その「好き」はどこまで本気ですか？

華やかな嘘と本当の涙

甘い逃避行

翌朝、私はサイラスの腕の中で目を覚ました。
アパートの小さな窓から差し込む光が、彼の寝顔を照らしている。昨夜の激情とは打って変わって、その表情は子供のように穏やかだった。

簡単な朝食を済ませ、私たちは彼の車に乗り込んだ。
「どこへ行くの？」と尋ねる私に、サイラスは「内緒だ」と悪戯っぽく笑うだけ。ボストンの街並みが遠ざかり、車が高速道路を走り抜けていく。窓の外の景色が、灰色から、少しずつ豊かな緑色へと変わっていった。

二時間ほど走っただろうか。車がたどり着いたのは、森の奥深くにひっそりと佇む、美しいホテルだった。手入れの行き届いた庭園と、木の温もりを感じる建物。都会の喧騒とは無縁の、静かで、穏やかな空間。

「すごい……綺麗な場所」
「朱音は、こういう場所が好きだろうと思って」

私の呟きに、彼は少しだけ得意げにそう言った。
私の何気ない一言や好きなものを、彼がちゃんと覚えていてくれた。その事実がじんわりと、胸の奥を温かくする。

その日、私たちは、ただの恋人同士のように過ごした。
森の中を散策し、他愛ない話をして笑い合い、美味しいディナーに舌鼓を打つ。ここには彼の輝かしい経歴も、私を苛む嫉妬も、複雑なすれ違いも、何一つ存在しなかった。

夜。部屋のキングサイズのベッドで、私たちは再び、深く求め合った。
前回までの、お互いの不安を埋めるような激しさはない。ただひたすらに優しく、慈しむように、彼は私を抱いた。

行為の後、彼の腕の中で、私は窓の外に広がる満点の星空を見上げていた。
このまま時が止まってしまえばいいのに。
この緑に囲まれた静かな場所でなら、私たちもただの恋人でいられるのかもしれない。
そんな叶うはずもない夢を見ながら、私は彼の胸にそっと顔を埋めた。