時の情景

琉斗六

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9-1:領都

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 その後、辺境伯の領都まで、襲撃はなかった。

「森の中での襲撃は、捜索していたものが独断で襲ってきたのかもしれませんね」
「だがそれなら、ここにも目が光ってるんじゃないのか?」
「はい。辺境伯様は聖女派の筆頭なので大丈夫ですが、身の危険はあると思います。警戒して行きましょう」

 辺境伯の領都は、頑丈な石壁で囲まれた武装都市だ。
 ノルヴェリオ王国は、聖女の結界によって守られている国だが、その結界も絶対ではない。

 げんに聖女が失われたのち、如月を召喚するまでの間、結界はしばらく維持されていた。
 如月が魔力でコントロールが出来ると結論付けたのも、つまりは聖女の "気合い" 次第で、結界の強度や維持される時間がどうにか出来ると考えたからだろう。

「しかし、結界の端っこに位置するなら、むしろこの辺りの領主は聖女と敵対しそうだけどな」

 綻びが生じた時に、最初に被害を受けるのは端っこと相場は決まってる。
 故に結界の端になる辺境域の貴族は、結界に頼らず武力を磨いているのだ。

「聖女様が、辺境域に手厚いサポートを考えてくださいました。なにかがあった時に、被害が出た地域に援助金をすぐに出せる法案や、日頃から冒険者や武芸に秀でたものを育成するための助成金じょせいきんなどです」
「国王は、クーデターを心配して、辺境域が武力を持つことを嫌がってなかったっけ?」

 少なくとも、俺たちが召喚された直後、辺境域の貴族たちにいい顔をされた記憶はない。

「しかし聖女様は、もし本当にクーデターが起きたとしても、それに対処ができるように結界を工夫する方法を考えたのです」
「どんな?」
「結界の綻び事件のあと、聖女様は結界のコントロールをずいぶん思案されておりました」

 辺境伯の居城は、入口に兵が立っていたが。
 テオが所持する "イージス" の家紋が入った剣を提示すると、すんなりと通してもらえた。

「テオは騎士爵を弟に譲ったんだろう? その剣は?」
「この剣は現当主ではなく、一度でもイージスを名乗ったものが持つ証です」
「あー、ご隠居様の印籠いんろうか……」
「インロー?」
「なんでもない。行こう」

 俺たちは、応接室なんだか待合室なんだかわからんが、とにかく豪勢だが生活感のまるでない部屋に通された。

「凛様は現在、結界を複数張っておられます」
「なんのために?」
「結界の内側でクーデターの計画を立てられてしまうと、悪意あるものを寄せ付けない効果が意味をなしません。けれど、辺境から王都までに結界が複数あれば……」
「辺境でクーデターを企んでも、王都にはハイれないってわけか。なるほど、それで王は、辺境への支援金を断れなくなったんだな」
「そうです」

 話しているところに、文官が入ってくる。

「失礼いたします」

 テオが立ち上がり、文官と話をしてから俺に手招きをした。

「トキオミさん、お部屋一緒でいいですか?」
「はぁ? 騎竜を借りて、すぐに出るんじゃなかったのか?」
「日が暮れかけているから、危険ですし。今日はお忙しいので、辺境伯様にご挨拶ができませんが、一言もなしに素通りはできませんから」

 そう言われては仕方がない。

「分かった。……でもなんで、同じ部屋?」
「昨日のこともありますし、トキオミさんを一人にしておくのが心配です。護衛としても、当然の選択かと……」
「むしろ、野営の翌日だから、一人でぐっすり眠りたい」
「そこまで拒絶されると、ちょっと傷つきます。……昔は一緒に寝た仲なのに……」
「語弊のある言い方をするなよ」

 ふふっと、テオが笑う。

「とにかく、俺は個室を要求する!」
「お気持ちはわかりますが、却下します」

 ニッコリと笑うテオに、俺はただもう不満な顔をするほかなかった。
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