時の情景

琉斗六

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 月明かりと、納屋が燃える明かりで、周囲は驚くほど見渡せる。
 襲撃者達は、不利を悟ったのか、突然きびすを返して撤退していった。

「マダムッ!」
「うるさいね、生きてるよ」

 腕の中の、小さな老婆がそう言った。

「トキオミさん」

 敵襲が去ったことを確認してから、テオが俺達の傍に戻ってきた。

「失礼します」
「こんな婆さん相手に、淑女レディ扱いとか、本当におもしろい坊やだよ」

 マダムは「イッヒッヒッ」と笑ってから、「あいたたた……」と呻いた。

「とりあえず、僕の回復魔法を掛けます」

 とはいえ、結構深めにざっくりと肩口を切られている。
 回復魔法は、要は新陳代謝を上げて傷を塞ぐじゅつなので、がっつり全回復を掛けると、負傷者の体に負担が掛る。
 テオは出血をめるにとどめて、マダムを母屋に運んだ。

「納屋は離れているが、火の粉がこっちに飛んできても困るからな」

 マダムの身はテオに任せ、俺はマダムの家の倉庫からオノを持って出て、納屋に向かった。
 ちびちびと快適な家を作っていたのに、全部燃えちまってる。
 俺は、壁だの柱だのをオノでバンバン殴りながら、ちょっと泣いてしまった。

「具合は、どうだ?」

 納屋を叩き壊して母屋に戻ると、テオはそこでウロウロしていた。

「あの、ダンディは?」
「はあ?」

 俺が傍に行くと、テオはマダムの薬草コレクションの瓶を持って、振ったり透かしたりしている。

「プーランターンとダンディって、どれでしょう?」
「なんだ、毒消し作るのか?」
「ご存知なんですかぁ!」

 天の助けとばかりに、テオが泣きそうな顔で笑った。

「なんで、毒消し?」
「暗部のナイフですから、毒の危険はあって当然と思います。それに、ちょっと傷が腫れているように感じて……。でもそれを言ったら、マダムがプーランターンとダンディと……」
「プランテンとダンデライオンだ。マダムは意識があるのか?」
「あります。……まだ毒の症状も出ていません」
「暗部の使いそうな毒って、フツーに毒消し利くのかな?」
「ポイズンバタフライの鱗粉を使われると厄介ですが、目的が誘拐なので、痺れ薬程度だと思います」
「痺れ毒なら、解毒より水を飲ませて汗をかかせるほうがいい。ロケットストーブは燃えてないから、持ってこよう。あと、暖炉に火を入れて。お湯を沸かして室内を温めよう」
「はいっ!」

 なんかやけに嬉しそうに、テオがハキハキ返事して、薪を取りに走っていった。

「マダム、生姜とはちみつの茶だ。どんどん飲め」
「なんだい。婆さんになにをさす気だい? 早く毒消し持ってきな」
「腹痛の子供じゃねぇんだ。暗部の毒は、痺れだろうってさ。どんどん水分取って汗かきな」

 夕涼みが、とんだ我慢大会にすり替わってしまった。
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