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「トキオミさん」
不意に名を呼ばれ、そちらを見ると、テオがグラスをこちらに差し出していた。
目があった瞬間に、青い瞳がふっと甘く微笑む。
「聖女様にとってあなたは恩師以上の存在でしょう。でも僕は……。僕にとっては、あなたの価値は計り知れないほどです」
月明かりに浮かぶテオの顔は、イケメンすぎて人間じゃないみたいに見えた。
深くにもドキッとしたことに、俺はちょっと狼狽える。
「トキオミさんは、伝書鳩をご用意したりと、王宮を追われる可能性を、視野に入れてらしたんですね」
「そりゃまぁ……。特にレオンは、隠す気もなくうざがってたからな」
「それで、聖女様に言葉の教育だけでなく、他にも色々ご指導されたんですね」
「なんもやれてねぇよ」
「しかし、周辺各国の歴史や、現在の政治状況まで、常に把握されるようにご指導されていたじゃありませんか」
「そりゃ、俺が知りたかったから、聖女様のご威光を借りて、情報収集してただけさ。……結局、凡ミスで王宮から追放された」
ちょっとエールが回ってきたかもしれない。
俺は、言う必要もないことを、考えるより先に喋ってるな……と、ぼんやり頭の隅で考えた。
「いいえ。トキオミさんは知恵と知識で、聖女様を守る盾をお作りになりました。トキオミさんのご指導があったからこそ、聖女様は現在、政治的に強固な地盤を作られています」
「あの能天気娘、頑張ってんだな」
「聖女様は、現在19歳。立派な成人です」
「誇らしいなぁ……」
「あなたのご指導の結果です。王家を頼ればこっちが利用されて、必ず最後は泣きを見る……と仰った言葉を胸に、トキオミさん追放後に中立派の貴族や教会と信頼関係を築き、今や "聖女派" の地盤をしっかり固めておいでです」
テオが、熱っぽく語る。
早くもエールに酔ったのか……?
「なんだい、なんだい。全然しっぽりしてないね」
ジャリジャリと母屋から足音が聞こえ、マダムが顔を出した。
「こんばんわ、マダム」
この時期、俺が外で晩酌していると、マダムもやってきて二人で飲むのは定番化している。
もっとも、今夜は完全に野次馬根性で様子を見に来ただけだろうが。
「マダムのエール、とても美味しいですね」
「なかなか口が上手いね、坊や。だけど、そのエールを仕込んだのは、そこの "先生" さね」
「トキオミさんが、エールを?」
「そうさ。男手が出来たんだ、畑作業だけじゃもったいないだろう」
マダムは相変わらず「イッヒッヒッ」と笑いながら言った。
「婆さん、座るかい?」
「とんでもありません。席を譲るなら、僕の方を……」
俺がマダムに椅子を明け渡そうとしたら、テオが立ち上がった。
「トキオミさんは、働き者でしょう?」
「細っこいもやしなことをのぞけば、いい拾いモンだよ」
カップにエールを注ぐと、マダムはそれをグッと飲み干した。
「そんで? いつ出ていくんかね?」
「トキオミさんが村を出ることを、なぜご存知なんですか?」
「あんたみたいなキラキラの色男が来て、昔話に花を咲かせて帰るってこともなかろうよ。もっとも、そんなもやしから何を教わったのやら、興味はあるさね」
「トキオミさんは、村でも先生と呼ばれているように見えましたが?」
「村の小僧っ子どもに読み書きを教えるのと、あんたみたいな王都できちんと教養を身につけられる立場のモンと、一緒にしちゃあいけないよ」
さすがは村の見識者、見るトコは見てるな。
「トキオミさんからは、人生の歩き方を教わりました」
「こんなもやしから、人生を……かね?」
「教養を押し付けられた子供が、それをどう扱うべきかを示してくださった方です」
「よせよ……」
小っ恥ずかしくなって、俺はロッキングチェアに深く座り込む。
「そりゃ確かに、もやしにしか教えられないことだわな」
いつもと違い「フヒャヒャヒャヒャ」とマダムは笑った。
不意に名を呼ばれ、そちらを見ると、テオがグラスをこちらに差し出していた。
目があった瞬間に、青い瞳がふっと甘く微笑む。
「聖女様にとってあなたは恩師以上の存在でしょう。でも僕は……。僕にとっては、あなたの価値は計り知れないほどです」
月明かりに浮かぶテオの顔は、イケメンすぎて人間じゃないみたいに見えた。
深くにもドキッとしたことに、俺はちょっと狼狽える。
「トキオミさんは、伝書鳩をご用意したりと、王宮を追われる可能性を、視野に入れてらしたんですね」
「そりゃまぁ……。特にレオンは、隠す気もなくうざがってたからな」
「それで、聖女様に言葉の教育だけでなく、他にも色々ご指導されたんですね」
「なんもやれてねぇよ」
「しかし、周辺各国の歴史や、現在の政治状況まで、常に把握されるようにご指導されていたじゃありませんか」
「そりゃ、俺が知りたかったから、聖女様のご威光を借りて、情報収集してただけさ。……結局、凡ミスで王宮から追放された」
ちょっとエールが回ってきたかもしれない。
俺は、言う必要もないことを、考えるより先に喋ってるな……と、ぼんやり頭の隅で考えた。
「いいえ。トキオミさんは知恵と知識で、聖女様を守る盾をお作りになりました。トキオミさんのご指導があったからこそ、聖女様は現在、政治的に強固な地盤を作られています」
「あの能天気娘、頑張ってんだな」
「聖女様は、現在19歳。立派な成人です」
「誇らしいなぁ……」
「あなたのご指導の結果です。王家を頼ればこっちが利用されて、必ず最後は泣きを見る……と仰った言葉を胸に、トキオミさん追放後に中立派の貴族や教会と信頼関係を築き、今や "聖女派" の地盤をしっかり固めておいでです」
テオが、熱っぽく語る。
早くもエールに酔ったのか……?
「なんだい、なんだい。全然しっぽりしてないね」
ジャリジャリと母屋から足音が聞こえ、マダムが顔を出した。
「こんばんわ、マダム」
この時期、俺が外で晩酌していると、マダムもやってきて二人で飲むのは定番化している。
もっとも、今夜は完全に野次馬根性で様子を見に来ただけだろうが。
「マダムのエール、とても美味しいですね」
「なかなか口が上手いね、坊や。だけど、そのエールを仕込んだのは、そこの "先生" さね」
「トキオミさんが、エールを?」
「そうさ。男手が出来たんだ、畑作業だけじゃもったいないだろう」
マダムは相変わらず「イッヒッヒッ」と笑いながら言った。
「婆さん、座るかい?」
「とんでもありません。席を譲るなら、僕の方を……」
俺がマダムに椅子を明け渡そうとしたら、テオが立ち上がった。
「トキオミさんは、働き者でしょう?」
「細っこいもやしなことをのぞけば、いい拾いモンだよ」
カップにエールを注ぐと、マダムはそれをグッと飲み干した。
「そんで? いつ出ていくんかね?」
「トキオミさんが村を出ることを、なぜご存知なんですか?」
「あんたみたいなキラキラの色男が来て、昔話に花を咲かせて帰るってこともなかろうよ。もっとも、そんなもやしから何を教わったのやら、興味はあるさね」
「トキオミさんは、村でも先生と呼ばれているように見えましたが?」
「村の小僧っ子どもに読み書きを教えるのと、あんたみたいな王都できちんと教養を身につけられる立場のモンと、一緒にしちゃあいけないよ」
さすがは村の見識者、見るトコは見てるな。
「トキオミさんからは、人生の歩き方を教わりました」
「こんなもやしから、人生を……かね?」
「教養を押し付けられた子供が、それをどう扱うべきかを示してくださった方です」
「よせよ……」
小っ恥ずかしくなって、俺はロッキングチェアに深く座り込む。
「そりゃ確かに、もやしにしか教えられないことだわな」
いつもと違い「フヒャヒャヒャヒャ」とマダムは笑った。
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