その「好き」はどこまで本気ですか?

沙夜

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プロローグ

昼の光と、待ち合わせの笑顔

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約束の水曜日まで、心なしか研究に身が入らなかった。たかがランチ、されどランチ。クローゼットの前で「何を着ていくべきか」なんて、いつ以来だろうか。結局、一番シンプルで、だけど少しだけ上質なワンピースを選んだ。

待ち合わせは、大学から少し歩いたところにある、テラス席が人気のカフェ。約束の十分前に着くように家を出た。これなら彼を待たせることはないだろう。そう思ってカフェが見える角を曲がった私は、思わず足を止めた。

テラス席の一つに、彼が座っていた。
昼の光の下で見るサイラスは、バーの薄暗がりで見た時よりも、さらに現実離れして見えた。何気なく組まれた長い脚、テーブルに置かれた指の先まで、全てが計算され尽くした芸術品のようだ。

私が呆然と立ち尽くしていると、ふと、彼が顔を上げた。
そして、私を見つけると、その整った顔が、ぱっと花が咲くように綻んだのだ。それは、モデルとして不特定多数に向ける洗練された笑顔とは違う。ただ、私一人のためだけに向けられた、無防備な笑顔だった。
その瞬間、私の心臓が、またしても大きく音を立てた。

「待った?」
「いえ、私も今来たところです」

表面上はなんとか冷静さを取り繕って挨拶を交わし、彼の向かいの席に座る。そこからの時間は、驚くほど穏やかに過ぎていった。
お互いの大学での専攻のこと、ボストンでの生活のこと、好きな映画や音楽のこと。他愛ない会話は途切れることなく続き、彼が時折見せる優しい笑顔に、私の警戒心は少しずつ解かされていった。

あっという間に時間は過ぎ、店員がテーブルに伝票を置く。サイラスが当然のようにそれを手に取ったのを、私は慌てて制した。

「あの、ここは自分で払います」
「俺が誘ったんだ。気にしないで」
「いえ、でも、借りを作るのは……。せめて、半分は」

私の頑なな態度に、サイラスは少し驚いた顔をしたが、やがて楽しそうに笑った。

「わかった。今回は君の勝ちだ」

店を出て、並んで歩く。気まずい沈黙が少しだけ流れた後、サイラスが口を開いた。

「それじゃあ、また金曜日に」

はい、と頷く。彼は軽く手を上げると、私とは反対の方向へ颯爽と歩き去って行った。
その背中を見送りながら、私は自分の胸にそっと手を当てる。まだ、少しだけ速い鼓動が指先に伝わってきた。

思ったよりずっと、普通の、楽しいランチだった。
その事実が、私の心を、これまで知らなかった期待と不安で満たしていく。金曜日が来るのが、少しだけ怖い。そして、ほんの少しだけ、待ち遠しかった。
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