幼女と執事が異世界で

天界

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第4章

73,レーネ

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 翌日、昨日同様ネーシャをユユさんに預けてから冒険者ギルドへとやってきた。
 時間は昨日と大体同じ位の人が大分いなくなる時間帯だ。
 案の定ギルドの中には冒険者の姿はほとんどない。
 いるのは真っ白い外套を羽織った大きな人だけだ。
 フードを被っているのとこちらに背を向けているので性別も何もわからないけど背中にその巨体にこれでもかと似合うほどの大剣っぽいのを背負っている。
 外套の中に入れておくには大きすぎるそれを鞘や柄の部分を別の布で覆っている。


「あ、ワタリちゃん、アル君。おはよぉ~」

「おはようございます、エリザベートさん」

「おはようございます、エリザベート」


 真っ白い大きな人をチラ見していたら、エリザベートさんにいつも通りに声をかけられた。
 挨拶を交わしていると白い大きな人はそれに釣られるようにこちらを振り向く。
 その顔はどこかで見たことがあるような人だった。


「あ、レーネさん、こちらが今日の依頼の補助をしてくれるワタリちゃんとアル君よ。
 ワタリちゃん、アル君。こちらが昨日言っていたベテランの人でレーネ・ストリングスさんよ」

「初めまして。ワタリ・キリサキです。
 こっちはアルです。今日はよろしくお願いしますね」


 エリザベートさんが白い大きな人――レーネさんにオレ達のことを紹介して、レーネさんのことを紹介する。
 人見知りをするという話だし、初対面で悪い印象を与えるのも何なのでにっこり笑顔でお辞儀をするとアルも一緒に優雅に一礼する。
 顔を上げたときにはレーネさんの顔が真っ赤になっていた。
 これは予想以上に手ごわそうだ。


「……よ、よろしくお願いします……」

「はい!」

「……ぁぅ」


 白くて真っ赤な人はやはりどこかで見たような気がするけど、呟くように小さな声でもちゃんと返事を返してくれたことに気をよくして少し大きな声で返事を返すと、その大きな見た目とは違って可愛い感じにビクっとするレーネさん。

 なんだろう……すごく可愛い。


「じゃあ挨拶もこの辺にして依頼を受けてきちゃって。依頼書はレーネさんが持ってるからね。
 それとレーネさんはすごい実力者だから心配はいらないと思うけど、絶対無茶はしちゃだめだからね? 絶対だよ?」

「わかってますよ。大丈夫ですって」

「むぅ~。絶対だからね? 絶対の絶対よ?」

「はいはい、じゃあレーネさん受付行きましょうか」

「……はい」

「もう、絶対だからねー!」


 エリザベートさんが両手を振り上げて喚いているけど、まともに相手をしていたらそれだけで1日が終わってしまうのはもう分かっている。
 なので適当にあしらってしまわないといけない。
 依頼が終わって部屋に戻ったら毎日眠くなるまで相手をしてあげているのでもうエリザベートさんの扱いも心得た物だ。

 レーネさんが持っていた依頼書を見せてもらい、問題がないかきちんとアルと一緒に確認すると受付で受理してもらう。
 今回はランクCの依頼だが、レーネさんは特殊進化個体モンスター討伐3回という凄腕の名に恥じないランクAなので問題ない。
 一緒に依頼を受ける場合でランクが大きく違う場合、ギルドの判断を仰ぐ必要があったりするときもあるが今回は指名依頼なのでその必要もないようだ。

 受付を済ませてそのまま受付のお姉さんにPT編成をしてもらう。
 オレも使えるけどレーネさんが申請してしまったので特に口を挟む必要もないかとそのままにした。
 アルとはすでにPTを組んでいたけど一旦解散させて受付のお姉さんのPTに入れてもらう。
 その後リーダーをレーネさんに委譲してPT編成は終了だ。


「それじゃ、行って来ますね~」

「絶対危ない事に首突っ込んだり、危ないヤツに遭遇しちゃだめだからねー!」

「はーい」


 エリザベートさんの言葉に苦笑しつつも元気に返してギルドを後にする。
 ギルドを出る時にレーネさんは被っているフードをより深く被り直していた。
 ただでさえ大きな人なので人目を集めてしまうのだろうけど、人見知りな彼女にはそんな有象無象な視線も恥ずかしいようだ。

 やっぱり可愛い人だ。それにどこかで会った事があると思うんだけどなぁ。どこだったか……。
 白くて真っ赤な人。白くて真っ赤な人。


 ぼんやりと考えながら3人で歩いていく。
 レーネさんは大きいから歩幅も大きいはずなのに、オレの小さな歩幅に合わせてくれている。聞いていた通りにいい人だ。

 あっという間に南門に到着し、門兵さんにギルドカードを見せて門を出る。
 レーネさんはやはり有名なようでギルドカードの確認もオレよりも断然早い。というか見た目でわかってしまうようだ。
 なんせ真っ白な外套でこの巨体だから特徴的なのだろう。
 まぁオレも昨日同じ時間頃に来ているので確認も大した時間はかかっていない。

 オレ達がチェック用の機材でカードをチェックしてもらうのに対してレーネさんは見せるだけといった程度の違いだ。
 カードのチェックも翳して終わりなので偽造のチェックだけのようだし。


 門から少し歩き、昨日と同じ位の距離を離れたところでそろそろいいかと思い、レーネさんに念話を通す。


【レーネさん、複数転移で移動しますね】

【え、転移スキルなんて持ってるんですか?】


 返事はあまり期待していなかったが、念話のレーネさんの返答は普通の会話と比べ物にならないくらいに普通だった。
 その違いにちょっと驚いていると、レーネさんがまた真っ赤になっている。本当に白くて赤い人だ。


【その……私は声に出して喋るのがすごく苦手でして……】

【そうなんですか。人見知りって聞いてただけなのでちょっとびっくりしました。でもこれならたくさんお喋りできそうですね】

【あ、はい! もしよかったら話し相手になっていただけると嬉しいです!】

【もちろんですよ。今日の調査依頼も何かの縁ですし、楽しく行きましょう】

【はい! よろしくお願いします!】

【それにそんなに畏まらないでいいですよ? レーネさんの方がベテランさんなんですから】

【あ、そのすみません。なんていいますか、こういう性分なので……】

【なら仕方ないですね。レーネさんの楽な話し方で構いませんよ】

【はい! ありがとうございます! エリザベートさんのお話通りの素晴らしい方でよかったです】

【ぉぉぅ……。エリザベートさんから何を吹き込まれたのかは知りませんけど、あまり信じちゃだめですよ?】

【そ、そうなんですか……? あの……すごく可愛らしくて、賢くてすごい子だって】

【ぇ、えぇと……】

【ワタリ様は至高の存在ですので、エリザベートの表現ではとてもではありませんが足りません】

【あ、やっぱりそうなんですね】

【やっぱりって……】

【あ、いえ、あの……。ランカスターさんの所で初めて会った時もひと目ですごい人だって思ったんです。
 お人形のように綺麗な顔に髪。まるで本物の人形が動いているかのようですごくびっくりしましたから】

【ランカスターさんの……?
 ……あぁ! あの大剣の人!】

【ぁ、そ、その……すみません……。私あまり人から忘れられるということがなかったもので……気づいているとばかり……】

【あ~いやその……。どこかで見たことあるなぁ~っては思ってたんですよ。
 そっかーあのときの人だったかぁ】

【はい、改めまして。レーネ・ストリングスと申します。よろしくお願いします。
 ランクはAです。こういう性格なのであまり人と組まないので気になることがあったら遠慮なく仰ってください】

【ワタリ・キリサキです。こちらこそよろしくお願いします。ランクはFです。
 冒険者にも成り立てなので多分レーネさんの方が気がつくことが多いと思いますので色々とご教授いただけると嬉しいです】

【アル・キリサキでございます。ワタリ様の従者をしております】


 胸の支えが取れたかのようにすっきりした気持ちで改めて挨拶し、頭を下げあって握手を交わす。
 アルの挨拶は極々最小限だったけどレーネさんは特に気にすることもなかった。
 握手をする前にフードを脱いだレーネさんの頭の上にはあの時も見た真っ白い犬の耳がピクピク動いていた。

 もう少し仲良くなったら触らせてくれるだろうか。
 ネーシャの耳や尻尾も気持ちいいけど、まだちょっと毛の抜けた部分が残ってしまっているので万全じゃない。少しずつ毛も生えてきて戻ってはきているんだけどね。


【それにしても念話でなら普通に話せるのにあまり人と組まないんですか?】

【えっと……。普段は念話でもこんなに話せないんです……】

【え、でも私達とは普通に話せてますよね?】

【はい……。だからすごく不思議で……。ワタリさんとはなんだか緊張もあまりしなくて……。それよりもワタリさんのことをもっと知りたいと思ってしまって……その……。
 きっとワタリさんと初めてあったのがランカスターさんのお店だったからだと思うんです】

【えっと……?】

【ランカスターさんのお店には相応のステータスを持たないと入店できません。
 それなのにワタリさんのような綺麗なお人形さんのような人がお店にいたんです。
 あのお店でワタリさんのような年の子はランカスターさんのお子さん達しか見たことがありませんでした。
 だからすごく気になってしまって……】

【なるほど……。でも気になったから普通に話せるのとはやっぱり違いますよね。
 なんででしょう?】

【なんででしょう?】

【ワタリ様の広いお心に気づかれたからでしょう。ワタリ様ならばあなたの全てを受け入れることなど造作もないことですので】

【そ、そうかなぁ~?】


 アルがさも当然といった具合でまた何か言い始めたけど、まるで天啓を受けたかのようにレーネさんの目が大きく見開かれている。
 このままではまずいので否定してみたがこれは無駄っぽいなぁ……。


【……なるほど……。そうかもしれません。いえ、きっとそうです!
 ワタリさん! いえ、ワタリ様! よろしくお願いします!】

【えぇ~、様付けはやめてぇ~】

【で、でも、私こんなに緊張しないで話せる人なんて家族以外に全然いなかったんです! お願いします!】

【と、とにかく! 様付けはやめて! 別に友達になるくらいなら全然大丈夫だから! ね?】

【……友達……。いいんですか!?】

【え、う、うん】

【私……友達なんて小さい頃以来です! 友達……ッ】


 胸の前で両手を組んでウットリし始めてしまったレーネさんに苦笑しつつも、やっぱり可愛い人だと再認識した。


【じゃあ、そろそろ行きましょうか? とりあえず依頼を終わらせてから時間が余ったら街で買い物でも一緒にしましょう】

【一緒にいいんですか!?】

【もちろんですよ】

【よ、よーし! すぐ終わらせましょう!
 私、今日ほどやる気が出たことないです!】

【あ、あははは……】


 なんだか最初のレーネさんのイメージとは大分違っちゃったけれど、いい方に変わったので何の問題もない。
 この世界に来てまだ親しい人も数えるほどしかいないし、レーネさんは悪い人には決して見えないし、それどころかとても可愛い人なのでどんとこいだ。


【じゃあ行きますよ~】

【はい!】


 レーネさんが念話で元気に返事を返し、アルはいつものように優雅に一礼を返す。
 2人の返答を確認してさっそく複数転移で移動を開始した。

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