まで作り上げていたそれが一組手元に残すこととなった。

「でも国主杯って聞いたことがない……かな」

「あぁ。今は界王杯に名前を変えている。受賞した者の名前の後に大会の名前が敬称になってるのは知ってるだろ? 俺が住んでた所では、名人とか十段とかあって、氷室名人とか氷室十段とか呼ばれるんだ」

 国主杯だと国主になるわけだが、いわゆる国王の事である。保持者の名前に国主とつくと、国王に無礼ではないかという疑問の声が上がる。
 そこでこの競技の世界の王という意味で界王という名称に変更になった。
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