幼女と執事が異世界で

天界

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第6章

124,vsオークキング and オーククイーン

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 脂肪ででっぷりと肥えていたオークキングのお腹は腹筋が盛り上がり、6つに割れ最早肥満体の面影すらない。
 隆起した胸筋から繋がる肩は異様なほどに膨らみ、腕は巨大な丸太を彷彿とさせる。
 しなやかだが強靭な足腰は鋼のような筋肉を支えるだけではないだろうことは想像に難くない。
 オーククイーンも同様で胸に巻かれていた獣の皮は膨張した筋肉によりはじけ飛んでしまっているが、明らかに胸にあるはずの脂肪が見えず筋肉しかない。
 元々豚面なのでそういう性癖のある人にしか無理だろうけど、さらにニッチな方向になってしまっている。

 オークキングもオーククイーンも最早元の姿からは想像できないほどに変貌してしまっているが爆発的に増えた筋量を完全に操っていてその動きにはまったく無駄がない。

 オークキングはレーネさんの方に、オーククイーンはアルの方に一直線に迫ってくる。
 従えていたデミオークやオークは武器を所持していたのに、1つも持たず突っ込んでくる。
 狂化が原因なのかそこそこの武器程度なら『闇の衣』により変質した己の肉体の方が強靭なのかはわからない。


 念話を交わす暇もなく交戦が開始された。


 1歩早く到達したオークキングが大きく振り上げた両手を勢いそのままに凄まじいスピードで振り下ろしてくる。
 受け太刀などしたらそのまま刀身を圧し折られてしまいかねないような圧力を感じるほどの振り下ろしに、レーネさんは臆することなく朱珠白塵を掬い上げる。
 硬質の物体同士が衝突したような金属音がなり、レーネさんとオークキングが同時に後方に地面を削りながら弾かれる。

 信じがたい事に筋力強化Lv3でステータスが倍化しているレーネさんと同等の力をもっているらしい。
 しかも朱珠白塵で斬られたはずの腕には傷がほとんどついておらず、切断など当然していない。

 同時に後方に弾かれたレーネさんとオークキングはどちらも追撃をすることが出来ず一瞬の間が空き、その間に地面を削りながら転がっていく物体の音が間を埋める。
 地面を削って転がっていった物体は当然ながらオーククイーンだ。
 こちらもオークキングに負けないほどの筋肉の弾丸と化していたはずだがアルは綺麗に受け流して体中から煙が上がっている。
 受け流した場所もレーネさんやオレがいる場所から遠ざかるように、さらにはアルを越えて行かなければ標的変更が難しい。さすがだ。

 アルならばオーククイーンを任せておける。
 他の雑魚の処理はすでに終わっているので気にしなくていい。ならばオレがやることはレーネさんのフォローだ。
 レーネさんの斬撃が弾かれるほどの防御力を誇っているあの筋肉豚には相当な強度と速度を出さなければ通用しないだろう。
 MPを気にせずに済む王族の不文律プリンセス・スマイルを使う手もあるが、スタミナ回復ポーションも有限だ。
 オークロードが控えている状態で力押しは危険と判断した。
 それにダメージを与えるだけが魔法ではない。最近考案した魔法の使い方を実戦投入することにした。
 もちろん練習は毎日積んでいるのでぶっつけ本番というわけではない。


 後方に弾かれて地面を削っていたレーネさんとオークキングが同時に勢いを無理やり殺して前に出る。
 またもや金属同士がぶつかるような音がし、同時に弾かれる。
 だが今度は先ほどよりは弾かれて開く距離が短い。しかしそれは両方にいえることですぐさま次の攻撃が乱れ飛ぶ。

 巨大な質量弾の如き拳が暴風を纏いながら振り下ろされ、それを朱珠白塵が迎え撃つ。
 右拳を弾かれれば左拳がその勢いを利用して向かってくるが、掬い上げるように向かってくる弾丸の手首――間接部は他と比較しても防御力に劣るため――を狙い打つように返される朱珠白塵に軌道変更をせざるを得ず、またしても金属同士の衝突音が響く。

 まさに一進一退。
 ほぼ互角といえる戦いだ。


 休むことなく繰り出される2つの拳。
 それを迎え撃ち、逆に体勢を崩し致命傷を穿つ為に白刃が閃く。

 爆発的に増えた筋量により驚くべき速度で動くオークキングの動きにも注視することしばし、やっと慣れた。
 詠唱破棄により詠唱が完全になくなった魔法が発動する。
 詠唱省略Lv3ではほんの少しのタイムラグがあったのが詠唱破棄を取得してからわかった。
 だが普通に投擲するタイプの魔法を使う分には問題なかった。
 ほんの少しのタイムラグなんてものは投擲する時間で意味をなさなかったからだ。
 しかし今から使う魔法はそのタイムラグが致命的だ。特にあれほどのスピードで動く的を相手にする場合は。


 オレの魔法により拮抗していたレーネさんとオークキングが徐々にレーネさんに傾いていく。
 オークキングの動きが刹那の短い時間ではあるが不自然に阻害されているからだ。

 オークキングが動く度にパリパリ、という薄氷を踏み割るような音が鳴る。

 ほんのわずかな阻害。
 しかし拮抗し、一瞬一瞬の攻防に差がない状態では徐々にソレは大きな障害となって積みあがっていく。

 積みあがった一瞬一瞬が遂に朱珠白塵をオークキングに通すに至った。
 振り下ろされた拳が宙を舞い、少量の血飛沫を凍結させながら飛んでいく。
 レーネさんのカウンターの斬撃が見事手首を切り上げ、切断したのだ。

 ここが勝機と見たレーネさんが怒涛の連撃を開始する。
 今尚動く度にパリパリ、と鳴って動きが阻害されているオークキングはけたたましい豚声を上げながら斬り飛ばされた拳のことなど頭にないかのように手首より先がなくなった腕を振り下ろしてくる。

 そこからは最早単純作業のようにレーネさんの斬撃がオークキングを切り刻んでいった。
 拮抗していた状態ならいざ知らず。いまやオークキングの体表は薄っすらと霜が降りているかのように凍りつき始め、動きを阻害し続けている。


 オレの新しい魔法。
 それは指向性のある冷気により対象だけを徐々に凍結させていく魔法。

 今までは矢や槍など形を与えて投擲するタイプの使い方ばかりしてきた。
 しかしレーネさんという前衛を生かす場合、もっと有効的な使い方があるのではないか、攻撃ばかりが脳ではないのではないかと思ったのがきっかけだ。

 一瞬で相手を凍結させられれば問題ない。
 だがそんな強力な使い方は無理だった。
 ならば狭い範囲で部分的に凍らせるのはどうだろうか。

 魔法は手元を離れて使い続けるほどにMP消費量が増える。
 矢や槍状にしたときも手元から離して形状を構築しようとするとMP消費が跳ね上がって使い勝手が悪くなる。
 凍結させる時も同様で、相手と距離があればあるほどMP消費が増える。
 しかも直接相手を凍結させるにはさらにMPが必要になる。
 直接凍結させられるのなら血中や内臓を凍らせてしまえば即死も狙えると思っただけに残念だった。
 特に相手の体の中などを直接凍結させるには王族の不文律プリンセス・スマイルを使っても無理だった。
 これはMP消費量の他に何かしらの条件があるのだろう。

 直接相手を凍結させられないならばどうすればいいか。
 直接がダメなら間接的にやればいい。

 間接的に凍結させるために対象を冷気で覆い、温度を下げていく。しかし手元から離している上に覆う冷気の規模を広くするとMP消費が尋常じゃない量になってしまう。
 解決策として冷気に指向性を持たせ凍結速度を上げて尚且つ範囲を絞った。

 こうして完成した魔法が徐々に相手を凍結させていく魔法だ。
 名前はまだない。


 ただ欠点もいくつかある。
 相手が寒さに強かったり、防御に特化していたりすると効果が薄い。
 魔法を使い続けるのでMPが常に消費されていくし、相手の動きがあまりにも早すぎると冷気が追いつかない。
 今回のオークキングはかなり早かったがレーネさんと真正面から打ち合っていたし、目もすぐに慣れたので成功したのだ。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 右の手首に続き、左の手首も切り落とされ、傷口から斬撃が徐々に上がっていく。
 凍結箇所が広がり、動きの阻害率もかなりのものになったことにより最早レーネさんの敵ではなくなったオークキングだが、それでも冷静に確実にダメージを積み上げていく。

 傷口からは薄っすらと煙が上がっている。
 この現象は見たことがある。狂豚鬼の再生の時だ。
 だが狂豚鬼のような瞬間再生には程遠い稚拙なものだ。戦闘中に傷が塞がることはまずないだろう。

 斬り飛ばした肉片や拳からも煙が上がっていたので凍結を一旦中止して中級魔法:風で粉微塵にして吹き飛ばしておく。
 朱珠白塵の斬撃すら弾く拳だったが、切り離され『闇の衣』の影響化になくなったからだろうかあっさりと粉微塵に出来た。
 何もないところから再生するよりは元あった物を接合させた方が再生速度は速いだろう。それを考慮して粉微塵にしての吹き飛ばした。

 最早雌雄は決したと言ってもいい展開ではあるが念には念を。


 両肩から腕を切断されたオークキングが遂に膝を突く。
 斬り飛ばされた腕はどちらも粉微塵に切り刻んでから吹き飛ばしておいた。

 膝を突き、体中の間接部を中心に凍結させられ動きが緩慢になって尚、狂ったように敵意と殺意をむき出しにする瞳をレーネさんに向けるオークキング。
 だがそんなものはレーネさんを止める圧力にはなりはしない。


 迸る朱が一筋。


 豚の頭が宙を舞う。
 狂豚鬼の例があるため念の為に空中で回転して落下してくるソレを粉微塵に切り刻む。
 切り刻むまで頭を失った首から煙が少量出ていたがピタリと止んだ。やはり念を押しておいて正解だったか。

 主を失った体は首から煙の代わりに少量の血を噴出させたあとゆっくりと後方に倒れていった。
 それと同時にファンファーレが聞こえ、直後轟音と共に地面を削るようにオーククイーンがこちらに向かって転がってきた。
 オーククイーンのその体はオークキングのように鋼鉄のように変質しているが所々から煙があがり見るからにボロボロだ。
 一か八かでアルを突破してきたわけではない証拠に完全に体勢を崩していてレーネさんを攻撃するどころではなく、地面を己の肉体で削るダメージを減らそうと必死になっているくらいだ。

 レーネさんは朱珠白塵を大上段に構え、眼を閉じて集中している。
 朱珠白塵の刀身が赤熱し、朱から赤へと変化する。


 断罪される罪人のようにレーネさんの元へと転がり出てきたオーククイーンが憤怒に塗れた豚面を上げた瞬間には朱珠白塵が振り切られていた。


 オーククイーンが最後に見たのは赤に染まる世界だろうか。


 頭から一刀両断されたオーククイーンが左右に別れて地面へと崩れ落ちる。
 切断面からは再生の煙など上がる事すら許されない。無慈悲にして最速の一撃によりオーククイーンは絶命し、さらにファンファーレが聞こえた。


 オーククイーンを絶命せしめた一連の流れは示し合わせたわけではない。
 オークキングを倒した瞬間にはレーネさんは目を閉じて方向転換し、集中し始めていた。
 それを確認していたアルがオーククイーンの弾く方向を調整し、送り届ける。

 オークロードが残る中で目を閉じて集中するなどという暴挙はオレがオークロードを抑えてくれるという確固たる信頼がなければ出来ない。
 オーククイーンが目の前に送り届けられるのを確信していたのも、アルへの信頼がなければ不可能だ。


 レーネさんはオレとアルにこれほどの絶大な信頼を寄せてくれている。
 もちろんオレもアルもレーネさんを同じだけ信頼している。

 PTの1人――仲間というだけではなく、すでに家族の1人としてレーネさんは掛け替えのない人なのだ。


【さぁ、残るはオークロードだけです】


 レーネさんの念話に全員の視線が集中する。
 未だ悠然と佇むオークロードとの決戦が始まろうとしていた。

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