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五話
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土煙りを上げて馬に騎乗した者達が迫ってくる。目視の範囲では三十名ほど。そしてその姿は完全武装で固められていた。
「騎士か。これで貴族とやらの犯行だと証明されたな」
「あの旗はサントゥールのものですね」
エルザとエルナがそう断定した。やはりあの国は碌なもんじゃない。
兜を被っていない巨漢の男が先陣を切って駆けてくる。その斜め後ろの両脇に同じように兜を被らない男二人が追走し、その後を追うように兜を被った騎士達が馬を走らせていた。
「みろ、エルフだ。当たりじゃねぇか!」
「ルキアの奴等が来るんじゃねぇかって、おかわりを期待していたがエルフとはな」
ニヤニヤと嗤う巨漢の若い男が馬上から見下ろしていた。
「ナオト様、裁定者はまずいです!」
後ろに控えている騎士がそう叫んだ。
「あん。誰も戦った事がないんだろ。なら本当に強えのか分からねぇじゃねえか。もしかしたら案外弱いかもしれないぜ。なんせ、あんな貧弱な体つきだしな。きひひ」
「ああ、案外いい声で泣くのかもな」
「あああ、たまんねー。あの美しい顔を歪めて泣かせてやりてぇぜ、ひゃっはははは!」
兜を被っていない奴等が愉悦に浸り、そう口々に囀る。
堪え切れない怒りに満たされる。
「なんだ、あの優男。怖くて体が震えてんのかあ」
「……その口を閉じろ」
「あん、きこえねぇ……」
空間転移で巨漢の男の斜め上に現れると、奴の後頭部を鷲掴みにして、そのまま勢いよく顔を地面に叩きつけた。
「へっ……」
「な……」
「口を閉じろと言っただろうが!」
「ひいっ!」
ピクピクと体を震わせている巨漢の男の頭をもう一度ゆっくり上げて地面に叩きつけて止めを刺した後にゆっくりと立ち上がった。
「お前たちの飼い主は誰だ。……まあそれは関係ないか。王族ごと貴族を一掃すればいいだけだからな」
まだ驚いて固まっている迷い人と思われる残りの二人の首を刹那に続けて刎ね飛ばした。
それを見て逃げ出そうと馬を返した騎士達に向けて魔法を放つ。
「誰一人逃がさない。ライトニング・アローレイン」
真っ直ぐ頭上に掲げた刀をゆっくりと前に振り下ろした。
そして無数に降りそそぐ、矢の形をした雷撃が逃げる騎士達を全て穿つと、その場が静寂に包まれた。
俺は死んだ奴等を空虚に眺めていた。
「トール」
俺は後ろからエルザに抱きしめられた。すると今更になって体からガタガタと大きく震えだした。
「大丈夫。私たちが傍にいる」
大きく体を震わせながら、俺は下を向く。まるでからっぽの何かを見つけるように視線を左右に彷徨わせた。
「せんせぇ」
「だいじょうぶ」
エルとエマの二人が前から腰に抱きついた。
「トールさん」
エルとエマに上から重なるようにエルナがうつむく俺の頭に顔を乗せるように抱きしめてくれた。
「私たちが傍にいます。今は安心して少し休みなさい」
サクヤが最後にそう言って、俺の頬に手を当てると穏やかに眠りにつくように意識が落ちていった。
「初めて人を殺めれば、ああなるのは無理はない」
「エルザはケロッてしてましたけどね」
「私だって少しは思うところがあった」
世界樹様の膝の上に頭を乗せて眠るトールを眺めながらエルナと話していた。
もっともトールが伸ばした体の両脇にはエルとエマが抱きついて一緒に寝ているのだが。
「しかし、トールさんがあんなに感情的になって怒りをみせたのは初めてですね」
「そうだな。余程、ああいった外道の所業を行う者を許せないのだろうな」
「普段はそんな強い正義感を微塵も見せないのですけどね」
理不尽な無情が余程許せないのだろう。彼の今までの行動を見ていれば少しは理解できる。
「それどころか言葉は丁寧だが、人と必ず距離をとって接しているからな。……ん、トールに初対面で気に入られたのはもしかしてエルとエマ、そしてラムだけなのでは」
「……ですねぇ。エルとエマは日頃からトールさんのお嫁さんになると公言してますから別として、ラムさんはかなり手強いですね」
しかしなぁ。トールのいた世界では妻は一人だけというし、本人も一人でいいと言っていたからなぁ。
そんな事を考えながら、ふとエルナに視線を移すと彼女も物思いに耽っていた。たぶん同じことを考えているのだろう。
「いやいや。世界樹様の愛し子に対して、そんな感情を持つことは世界樹様に対する不敬だ」
「別にいいのですよ。それに現世では彼と結ばれる気はありませんから」
私とエルナの目が同時に点となる。
「……それはつまり、来世ということでしょうか」
「来世なのか、そのまた次なのかは分かりませんけどね。私もようやく踏ん切りがつきました。この世界で役目を終えた時に神になろうと思います。まあ、あの御方の思惑通りに事が進むのは少し癪ではありますけどね」
エルナが変なことを訊ねるから、私たち如きが聞いてはいけない話を……
「勿論、その時はあなた達エルフにも今まで通り私の側で働いてもらいますからね。覚悟しておいてください」
……女神の眷属。それって私たちも女神フレイヤ様に仕えるワルキューレのようになるのだろうか。
いかん、話が壮大すぎて全く想像できん。
私とエルナは「はい」とだけ短く大聖樹様に答えた。
「それと、私のことはいい加減、サクヤと呼びなさい」
「……それはちょっと」
「なんというか、馴れ馴れしいような気が……」
私たちは返答に困り、うつむいた。
「騎士か。これで貴族とやらの犯行だと証明されたな」
「あの旗はサントゥールのものですね」
エルザとエルナがそう断定した。やはりあの国は碌なもんじゃない。
兜を被っていない巨漢の男が先陣を切って駆けてくる。その斜め後ろの両脇に同じように兜を被らない男二人が追走し、その後を追うように兜を被った騎士達が馬を走らせていた。
「みろ、エルフだ。当たりじゃねぇか!」
「ルキアの奴等が来るんじゃねぇかって、おかわりを期待していたがエルフとはな」
ニヤニヤと嗤う巨漢の若い男が馬上から見下ろしていた。
「ナオト様、裁定者はまずいです!」
後ろに控えている騎士がそう叫んだ。
「あん。誰も戦った事がないんだろ。なら本当に強えのか分からねぇじゃねえか。もしかしたら案外弱いかもしれないぜ。なんせ、あんな貧弱な体つきだしな。きひひ」
「ああ、案外いい声で泣くのかもな」
「あああ、たまんねー。あの美しい顔を歪めて泣かせてやりてぇぜ、ひゃっはははは!」
兜を被っていない奴等が愉悦に浸り、そう口々に囀る。
堪え切れない怒りに満たされる。
「なんだ、あの優男。怖くて体が震えてんのかあ」
「……その口を閉じろ」
「あん、きこえねぇ……」
空間転移で巨漢の男の斜め上に現れると、奴の後頭部を鷲掴みにして、そのまま勢いよく顔を地面に叩きつけた。
「へっ……」
「な……」
「口を閉じろと言っただろうが!」
「ひいっ!」
ピクピクと体を震わせている巨漢の男の頭をもう一度ゆっくり上げて地面に叩きつけて止めを刺した後にゆっくりと立ち上がった。
「お前たちの飼い主は誰だ。……まあそれは関係ないか。王族ごと貴族を一掃すればいいだけだからな」
まだ驚いて固まっている迷い人と思われる残りの二人の首を刹那に続けて刎ね飛ばした。
それを見て逃げ出そうと馬を返した騎士達に向けて魔法を放つ。
「誰一人逃がさない。ライトニング・アローレイン」
真っ直ぐ頭上に掲げた刀をゆっくりと前に振り下ろした。
そして無数に降りそそぐ、矢の形をした雷撃が逃げる騎士達を全て穿つと、その場が静寂に包まれた。
俺は死んだ奴等を空虚に眺めていた。
「トール」
俺は後ろからエルザに抱きしめられた。すると今更になって体からガタガタと大きく震えだした。
「大丈夫。私たちが傍にいる」
大きく体を震わせながら、俺は下を向く。まるでからっぽの何かを見つけるように視線を左右に彷徨わせた。
「せんせぇ」
「だいじょうぶ」
エルとエマの二人が前から腰に抱きついた。
「トールさん」
エルとエマに上から重なるようにエルナがうつむく俺の頭に顔を乗せるように抱きしめてくれた。
「私たちが傍にいます。今は安心して少し休みなさい」
サクヤが最後にそう言って、俺の頬に手を当てると穏やかに眠りにつくように意識が落ちていった。
「初めて人を殺めれば、ああなるのは無理はない」
「エルザはケロッてしてましたけどね」
「私だって少しは思うところがあった」
世界樹様の膝の上に頭を乗せて眠るトールを眺めながらエルナと話していた。
もっともトールが伸ばした体の両脇にはエルとエマが抱きついて一緒に寝ているのだが。
「しかし、トールさんがあんなに感情的になって怒りをみせたのは初めてですね」
「そうだな。余程、ああいった外道の所業を行う者を許せないのだろうな」
「普段はそんな強い正義感を微塵も見せないのですけどね」
理不尽な無情が余程許せないのだろう。彼の今までの行動を見ていれば少しは理解できる。
「それどころか言葉は丁寧だが、人と必ず距離をとって接しているからな。……ん、トールに初対面で気に入られたのはもしかしてエルとエマ、そしてラムだけなのでは」
「……ですねぇ。エルとエマは日頃からトールさんのお嫁さんになると公言してますから別として、ラムさんはかなり手強いですね」
しかしなぁ。トールのいた世界では妻は一人だけというし、本人も一人でいいと言っていたからなぁ。
そんな事を考えながら、ふとエルナに視線を移すと彼女も物思いに耽っていた。たぶん同じことを考えているのだろう。
「いやいや。世界樹様の愛し子に対して、そんな感情を持つことは世界樹様に対する不敬だ」
「別にいいのですよ。それに現世では彼と結ばれる気はありませんから」
私とエルナの目が同時に点となる。
「……それはつまり、来世ということでしょうか」
「来世なのか、そのまた次なのかは分かりませんけどね。私もようやく踏ん切りがつきました。この世界で役目を終えた時に神になろうと思います。まあ、あの御方の思惑通りに事が進むのは少し癪ではありますけどね」
エルナが変なことを訊ねるから、私たち如きが聞いてはいけない話を……
「勿論、その時はあなた達エルフにも今まで通り私の側で働いてもらいますからね。覚悟しておいてください」
……女神の眷属。それって私たちも女神フレイヤ様に仕えるワルキューレのようになるのだろうか。
いかん、話が壮大すぎて全く想像できん。
私とエルナは「はい」とだけ短く大聖樹様に答えた。
「それと、私のことはいい加減、サクヤと呼びなさい」
「……それはちょっと」
「なんというか、馴れ馴れしいような気が……」
私たちは返答に困り、うつむいた。
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