グランディア様、読まないでくださいっ！〜仮死状態となった令嬢、婚約者の王子にすぐ隣で声に出して日記を読まれる〜

１

　この国の第三王子であるグランディア殿下と、伯爵家の娘である私との婚約式が終わってから早くも一年が経ってしまった。

　私達が初めて出会ったのは六歳の頃だからもう十一年も経つのね。
　子供の頃はとても仲が良かった。
　政治的な意味合いとか分かっていなくて無邪気だったと思う。

　婚約式を終えてから、私はお城にある宮殿を与えられそこで暮らしている。
　こんな近くにいるのに今では話をするどころか、会うことが少なくなってしまい、私はこのまま婚約者を続けていくことにとても不安を感じている。

　グランディア様がとてもお忙しいということは分かっている。
　たまにでいいから食事を一緒にしたいと、少しでいいから会いたいと、話をしたいと、そんな我儘を言ってはいけないことももちろん分かっている。

　婚約が決まった時、まだ幼いグランディア様は

「僕が必ず幸せにするよ」

　そう言ってくれたのに。

　それなのに、婚約式当日。

「不自由はないよう配慮しよう」

　そう仰った。

　不自由は？
　それはどういう意味なのかしら。

　配慮って……？
　その言葉に少しだけ引っかかりを感じてしまったのは私だけだろうか。

　もう一度、

「幸せにするよ」

　そう言ってもらえると思っていた。

　でも違った。

　どうやら好きという感情を抱いていたのは私だけだったみたい。
　勘違いなんかして、恥ずかしいわね。

　そういえば、これまで一度も好きだとか愛しているだとか言われたことがない。

　誰にでも分け隔てなく接してくれるグランディア様。
　私にも、婚約者として接していただけ。
　エスコートだって婚約者だからしてもらえていただけなんだわ。

　私達の結婚は相手を想い合う気持ちで結ばれたのではなく、政治的な理由で結ばれた政略結婚だもの。

　それでも幼い頃から一緒に過ごしてきたから多少の情はあると思っていたのに。
　もう私には興味がなくなってしまわれたのだろうか。

　私は殿下の婚約者としての役割などしていない。
　ただ贅沢な暮らしをさせてもらっているだけ。

　こんなことでいいわけがないのに。

　それならなぜ私はここにいるのだろう？
　私はグランディア様に必要な存在なのだろうか？
　ただ第三王子の妃殿下の座を埋める為だけの都合の良い相手だったのだろうか。

　そんなふうに思っていた時、突然聖女様が現れた。
　聖女様は当然のように宮殿で過ごし、殿下とよく一緒にいると聞いた。

　どこへ行くにも殿下が一緒だと。

　話がしたくてグランディア様のいる宮殿へ行ってそこで見てしまったもの。
　それは仲睦まじそうなグランディア様と聖女様。

　私が何日も見ていないグランディア様の笑顔は聖女様に向けられていた。

　私とは会ってもくれないのに、聖女様とお茶を飲む時間はあるのね……。

　そのまま自分の宮殿へと戻り、一人泣いた。

　毎日寂しい思いをしながらも、それを誰にも言えずに耐えてきた。




　けれど、グランディア様のお母様である王妃様に不安をついもらしてしまったせいであんなことになるとは思わなかった。