高貴なる生徒会長は、今日も副会長を慈しむ  ~学園の貴公子と没落貴族のすれ違い救済ライフ~

夕凪ゆな

文字の大きさ
4 / 28
【日常編】雨宿りの古文書室

静寂の共有者

しおりを挟む

 雨音が、心地よいヴェールとなって世界を遮断していた。
 塔を震わせた先ほどの落雷と、それに反応して発動した隔離結界。扉は固く閉ざされ、魔導灯の淡い琥珀色の光だけが、自分とレイモンドを狭い円の中に閉じ込めている。

 セオドリック・フォン・ランカスターは、視界の端に映る、不機嫌そうに古書を睨む友人の横顔を眺め、胸の奥が静かに満たされていくのを感じていた。

(……ああ。ようやく、静かになった)

 学園の生徒会長として、あるいは公爵家の嫡男として、セオドリックは常に完璧な自分を演じ続けてきた。周囲が彼に向けるのは、眩い光への賞賛か、家門の力への期待ばかり。
 だが、隣に座るレイモンドだけは違った。

 彼はセオドリックを「お前」と呼び、不敬な言葉を投げ、時には呆れたように溜息をつく。その無遠慮な態度こそが、セオドリックにとっては、自分が一人の人間としてここに存在しているという何よりの証拠だった。

(君は気づいていないだろうね、レイ。君が僕に吐き捨てる毒舌が、どれほど僕の心を軽くしてくれるか)

 暗い室内、魔導灯に照らされたレイモンドの指先がページをめくる。その規則正しい音を聞いていると、日々の重圧が消え、肩の力が抜けていくのが分かった。
 レイモンドは没落という過酷な運命を背負い、一人で戦っている。その孤独と、自分が背負う期待という名の孤独。形は違えど、二人はこの嵐の夜、同じ質の寂しさを共有しているのだと、セオドリックは確信していた。

(この時間を、大切にしたい。君が僕の隣で、誰に遠慮することもなく、ただ静かに本を読める場所を守りたいんだ)

 セオドリックの中に芽生えたのは、独占欲というよりは、もっと素朴で切実な、守護の意志だった。
 レイモンドが壊れてしまわないように。この気高く、少しばかり不器用な友人が、自分を追い詰めすぎて倒れてしまわないように。

「ねえ、レイ。……この場所、気に入っただろう?」
「……別に。静かなだけだろ」
「なら、決めたよ。今日からここは、僕たちの専用書庫にしよう。……そうすれば、君もここに来れば確実に休めるだろう?」
「……は? お前、また何をバカなことを――」

 呆れたようなレイモンドの反応に、セオドリックは心から楽しげに笑った。
 雨が止み、結界が解ければ、また騒がしい日常が戻ってくるだろう。だが、この小さな光の中にいる間だけは、自分たちはただの友人でいられる。

(また、ここに来よう。僕が君の安らぎを、必ず守ってみせるからね)

 セオドリックは、レイモンドと同じリズムでゆっくりと古書のページをめくった。
 その瞳には、嵐が過ぎるのを惜しむような、穏やかで深い慈愛が宿っていた。

To be continued.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

魔王の下僕は今日も悩みが尽きない

SEKISUI
BL
魔王の世話係のはずが何故か逆に世話されてる下級悪魔 どうして?何故?と心で呟く毎日を過ごしている

【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった

ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。 生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。 本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。 だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか… どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。 大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。 他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、 両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。 フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。 丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。 他サイトでも公開しております。 表紙ロゴは零壱の著作物です。

処理中です...