時の情景

琉斗六

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 冒険RPGというか、アクションゲームというか、とにかく視覚に頼るのは不安しか感じないが、道を進むと先に道が現れる。
 恐る恐る街道を進むと、道端に人がぼとぼと倒れていた。

「息は……あるな」
「気を失っているようです」

 商隊の竜車りゅうしゃでは、引いてる竜も眠っていた。
 暫く進むと王都の入口が見えてくる。
 幸いにして、門は開いていて、門番は眠っていた。

「俺はフィリップ王子かよ……」
だれですか、それ?」
「あ~……」

 特に危険もないし、王城への道を進む間、ほぼ暇つぶしに、俺は "眠れる森の美女" のストーリーをテオに語った。

「駄目ですよ!」

 話の最後に差し掛かったところで、テオが突然そう言った。

「なにが?」
「トキオミさんが凛様にキスなんて、絶対駄目です」
「教師の俺が、教え子の如月にキスなんてするわけないだろう」
「例え、凛様の目覚めにキスが必要だったとしても、しては駄目です」
「……なんのこと?」
「トキオミさんのキスは、僕のものです。聖女の凛様にだって、譲れません!」
「いや、これは例えばの話だし。如月にもテオにも、キスはしないし」
「しないんですか!」
「しねぇよ」
「それは、残念です」

 がっかりした犬みたいな目で、こっち見んのやめろ。

「城が見えてきましたね」
「門は締まってるな」

 流石に王城の門は開けっぱなしにしていない。
 が、俺たちが傍に行くと、自動ドアみたいに扉がスーッと開いた。

「如月の心のままに……って感じか?」
「キスはしちゃ駄目ですよ」
「しねぇっつってんだろが」

 城内も視界は変わらず、半径二メートルぐらいしか見えない。

「如月の部屋の位置は、離宮の二階……だったか?」
「はい。変わったと聞いてませんので、同じ場所かと」

 追放前にさんざん歩き回った場所だから、案内がなくてもどこになにがあるかは覚えている。
 そして俺たちは、如月の部屋の傍まで来たのだが……。

「廊下に誰か、倒れてるな」
「レオン殿下と、近衛の護衛と、側近ですね」

 廊下に伏しているレオンは、皆と同じく気を失っているだけで息はある。
 俺はとりあえず如月の部屋の扉をノックした。
 だが、反応はない。
 テオと顔を見合わせて、俺は扉に手を掛けた。

「開かねぇな……」

 俺は、今度はかなり強めに扉を叩いた。

「おおい、如月。俺だ、榎戸だ!」

 反応はやはりない。

たい当たりして、開くかな?」
「わかりませんが、まずは僕が」
「いや、テオだけに任すのは悪い。同時にやろう」

 テオは俺に物理的なアクションをさせるのを嫌がったが、俺もそこは譲らなかったので、二人で一緒に扉に体当りすることにした。

「せぇーのぉ!」

 二人で扉に突進した瞬間、パカッと両開きの扉が開く。

「うおわっ!」
「おっと……」

 テオは素晴らしい体幹たいかんバランスでちょっとよろめいただけで踏みとどまったが──。
 俺は無様に床に転がった。

「エノセン?」

 ベッドの下から声がする。

「如月? どこだ?」
「エノセーーーン!!!」

 ベッドの下から飛び出してきた如月は、弾丸みたいに俺のみぞおちに一撃をくれた。

「ぐふっ!」
「会いたかったぁぁぁぁ!!」

 数年ぶりに見る教え子は、少女の面影を残しつつも、すっかり大人の女性になっている。
 だが、ナリ・・はかなり酷かった。
 ベッドの下に隠れるために、クリノリンを外す必要があったのだろうが。
 それにしたって、これは貴族の子女の "下着姿" だ。

「如月……その格好で俺に抱きつくのは不適切だ……」
「うええええええっ! エノセン~~~~~!」

 この異世界では16歳で、日本にしたって今や18歳で成人と認められる。
 それが涙と鼻水をグリグリと俺のシャツにこすりつけながら、わんわんないているのに、全く困ってしまった。

「わかった、わかった。うっかり追放されて、すまんかった」
「エノセンは悪くないよぅぅぅぅぅ! でも、あいだがっだぁぁぁぁ!」
「凛様! トキオミさんが死んでしまいますよ!」

 別にシヌほど締め上げられたわけではないが、テオは如月を──かなり乱暴にベリッと俺から引っ剥ひっぺがした。

「うえっ? あ、テオ!」

 如月は、テオにも飛びついて──。
 俺のよりも遥かに高級な魔獣まじゅう素材でできているだろうテオの服にも、全く容赦なく涙と鼻水をこすりつけている。

「おい、如月。一体なにがあったんだ? 王都の人間が倒れてるのはおまえの所為か?」

 ようやく床から立ち上がった俺は、テオに顔をグリグリしている如月の頭を撫でた。

「はえ?」

 こっちを向いた顔があんまりひどいので、鞄の中からポケットティッシュを出してやる。

「うわあ! 懐かしい感触ぅ~~~!」

 ビームと鼻をかみ、次に渡した男物の木綿のハンカチでぐりぐりと顔を拭ってから、如月は改めて俺を見る。

「エノセン、久しぶり」
「ああ、三年ぶり……か?」

 ぐすんっと鼻をすすって、如月がニコッと笑った瞬間。
 振動と言うか、音と言うか──。
 とにかく、全身にぶわんっと衝撃を感じてハッと見回すと "半径二メートル" の壁が消え失せている。
 窓の外には王都の街並みが、その向こうには青空を含めた広い景色が見えた。

「結界が……薄れましたね」

 やれやれだ……。
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