また、猫になれたなら

秋長 豊

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17、猫になる

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 その晩、電話を貸してくれないかと流太に頼むと、快くスマホを貸してくれた。空雄は誰もいない縁側に出て家の電話にかけた。母が電話口に出た。

「母さん」

「空雄?」

 息子の声と分かった途端、母は口調を強くした。

「大丈夫だよ、母さん。今、猫神社の屋敷で世話になってるんだ。流太さんの他にも、条作さんと鈴音さんっていう同じ猫戦士の人たちとも会った。みんな、いい人たちそう。それに、信じられないかもしれないけど、猫の神様とも会った。驚いたよ。小さな女の子だったんだ。それに、猫戦士たちのことを本当に心配している。少しけがをしただけで……」

「けが?」

「あっいや、大したけがじゃないよ」

 空雄は慌てて言った。

「心配しないで。みんなにも伝えて。俺は大丈夫だって」

「無理しちゃ駄目よ。肩肘張って、自分だけでなんでも抱えようとしたら、きっとうまくいかない。流太さんでも、私たちでも、信頼できると思う人にきちんと頼りなさい」

「うん。ありがとう。今、流太さんのスマホ貸してもらってるんだ。今度、家に行ったら俺のスマホ持っていくよ。たぶん、すぐ家に帰れると思う。そのときは連絡するから」

 通話が切れた後、空雄は心が温かくなるのを感じた。こうして帰れる家、頼れる人がいるというだけで無敵になれたような気がしたのだ。

 スマホを返しに隣の部屋へ行くと、意外にもそわそわした流太が畳の上に転がっていた。流太はスマホを受け取ると「家族?」と尋ねた。

「はい」

「俺のこと、誘拐犯みたいに言ってた?」

「言ってませんよ、そんなこと」

 空雄は急に流太が子どもっぽく見えた。

「本当は今すぐにでも家に帰りたいんですけど、鳥居の外に出たら、また道夫と遭遇しそうで。それに、家族を巻き込んだらと思うと。俺はまだ戦えないし、きっとあなたに迷惑を掛ける」

「そんな頻繁に現れない。人間は、襲わない」

「そう、言いきれるんですか」

「やつは、猫と猫戦士を襲う。これまで、一度だって人間を襲ったことはない。だから、あんたの家族が狙われるとか、そういうこと、心配しなくていいよ。3日後の夜。あんたの家に行こう。にゃんこ様とも会えたわけだし、直接家族に説明したらいい。もしあんたが狙われた時は俺が必ず守る」

 そう言えるだけの自信も強さも流太にはある。道夫が突然現れた時も、彼は迷わず行動に移した。比べる段階にもないが、今の空雄と流太では、大きな実力差がある。どうして3日後なのかは分からないが、ある一つの目的ができたことで空雄の心には頑張ろうと思える意欲が湧いた。人間、小さくても目標があれば頑張れる。それが楽しみなことならなおさらだ。

 3日たつまで、空雄は竹林で猫拳の素振り練習、瓦割り、跳躍の三本立てメニューをこなした。一般人が立ち寄る本殿周辺には行かないよう気を付けていたが、ある時猫屋敷にお供え物を持ってきてくれた男がいた。灰色の髪をして、顎に短いひげを生やしただらしのない風貌。流太は彼がこの神社の宮司なのだと教えてくれた。名前は田山茂和といい、日中だけ敷地内の管理やそのほか社務所の運営などに携わる業務をしているという。彼は猫戦士たちの存在を知る数少ない一般人の一人だが、これといって積極的に関わろうとせず、見掛けても話し掛けてくることすらなかった。正直、何を考えているのかよく分からない。

 待ちに待った夜がやってきた。

「じゃあ、さっそくだけど、猫になるか」

 猫屋敷の外に出るなり流太は言った。

「俺が?」

「そう」

「無理です」

「これもいい経験だ。心配しなくても大丈夫。きょうのところは俺があんたを猫に変える」

「そんなこと、できるんですか?」

「猫戦士は他の猫戦士を猫にすることができる。みんな、嫌がってやられたがらないけど」

 話している間にも、流太の黒い猫耳としっぽが一瞬にしてなくなった。すごい早業だ。

「それじゃあ、ベーッてして」

 素直に舌をベーッとすると、流太が爪先で舌を強くつまんだ。自分の意思とは関係なく、空雄は白い猫に変わっていた。クリームパンみたいな前足が視界に入る。全身はフサフサの白い毛で覆われており、視線の位置が異様に低いため、流太が巨人に見えた。これが、条作の言っていた猫戦士の猫化。鳴き声も出せた。驚きというより、生まれて初めて猫になった衝撃の方が大きかった。

 以前条作が目の前で人化と猫化の実演をしてくれたが、確かあの時は彼自身舌をかんで猫になっていたはず。今流太が舌をつまんで強制的に猫化させたということは、他猫戦士の舌をつかめば猫化させることができるということだ。空雄にしてみれば人の舌をつかむなんてやりたくなかったが、またやる機会もないだろうと思った。

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