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華やかな嘘と本当の涙
彼の家族と「ただの友達」
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三日間の旅行は、夢のように過ぎていった。
私たちはただの恋人同士のように笑い、語り合い、そして求め合った。パーティーでの出来事が、まるで遠い昔のことのように感じられる。このまま、ボストンに帰らなければ、ずっとこの幸せが続くのではないかとさえ思った。
旅行の最終日。ボストンへと向かう帰りの車内で、サイラスが不意に口を開いた。
「この先の出口で降りてもいい? 実家が近いんだ。最近、顔を見せられていなくて」
「もちろん、大丈夫だよ」
私は快く頷いた。彼が家族と会っている間、近くのカフェででも時間を潰していよう。そう思っていた。
住宅街の、素敵な一軒家の前に車が止まる。私が「じゃあ、ここで待ってるね」と口にすると、彼が「何言ってるんだ、朱音も来るんだよ」と間髪入れずに言った。
「え? でも、ご家族と……」
「大丈夫。君が来ることは、もう伝えてあるから」
私の返事を待たずに、サイラスは家のドアを開ける。出迎えてくれたのは、彼によく似た、彫りの深い壮年の男性だった。二人は、私の全く知らない言語で、早口に言葉を交わしている。フランス語だろうか。
続いて、太陽のような笑顔の女性と、年頃の少年少女が二人、家の中から顔を出した。
「あなたが朱音ね! サイラスから、話はたくさん聞いてるわ。会えて嬉しい」
彼の母親だという女性が、流暢な英語で、私を温かく迎え入れてくれた。
そのまま、私たちは、あれよあれよという間に、彼の実家のディナーに同席することになった。食卓は、英語とフランス語が飛び交う、賑やかで、温かい空間だった。
その日の夜。ボストンへの帰り道、私は助手席で、今日の出来事を必死に頭の中で整理していた。
(そういえばエイミーが言っていた。恋人でなくとも、親しい友人を気軽に家族に紹介する、と)
きっと、そういうことなのだろう。彼も、私のことを「日本から来た、仲の良い友人だ」とでも紹介したに違いない。さすがに、体の関係がある相手を、家族に会わせたりはしないはずだ。
隣でハンドルを握るサイラスの横顔を、盗み見る。その表情はどこか満足げで、穏やかだった。
よかった、と私は思った。今日のことで、私たちの関係がはっきりした。
私たちは、やはり、「友達」なのだ。
そう自分に言い聞かせると、胸の奥がちくりと、小さく痛んだ。
私たちはただの恋人同士のように笑い、語り合い、そして求め合った。パーティーでの出来事が、まるで遠い昔のことのように感じられる。このまま、ボストンに帰らなければ、ずっとこの幸せが続くのではないかとさえ思った。
旅行の最終日。ボストンへと向かう帰りの車内で、サイラスが不意に口を開いた。
「この先の出口で降りてもいい? 実家が近いんだ。最近、顔を見せられていなくて」
「もちろん、大丈夫だよ」
私は快く頷いた。彼が家族と会っている間、近くのカフェででも時間を潰していよう。そう思っていた。
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「え? でも、ご家族と……」
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私の返事を待たずに、サイラスは家のドアを開ける。出迎えてくれたのは、彼によく似た、彫りの深い壮年の男性だった。二人は、私の全く知らない言語で、早口に言葉を交わしている。フランス語だろうか。
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「あなたが朱音ね! サイラスから、話はたくさん聞いてるわ。会えて嬉しい」
彼の母親だという女性が、流暢な英語で、私を温かく迎え入れてくれた。
そのまま、私たちは、あれよあれよという間に、彼の実家のディナーに同席することになった。食卓は、英語とフランス語が飛び交う、賑やかで、温かい空間だった。
その日の夜。ボストンへの帰り道、私は助手席で、今日の出来事を必死に頭の中で整理していた。
(そういえばエイミーが言っていた。恋人でなくとも、親しい友人を気軽に家族に紹介する、と)
きっと、そういうことなのだろう。彼も、私のことを「日本から来た、仲の良い友人だ」とでも紹介したに違いない。さすがに、体の関係がある相手を、家族に会わせたりはしないはずだ。
隣でハンドルを握るサイラスの横顔を、盗み見る。その表情はどこか満足げで、穏やかだった。
よかった、と私は思った。今日のことで、私たちの関係がはっきりした。
私たちは、やはり、「友達」なのだ。
そう自分に言い聞かせると、胸の奥がちくりと、小さく痛んだ。
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