幼女と執事が異世界で

天界

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第5章

87,決闘 Part,1

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 緊迫した空気がおとぼけエルフさんのおかげで、ちょっとだけ弛緩した様な気がしたがすぐに気を引き締めなおした。
 差すような強烈な針のような殺気というものを初めて体験したからだ。
 特殊進化個体モンスターが放っていたものとは根本的に異なるものだ。
 アレは本能で目の前の生物を殺そうとしていたが、今オレに対して放たれているのは違う。完全にオレ個人だけを対象とする明確な悪意を伴ったものだ。


「ワタリちゃんワタリちゃん! もう一回言って!」


 エリザベートさんの喜色満面といった言葉に更に殺気が強くなる。
 だがその殺気すらもオレにとっては温く感じる。今のオレの沸騰した心と冷徹なまでの極寒の思考を前にすればなんら障害にすらならないだろう。
 オレがこんな熱さと冷たさを共存できるようなヤツだとは思っても居なかった。
 だがアルというこの世界に来てからずっと一緒の、すでに半身とも呼べる存在のためならば容易いことかもしれない。

 いや、かもしれない、じゃないな。間違いなく容易い。

 現にランクSというとんでもない存在に喧嘩を売るのも一瞬の躊躇もなく行った。
 そして殺そうとしたことさえ、だ。

 この世界に大分染まってきたという事だろうか。
 でも恐らくアイツがオレの敵であるということが明確な線引きとなっているのだろう。
 これはもう覆らない。

 オレの家族__アル__#を侮辱したゴミ野郎には死の鉄槌を。


「ねぇねぇワタリちゃぁ~ん!」

「エリザベート、いい加減にしろ。キリサキ、おまえもだ。ここはギルド内だぞ」


 エリザベートさんの猫なで声に完全に場の空気がおかしいことになっているのをうまく利用したギルドマスターが、どす黒いオーラのようなものが見えそうになっているオレ達の間に介入してくる。

 確かにここはギルド内だ。
 ギルドの栞にも書いてあった、と思う。ギルド内での喧嘩はダメですよ、と。たぶん。
 だがダメとしか書いてなかった。特に罰則のようなものもなければせいぜい破壊した物に関しては敗者が弁償することになっている程度。

 そう、敗者・・が、なのだ。

 ダメだとは言っているが、勝敗をきちんと決する事を推奨していたりする。
 その辺が荒くれ者ばかりの冒険者ギルドなのだろう。

 そしてすでにオレの軽い一撃で床が砕け、下に敷き詰められている石材がプリンでも掬ったかのように抉れて、その破片により放射状に被害が出ている。
 幸い人的被害はないようだが、それなりに修理に金がかかるだろう。
 となれば勝敗を決する必要があるわけだ。


「そうですね、ギルドマスター殿。では私はこの子供に決闘を申し込みましょう」

「決闘だと?」

「えぇ、決闘です。依存はないでしょう? 子供」


 少し意地の悪い笑みが出そうになったギルドマスターを遮るように敵__リオネット__#が声を発する。
 決闘、という発言に意地の悪い笑みを完全に消したギルドマスターが真剣な表情で聞き返している。

 決闘。

 オレの知っている決闘は手袋を投げつけて、1対1で命を賭して戦う物だ。
 代理人も認められるが、この世界ではどうなのだろうか。


「まぁまて。キリサキ、決闘に負けたらどうなるか知っているか?」

「知りません」

「ふ……。所詮子供か、その程度も知らんとは。所詮みすぼらしいゴミを庇うものは同じ程度のゴミというわけか」


 グレートコーンの柄がなんだか悲鳴をあげている。
 またしてもよくわからない何かどこか知らない言葉がオレの耳に入ってくる。オレの事を侮辱するのはどうでもいい。
 だがオレの半身__アル__#のことを侮辱するのは耐えられない。
 今度は他の人の位置取りを気にする必要もない。敵__リオネット__#の位置は例え本気でグレートコーンを叩きつけても問題ないだろう位置だ。
 叩き付けられた対象とその周辺はどうなるかはわからないが。

 だが、動き出そうとする一瞬前に絶妙なタイミングで機先を制するが如く声がかかった。


「とりあえず黙らんか、リオネット。キリサキも落ち着け。
 決闘は相手が負けを認めるか、死ぬかしたら負けだ。負けた場合は財産及び当人が勝者のものとなる。
 まぁ簡単に言えば奴隷となるということだ」

「そういうことだ。ひとつ賢くなったな、子供」

「こんな奴隷を貰っても嬉しくないんですけど?」

「口の減らない子供だな。教育が必要と見える」


 ギルドマスターの介入で収まっていた殺気がまたオレに注がれ出している。だがそんなものはそよ風よりも生ぬるい。
 教育が必要なのはおまえの方だ。アルがどんなに素晴らしいオレの家族なのか耳の穴を貫通させて教え込んでやる。


「まぁ、いらんのなら終わった後に俺に売ってくれても構わんぞ」

「ふ……。それもいいかもしれませんね。その時はギルドマスターのお好みに合わせた教育を施してあげましょう」

「廃人のようになってるでしょうけど、それでもいいんですか?」


 オレの言葉にまた殺気が膨れ上がるが、ギルドマスターは今度こそ意地の悪い笑みを浮かべて楽しそうにしている。
 だがそこに待ったの声がかかった。その声は今まで喜色満面とした絶頂の彼方に行っていたあの方の声だったのだが、一転慌てたような狼狽したような声になっていた。


「だ、だめよ! 決闘なんてそんな無茶な! おじいちゃん! 何考えてるの!?」

「ナニ、も何も。いつものことだろう」

「そうじゃないでしょ!?
 いつもなら決闘の前に私闘で終わらせるでしょ!?」

「私闘?」


 焦るエリザベートさんから出たまた知らない単語にそのまま聞き返すと、ギルドマスターを睨みつけるように見ていた彼女の視線がこちらを向き、一瞬にへらとした後真剣なものになる。

 なぜにへら、としたんだろう……。きっとアルのことを家族だと言ったのをいつものようにエリザベートさん流の都合のいい解釈――勘違いで自分のことを言ってくれたとしたのを思い出したのだろうか。
 こんな慌てた素振りを見せる場面でもやはりエリザベートさんはエリザベートさんだ。ぶれないところがさすがすぎる。


「私闘っていうのはまぁ要するに負けても命やましてや奴隷になるなんてこともなく、破損物の弁償だけさせるものよ」

「いいえ、私は決闘を申し込みますよ、我が愛しのエリザベート」

「だから! ランクSのあなたがランクEのワタリちゃんに決闘を申し込む時点でおかしいって言ってるの!」

「……ランクE?」


 針のむしろのような殺気はどこへやらキョトンとした顔をした顎長エルフは次の瞬間には噴出して大笑いを始めていた。


「くっくはっは! おっと! これは失礼。まさかランクEがランクSのこの私に喧嘩を売るなんて! はっははくっく!」


 終いには転げまわりそうな勢いの顎長にエリザベートさんがキッと睨みつけると、今度はギルドマスターに向き直った。


「ギルドマスター! あなたはギルドマスターとしてランクEとランクSの決闘を見過ごすというの!?」

「問題なかろう。両者の合意さえあれば」

「くっ! ワタリちゃん!」

「受けますよ。今回ばかりはエリザベートさんの言葉でも聞けません。
 吐いた言葉の代償がどれだけ高いか、きっちりわからせないとダメですから」


 オレの言葉にその豊満な胸を押し上げるように両手を組んで抱くと、なんだか泣きそうな、でも嬉しそうな表情になる可愛いエルフさん。どこぞの顎とは大違いだ。
 でも勘違いだからね、エリザベートさん。訂正しないけど。

 その可愛いエルフさんの仕草に今までで一番の隠そうともしない強烈な殺気が迸る。
 1度納められた長剣が薄っすらと赤い刀身を曝け出し、なにやら陽炎のようなものをあげている。
 顎長エルフの目も完全に怒り1色になっているため、いつ斬りかかられるかわかったものでもない。
 まぁいつでも迎撃できる準備は整っているけれど。


「何度も言うが、やるなら場所を変えろ。ここはギルド内だ」

「いいでしょう。このガキの両手足を落として達磨にしてから後悔させるとしましょう」

「両手足を潰されてから同じ事が言えるか確かめてみましょうか」

「口の減らないガキがッ!」


 子供という呼び名から完全にガキという呼び名に変わり、澄ました口調が完全に崩れ去った顎が再度睨みつけて殺気を叩きつけてくるが、ランカスターさんの威圧の方がもっと迫力があった。
 本当にランクSなのだろうか、こいつは。
 油断する気はないが、どうにもオレが思っている、レーネさんよりも実力が上というランクSとは違うような気がする。


「では場所を変えるか。2人ともついてくるがいい」


 ギルドマスターの言葉に無言でその後をついていく。
 武器はそのままだ。床が悲鳴をあげているが特に気にする必要もなく、ランクの違いでの余裕なのか平然とオレの前を歩いていく顎。
 その後姿に、今なら床に顎が生える光景が一瞬で作り出せるなぁ、ととてもランクSとは思えない無防備な背に思うのだった。

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