時の情景

琉斗六

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7-1:旅立ち

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 いきなり、頭を叩かれた。

「さっさと起きな! おっさん!」
「あだっ!」

 マダムの容態を見守っているつもりで、俺はいつの間にか眠っていたらしい。

「ヒデーな、なにすんだよ?」
「こんなところで、モタモタしてんじゃないよ。さっさと支度しな」
「支度? なんの?」
「あんたらの出立のための支度だよ」

 俺とマダムが話をしていたら、テオが顔を出した。

「どうしたんですか?」
「色男も言ってやんなよ。おっさん、さっさと旅支度しろって」
「おい、マダム。あんたもしかしたら、腕が上がらなくなるかもしれないんだぞ?」

 俺は医者の知識はほぼない。
 が、人体解剖図のようなものは、授業でやらねばならないので知識としてはある。
 回復魔法で神経はつなげたと思うが、切れた筋肉まで繋がってるかどうかは、かなり怪しいだろう。

「はんっ! 今更じゃないよ。なんにもしてなくたって、この年齡としになりゃ、年中どっか痛いに決まってんだろ」

 マダムは俺からテオに視線を移した。

「色男。あんたの考えをはっきり言いな。あの連中、戻って来る可能性ありそうなのかい?」

 微かに、テオは眉根を寄せる。

「……来る……と思います」
「そうだろう? あたしもそう思うよ。おそかれ、ハヤかれ、また来るに決まってる。あんたがここに踏ん張ってるほうが、モメゴトがデカくなるんだよ」
「だが……、せめて朝になって、村長にマダムの世話を頼んで……」
「だからあんたはバカタレだって言うんだよ!」

 ビシッとどやしつけられて、俺は黙る。

「ごちゃごちゃと、御託を並べてんじゃないよ! そこの棚と、あっちの棚と、それと向こうの倉庫の非常食、持てるだけ持って行くんだよ! 暗黒の森を抜けるなら、魔獣避まじゅうよけの香油も忘れずにね!」

 俺は迷った。
 そして、意見を求めるようにテオを見る。

「僕も、マダムの意見に賛成です。……トキオミさんが、明日の朝までと仰っていたので、警戒してやり過ごすつもりですが。次は村に火を放つ危険もありますから」
「ほらみな!」

 マダムが「イッヒッヒッ」と勝ち誇ったように笑った。

「分かった。……じゃあ、扉の所に、マダムが怪我してる伝言を残していこう」

 結局、荷造りをして早朝に俺とテオは、マダムの家を旅立った。
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