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その夜、辺境伯の居城は静まり返っていた。
厚い石壁と武装した兵が守るこの場所に、外敵が忍び寄るなど、常ならば考えられない。
「テオ、寝ずの番をするのか?」
「油断は出来ません。森で襲ってきた影が一人だったとは言い切れませんし、僕らが辺境伯を頼ることは、向こうも想定済みでしょう」
「なら、交代とか……」
「いいえ。トキオミさんは休んでください。森を歩いてお疲れでしょう?」
そういって、テオは窓辺に立っている。
なんとなく俺も窓の外を見た。
中庭を照らす篝火は、警戒に回る兵の影をゆらゆらと地面に描いている。
こんなに兵が見張ってるのに、テオが見る必要あんのかな……? と俺が思った時。
「来ました……」
声を潜めて、テオが言った。
「えっ、どこに?」
「あそこの城壁の影に潜んでいます」
ジイッと目を凝らしても、俺にはよくわからない。
だが、俺が身を乗り出す前に、竜舎の方角から爆発音が聞こえた。
「奇襲かっ?」
「いえ、誘導でしょう」
テオはロングソードを抜き、廊下からは人の声が聞こえる。
「ああ、野宿の翌日、ベッドで寝られると思ったのに……」
俺はショルダーバッグを手に取ると、肩に掛けた。
突然、窓を破って黒装束が部屋に乱入してくる。
城壁の影に潜んでいた賊を看破していただけあって、テオは即座に相手を斬り伏せた。
「この部屋にいると、知ってるようですね」
「物置小屋に泊めてもらったほうが、寝られたかもな」
部屋の扉を、激しくノックされる。
テオは身構えたが、即座に外から声がした。
「失礼する!」
扉が開き、兵を連れた辺境伯が立っていた。
手には血濡れの剣を持っている。
「敵襲だ。安全な部屋に案内する」
出た廊下に敵影はなかったが、剣撃と声が聞こえてくる。
「多いのですか?」
「数の問題ではない。この辺境伯の居城に仕掛けるバカがいたことが問題なのだ」
先頭に辺境伯、周りを兵が囲み、俺達は "安全な部屋" へ案内された。
「なあ、テオ。肩を抱いてる必要はないんじゃないか?」
「どこから敵襲が来るかわかりませんから」
そんなキリッとした顔で言われてもなぁ。
囲んでくれてる兵が、不審な顔してちらちらこっち見てんだよ……。
「むっ!」
辺境伯が、剣で飛んできた短剣を叩き落とした。
窓から、敵が数人現れた。
「トキオミさん、僕の後ろに」
さっと、滑らかな動きでテオが俺を背後へとかばう。
護衛として当然──なのかもしれないが。
キラキラの美青年が、騎士さながらに背後にかばってるのが、この冴えないおっさんってのが、全く絵にならない。
「だあっ!」
乱戦になり、黒装束の一人が囲みを破って俺にナイフを振り下ろした。
思わず腕を上げると、微かな痛みと衝撃が腕に当たる。
刃先が腕時計の金属バンドで弾かれたおかげで、刃の当たった袖が裂けただけで済んだ。
だがなにかが当たったのか、見ると文字盤のガラスにヒビが入っていた。
一瞬、贈ってくれた妻の笑顔が脳裏をかすめる──。
「くそっ!」
俺はショルダーバッグを掴むと、それで相手の胴を思いっきり殴りつけた。
亡き妻に贈ってもらったハミルトンの "ジャズマスター・オープンハート" 。
こっちに来た時に止まってしまったガラクタの仲間だが、どうしても外す気になれなかった俺の "未練" だが。
同時に、それだけ思い入れの強かった品だから、無性に腹が立ってしまった。
「ぐあっ!」
とは言え、恨みを込めて振り回した鞄も、そういえば妻からの贈り物だったことを思い出す。
「つまらぬ者を殴っちまったよっ!」
よろめいた賊は、テオが一撃で斬り伏せる。
「お見事」
「小娘みたいに、ビビってる場合じゃないからな」
半ば開き直って、俺は答えた。
厚い石壁と武装した兵が守るこの場所に、外敵が忍び寄るなど、常ならば考えられない。
「テオ、寝ずの番をするのか?」
「油断は出来ません。森で襲ってきた影が一人だったとは言い切れませんし、僕らが辺境伯を頼ることは、向こうも想定済みでしょう」
「なら、交代とか……」
「いいえ。トキオミさんは休んでください。森を歩いてお疲れでしょう?」
そういって、テオは窓辺に立っている。
なんとなく俺も窓の外を見た。
中庭を照らす篝火は、警戒に回る兵の影をゆらゆらと地面に描いている。
こんなに兵が見張ってるのに、テオが見る必要あんのかな……? と俺が思った時。
「来ました……」
声を潜めて、テオが言った。
「えっ、どこに?」
「あそこの城壁の影に潜んでいます」
ジイッと目を凝らしても、俺にはよくわからない。
だが、俺が身を乗り出す前に、竜舎の方角から爆発音が聞こえた。
「奇襲かっ?」
「いえ、誘導でしょう」
テオはロングソードを抜き、廊下からは人の声が聞こえる。
「ああ、野宿の翌日、ベッドで寝られると思ったのに……」
俺はショルダーバッグを手に取ると、肩に掛けた。
突然、窓を破って黒装束が部屋に乱入してくる。
城壁の影に潜んでいた賊を看破していただけあって、テオは即座に相手を斬り伏せた。
「この部屋にいると、知ってるようですね」
「物置小屋に泊めてもらったほうが、寝られたかもな」
部屋の扉を、激しくノックされる。
テオは身構えたが、即座に外から声がした。
「失礼する!」
扉が開き、兵を連れた辺境伯が立っていた。
手には血濡れの剣を持っている。
「敵襲だ。安全な部屋に案内する」
出た廊下に敵影はなかったが、剣撃と声が聞こえてくる。
「多いのですか?」
「数の問題ではない。この辺境伯の居城に仕掛けるバカがいたことが問題なのだ」
先頭に辺境伯、周りを兵が囲み、俺達は "安全な部屋" へ案内された。
「なあ、テオ。肩を抱いてる必要はないんじゃないか?」
「どこから敵襲が来るかわかりませんから」
そんなキリッとした顔で言われてもなぁ。
囲んでくれてる兵が、不審な顔してちらちらこっち見てんだよ……。
「むっ!」
辺境伯が、剣で飛んできた短剣を叩き落とした。
窓から、敵が数人現れた。
「トキオミさん、僕の後ろに」
さっと、滑らかな動きでテオが俺を背後へとかばう。
護衛として当然──なのかもしれないが。
キラキラの美青年が、騎士さながらに背後にかばってるのが、この冴えないおっさんってのが、全く絵にならない。
「だあっ!」
乱戦になり、黒装束の一人が囲みを破って俺にナイフを振り下ろした。
思わず腕を上げると、微かな痛みと衝撃が腕に当たる。
刃先が腕時計の金属バンドで弾かれたおかげで、刃の当たった袖が裂けただけで済んだ。
だがなにかが当たったのか、見ると文字盤のガラスにヒビが入っていた。
一瞬、贈ってくれた妻の笑顔が脳裏をかすめる──。
「くそっ!」
俺はショルダーバッグを掴むと、それで相手の胴を思いっきり殴りつけた。
亡き妻に贈ってもらったハミルトンの "ジャズマスター・オープンハート" 。
こっちに来た時に止まってしまったガラクタの仲間だが、どうしても外す気になれなかった俺の "未練" だが。
同時に、それだけ思い入れの強かった品だから、無性に腹が立ってしまった。
「ぐあっ!」
とは言え、恨みを込めて振り回した鞄も、そういえば妻からの贈り物だったことを思い出す。
「つまらぬ者を殴っちまったよっ!」
よろめいた賊は、テオが一撃で斬り伏せる。
「お見事」
「小娘みたいに、ビビってる場合じゃないからな」
半ば開き直って、俺は答えた。
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