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16、心臓を狙え
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「石男の存在を維持するエネルギーの中核は心臓が担っている。だから、頭や首を破壊したところでやつは死なない。五大原理の力を使っても、やつの強靭な胸部を突き破り、心臓を貫くことは容易じゃない。だから、1人で戦おうとするやつがいたら、そいつはばかだよ」
流太はケラケラ笑った。
「まさか入りたてのひよこが突然ニワトリになるなんて誰も思っちゃいない。だから安心しな。今のあんたには何も期待してないし、できない仕事は任せない。必要以上に責任を感じることもない」
そう言われてほっとしたのも束の間、
「それじゃあ今のおさらいといこう」
と言って流太は指を立てた。
「五大原理の種類はそれぞれなんと言う」
「引、斥――」
「んん?」
「渦……」
言葉はどんどん小さくなっていく。
「すぐ覚えられませんよ」
「20元素暗記するより簡単だと思うけど?」
流太はニタリと笑った。
空雄は流太の指導の下、竹林の中で素振りを5時間続けた。高校生活は運動部に所属していなかったので、この素振りだけで早くも太ももや両腕がプルプル震えていた。
「最小限で力を発揮する方法を考えろ。いずれ24時間後には戻る体、どんなに鍛えたって体力はつかない。だから今ある体力を可能な限り駆使し、こつだけでのびしろをつけろ」
大事なことを忘れていた。24時間後に体がリセットされると言えば聞こえはいいが、つまり、どんな体力トレーニングも意味をなさないということだ。腹筋も、スクワットも、走り込みも、柔軟体操も……
「これ、意味ないんですか?」
「体力的にはね」
はっきり言われ、途方もないむなしさを覚えた。こんなことなら、運動部に入って基礎体力くらいつけておくべきだった。
「全てはこつをつかむための訓練だ。じゃあ聞こう。どうして人は、練習すれば絵がうまくなる? 勉強すれば、テストで成績を上げることができると思う?」
「覚えるからです」
流太がうなずいたのでほっとした。彼は人差し指を自分の頭に当てた。
「人は頭で考え、学び、次へ生かすことができる。もちろんスポーツや運動には体力がいるけど、重要なのは思考力だ。俺たちは、体力こそ積み重ねられないけど、思考は積み重ねられる。それに、猫戦士には特別に与えられた猫拳という能力や猫特有の身体能力がある。そういうのを合わせ、活用すれば大丈夫」
空雄は流太が家々の屋根を軽やかに飛んでいく姿を思い出した。確かにそうだ。24時間でリセットというデメリットばかり考えてはいけない。
「よし、じゃあ跳躍を教えるよ。さっそくだけど、あのやぐらまで飛んでごらん」
空雄は指さされた先にある木製のやぐらを見た。高さは6メートルほどありそうだ。
空雄は助走をつけてやぐらに走った。走り高跳びをする感覚で地面を蹴りつけ、心はやぐらのてっぺんに向かっていた。(心は)。
あれ? おかしいぞ。さっそく違和感に気付く。体は軽々と宙を飛び、しっぽは無自覚にバランスを取っている。地面は遠ざかり、大跳躍してやぐらのてっぺんまで到達していた。恐る恐る下を見ると、手を振る流太が小さく見えた。自分が飛んだのか? 正直飛べると思っていなかったので空雄は数秒固まった。
「よくできました」
パチパチと拍手する流太。
「流太さん!」
「なに?」
「空、飛びました!」
「飛んだねー」
ふと自分に憑依した白丸という猫の存在が頭にチラつく。この力も、白丸から由来したものなのだろうか。
「下りてこられる?」
6メートル先にある地面を見て空雄は萎縮した。高所恐怖症ではないが、恐怖で柱にしがみついたまま身動きが取れなくなった。
「無理です!」
なんとも情けない。柱にしがみついて待っていると、流太がひょいと上がって空雄を脇に抱え着地した。
「怖くないんですか?」
「ぜんぜん? 楽しいよ。人間だった頃にはできなかったことができるしね。それじゃあ次はそうだな、瓦割りをしよう」
なぜ、そんな痛そうなことをしなければいけないのだ。空雄はもはや逃げ腰になりながら流太に引きずられていた。着いたのは神社の裏手にある古びた小屋で、そこにはいくつもの古い瓦が積み重ねられていた。
「これ、いらない瓦で処分に困ってるらしいんだよね。だから、訓練がてらここで猫拳の練習に使ってるわけ。さっき教えた素振りと似た感じだよ」
試しに瓦を触ってみると、案の定硬い。そんな瓦を、流太は目の前でパァン! と破壊。一瞬、彼の手の内側が黒っぽく光ったように見えた。
「やってごらん。力を均等に、振り下ろす感覚だ」
空雄は瓦の前に立ちすーっはぁーっと盛大に息をした。右拳に力を込めて勢いよく振り下ろす! ガンッ、という鈍い音と同時に激痛が拳を襲い、空雄はうずくまって立てなかった。
「力を発動している間、拳は硬化作用によって硬くなる。どんな刃でさえ欠けさせるほどにね。今のは、ちゃんと硬化できてないから痛いんだ」
なんだか無性に悔しく感じた。1枚も割れなくてどうする。気合と根性を糧に空雄は瓦に拳を振り下ろし続けた。しかし、1時間たっても瓦は1枚も割れなかった。痛みもあるが、拳は切れて血がにじんでいた。流太の言う通り硬化ができていない証拠だった。疲れ切ったところで猫屋敷に戻りご飯を食べた。ここでは朝昼晩特に決まった時間にご飯は食べないらしく、好きな時に好きな物を食べるのが普通だった。
流太はケラケラ笑った。
「まさか入りたてのひよこが突然ニワトリになるなんて誰も思っちゃいない。だから安心しな。今のあんたには何も期待してないし、できない仕事は任せない。必要以上に責任を感じることもない」
そう言われてほっとしたのも束の間、
「それじゃあ今のおさらいといこう」
と言って流太は指を立てた。
「五大原理の種類はそれぞれなんと言う」
「引、斥――」
「んん?」
「渦……」
言葉はどんどん小さくなっていく。
「すぐ覚えられませんよ」
「20元素暗記するより簡単だと思うけど?」
流太はニタリと笑った。
空雄は流太の指導の下、竹林の中で素振りを5時間続けた。高校生活は運動部に所属していなかったので、この素振りだけで早くも太ももや両腕がプルプル震えていた。
「最小限で力を発揮する方法を考えろ。いずれ24時間後には戻る体、どんなに鍛えたって体力はつかない。だから今ある体力を可能な限り駆使し、こつだけでのびしろをつけろ」
大事なことを忘れていた。24時間後に体がリセットされると言えば聞こえはいいが、つまり、どんな体力トレーニングも意味をなさないということだ。腹筋も、スクワットも、走り込みも、柔軟体操も……
「これ、意味ないんですか?」
「体力的にはね」
はっきり言われ、途方もないむなしさを覚えた。こんなことなら、運動部に入って基礎体力くらいつけておくべきだった。
「全てはこつをつかむための訓練だ。じゃあ聞こう。どうして人は、練習すれば絵がうまくなる? 勉強すれば、テストで成績を上げることができると思う?」
「覚えるからです」
流太がうなずいたのでほっとした。彼は人差し指を自分の頭に当てた。
「人は頭で考え、学び、次へ生かすことができる。もちろんスポーツや運動には体力がいるけど、重要なのは思考力だ。俺たちは、体力こそ積み重ねられないけど、思考は積み重ねられる。それに、猫戦士には特別に与えられた猫拳という能力や猫特有の身体能力がある。そういうのを合わせ、活用すれば大丈夫」
空雄は流太が家々の屋根を軽やかに飛んでいく姿を思い出した。確かにそうだ。24時間でリセットというデメリットばかり考えてはいけない。
「よし、じゃあ跳躍を教えるよ。さっそくだけど、あのやぐらまで飛んでごらん」
空雄は指さされた先にある木製のやぐらを見た。高さは6メートルほどありそうだ。
空雄は助走をつけてやぐらに走った。走り高跳びをする感覚で地面を蹴りつけ、心はやぐらのてっぺんに向かっていた。(心は)。
あれ? おかしいぞ。さっそく違和感に気付く。体は軽々と宙を飛び、しっぽは無自覚にバランスを取っている。地面は遠ざかり、大跳躍してやぐらのてっぺんまで到達していた。恐る恐る下を見ると、手を振る流太が小さく見えた。自分が飛んだのか? 正直飛べると思っていなかったので空雄は数秒固まった。
「よくできました」
パチパチと拍手する流太。
「流太さん!」
「なに?」
「空、飛びました!」
「飛んだねー」
ふと自分に憑依した白丸という猫の存在が頭にチラつく。この力も、白丸から由来したものなのだろうか。
「下りてこられる?」
6メートル先にある地面を見て空雄は萎縮した。高所恐怖症ではないが、恐怖で柱にしがみついたまま身動きが取れなくなった。
「無理です!」
なんとも情けない。柱にしがみついて待っていると、流太がひょいと上がって空雄を脇に抱え着地した。
「怖くないんですか?」
「ぜんぜん? 楽しいよ。人間だった頃にはできなかったことができるしね。それじゃあ次はそうだな、瓦割りをしよう」
なぜ、そんな痛そうなことをしなければいけないのだ。空雄はもはや逃げ腰になりながら流太に引きずられていた。着いたのは神社の裏手にある古びた小屋で、そこにはいくつもの古い瓦が積み重ねられていた。
「これ、いらない瓦で処分に困ってるらしいんだよね。だから、訓練がてらここで猫拳の練習に使ってるわけ。さっき教えた素振りと似た感じだよ」
試しに瓦を触ってみると、案の定硬い。そんな瓦を、流太は目の前でパァン! と破壊。一瞬、彼の手の内側が黒っぽく光ったように見えた。
「やってごらん。力を均等に、振り下ろす感覚だ」
空雄は瓦の前に立ちすーっはぁーっと盛大に息をした。右拳に力を込めて勢いよく振り下ろす! ガンッ、という鈍い音と同時に激痛が拳を襲い、空雄はうずくまって立てなかった。
「力を発動している間、拳は硬化作用によって硬くなる。どんな刃でさえ欠けさせるほどにね。今のは、ちゃんと硬化できてないから痛いんだ」
なんだか無性に悔しく感じた。1枚も割れなくてどうする。気合と根性を糧に空雄は瓦に拳を振り下ろし続けた。しかし、1時間たっても瓦は1枚も割れなかった。痛みもあるが、拳は切れて血がにじんでいた。流太の言う通り硬化ができていない証拠だった。疲れ切ったところで猫屋敷に戻りご飯を食べた。ここでは朝昼晩特に決まった時間にご飯は食べないらしく、好きな時に好きな物を食べるのが普通だった。
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