幼女と執事が異世界で

天界

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第7章

151,最強の守り手

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 体長3mにも及ぶ黒豹が4本の前足についた鉤爪のような鋭い爪を振るう……と同時に爆発四散した。
 接触面である爪部分は当然としても体内にまでその爆発は波及して、結果として首が千切れ、合計6本の足は前足は残らず消し飛び後ろ足も千切れ飛ぶ。
 しかしそれでもオーバーキルとならないように調整された爆発は死体を消滅させることはない。ただちょっとグロいだけだ。
 そのグロさも下草も伸び放題、木々に絡まった蔦や乱雑に成長した枝葉によってすぐに見えなくなった。
 始めに襲い掛かってきた黒豹が瞬殺された事に残りの3体の黒豹が躊躇した瞬間、2頭の首が飛び、最後の1頭は氷の槍で顔面から肛門まで刺し貫かれて絶命した。

 黒豹はこのカトルゼ迷宮の55階層でもっとも強い魔物だと思われる。
 別名漆黒の暗殺者と呼ばれるほどにその隠密機動力と殺傷能力は高い。
 しかしうちのアルにかかれば隠密系のスキルは意味がない。
 暗殺者の如く気配や音を完全に殺して近寄ってきた黒豹の必殺の一撃をあっさりと防ぎ、逆に打ち倒す。
 念話で常に情報は共有されているため、オレ達もそれに驚くことなく迅速に対応できる。漆黒の暗殺者――笑――がどこからどのタイミングで襲ってくるのが丸分かりなのでそこに攻撃を置いておくだけで殲滅できてしまう。

 うちのアルが凄いのは今に始まった事じゃない。
 でも最近のアルは、いやあの新しい盾――『アイギスの盾』を得たアルは今まで以上に凶悪な性能を発揮するようになった。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 ネーシャが鍛冶神の御手を無事取得し、魔結晶8つ持ちの特殊進化個体モンスターの素材の加工と武具の製造を依頼してから、51階層の探索に赴いたのはすでに3日前。

 51階層からはガラリと迷宮の構造が変化する。
 目の前には鬱蒼とした密林。
 よくありがちな鳥の声などは聞こえないが、ソレがより一層不気味に映る。
 次の階層への移動手段である赤いクリスタルはこの迷路ではなくなってしまった広い密林のどこかにある。
 だが幸いな事に赤いクリスタルは1つではない。
 前の階層に戻る青いクリスタルもその分多いが、赤いクリスタルの数も結構な数にのぼる。
 しかし祭壇や何かしらの特定の場所などにあるわけではないので、伸び放題の草木に隠れるようにして――というか埋もれるようにして――見つかる場合も多々あるそうだ。
 前の階層からランダム転移してこの51階層に到達しているので、すぐ近くに赤いクリスタルがある場合ももちろんある。
 昨日来た時はすぐに帰ったので調査していないので、まずは周辺の調査から入る事になった。
 とはいっても普通に歩くだけだ。
 なぜならアルが全部やってしまうから。

 うちのアルさんは超の後にド級がつくほどの優秀な子だ。

 気配察知での索敵範囲はスキルLvとしてはLv3の気配察知を超えるほどの距離と精度を誇り、さらには気配察知では感知する事が出来ない隠密系のスキル持ちの存在すらも看破する。
 敵だけではなく、人為的――または迷宮為的?――な罠や地形効果的な偶発的トラップにもこの察知能力は対応しているために罠にかかった経験が一切ない。
 魔物と遭遇、戦闘になっても事前に察知しているためにどこからどのタイミングで何が何時来るかまでわかっているのははっきりいって有利すぎる。
 特に奇襲を得意とする魔物の場合、もう本当に悲惨なほどに何も出来ずにおわる。
 まだ正面から堂々と襲ってくる方が戦えているかもしれない。

 まぁそれも瞬殺なので大した違いはないのだが。

 とにかく、密林という地形的有利さを最大限に活かしてくる魔物達の脅威度は、通常なら前の階層と比べ凄まじいほどの難易度の差が生じる。
 しかしオレ達はアルがいるのでまったく苦にならなかった。

 ちなみに完全な方角感知能力とマッピング能力も兼ね備えているアルなのでいちいち木に印をつけたり、紙にマップを書き記したりする必要性がまったくない。
 この辺も難易度の差を感じられない部分でもあるだろう。

 50階層以前でも遠足気分で進んでいた速度をほとんど緩めることなく、遠足ではなくハイキング気分となった今も探索は順調だ。
 じめじめした洞窟みたいな構造から濃い緑の匂い溢れる場所へと変わったのだから遠足ではなく、ハイキングなのだ。

 しかし超ド級の優秀さを誇るアルでも知らない迷宮を赤いクリスタルに向けて一直線に歩いていけるわけじゃない。
 その辺は適当に最初にオレが決めた方角に向かいつつ、アルのマッピング能力を駆使してしらみつぶしに進んでいく。
 そうした結果、比較的早く最初の赤いクリスタルは見つかった。
 思ったよりもずっと赤いクリスタルの数は多いのかもしれない。まぁそれでも魔物を瞬殺しながら進んで3時間ほどはかかったけれど。

 その日のうちに階層を2つほど進めることができた。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 屋敷に戻ってきてからネーシャのお迎えに行くと、ランカスター家の工房部分はなんかすごいことになっていた。
 普段は通路側にまで素材やなんかが散乱・・するなどということはないのだが……今は山積みになっている。というかところどころで崩れているし、工房内からは異常なほどの熱気が漂っている。


「ね、ね~しゃ~?」


 恐る恐る工房の中を覗いて見るとそこには筋肉の塊……上半身裸で汗まみれで槌を振るう巨大な生物ゴーシュさんと、それよりも一回り小さいが同じく引き締まった筋肉をはちきれんほどに内包した上半身裸の生物トトさんが居た。

 ……暑苦しい。

 見なかったことにしてリビングにまで戻り、アルの淹れてくれた紅茶を飲む。


「うん。やっぱりアルが淹れてくれる紅茶はおいしいねぇ~」

「美味しいです」

「恐悦至極にございます」


 先ほど見てきた何かとても暑苦しかった光景はこの1杯の紅茶が綺麗に洗い流してくれた。

 レーネさんと一緒にのんびり待っていたのだが、どうも1時間や2時間じゃ終わりそうにないようだ。
 アルが再度見に行ってくれたがゴーシュさんやトトさんだけじゃなくて、ユユさんもネーシャも混ざってカンカンドンドンやっているみたいだ。
 一応話しかけてはきたそうだけど、みんな熱中していて全然反応がなかったそうだ。

 仕方ないのでリビングで待つことにした。
 このまま帰るという選択肢はありえないのだ。
 ネーシャを置いて自分達だけ海鳥亭に戻るというのは、お迎えに来た以上、ない。

 勝手知ったるランカスター家なのだがさすがにキッチンを勝手に使って料理を作ったりお風呂を拝借したりベッドで寝たりとまではいかない。
 とりあえずご飯はアルの作りおきがアイテムボックスにいっぱいあるのでソレを食べた。
 相変わらず中毒になりそうなくらい美味しい。レーネさんも夢中で食べている。

 ご飯の後にもう1度みんなの様子を見に行ったがやっぱり暑苦しかった。
 ユユさんとネーシャはなんかすごく細かいことをしててやっぱり反応がない。
 手元を覗いてみるとめちゃくちゃ細かい彫り物をしているようだ。ミリ単位で何か彫り込んでいるのは見ているだけで目が痛くなってくる。

 お風呂に入りたかったのでアンカーをランカスター家に設置して帰還用魔道具リリンの羽根を使って屋敷に戻ってからお風呂に入ってきた。
 交代で3人で帰還用魔道具リリンの羽根でお風呂に入りに行って、いつでもネーシャ達が正気に・・・戻ってもいいように待機しておく。
 とはいってもただボーっとしててもアレなので、魔法のトレーニングなどをする。
 さすがに筋トレはお風呂後なのでちょっとどうかと思うし。

 そんなこんなで結局のところその日はみんなが工房から出てくることはなかった。

 屋敷のベッドをアイテムボックスに突っ込んで運んで置いたので寝る場所の問題はなかった。リビングにベッドを置いて寝たのですごく狭くなったけど。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 明けて翌日。
 工房を見に行ってみるとやっぱりまだ作業をしていた。
 音が漏れていたのでわかってはいたのだけれど、まだガンガン叩いている筋肉が2つ。
 彫り物をしている2人の作業も大分進んでいるけど全体工程の4分の3といったところだろうか。

 しかしコレをネーシャが彫ったのか……。すごい緻密で繊細な美しい彫り物だ。
 あ、オレの依頼した部分もちゃんと彫れてる。
 うん、やっぱりネーシャの作品にはこのマークを入れてもらう事にしよう。実にいい出来だ。

 不眠不休で作業をしているみんなに食べるかどうかわからないが一応食事の用意をしておいてもらってはいる。
 でも作業を中断してまで食事を摂るつもりは毛頭ないらしい。


「うーん……。今日の探索はお休みかなーこりゃ」

「そうですね。ネーシャさん達が心配です」


 正直なところ、休憩や食事はきちんととって欲しい。
 夢中になってしまっているのは仕方ないにしても不眠不休で丸1日作業しっぱなしというのはいただけない。
 でも何度声をかけても無駄だった。
 力づくというのもどうかと思うが、もう半日しても休憩しないようなら強制的に休憩と食事を摂らせよう。

 トレーニングをしつつ時間を潰していると、4人揃ってやり遂げた達成感溢れる顔をして出てきた。


「おう、待たせたな! 出来たぞ!」

「ワタリちゃん、すごいのが出来たよ! まず間違いなく、ボクの最高傑作だよ!」

「お兄ちゃんのじゃないよ! 私とネーシャちゃんも手伝ったでしょ!」

「お嬢様! あたし頑張りました!」


 金属の削りカスのようなもので汚れているネーシャだけど、すこぶるいい笑顔なのでとりあえずよしとしよう。
 トトさんとユユさんが仲良く兄弟喧嘩をしているのを横目にしつつ、キラキラな瞳のネーシャの話を聞いてあげる。
 喧々囂々した空間を一頻り楽しむとゴーシュさんが両手を打ち鳴らして注目を集める。


「一先ず見てくれ」


 アルが移動しながらでも摘める用にサンドイッチを配り、それを食べながら工房へとみんなで移動する。
 不眠不休で作業をしていたので相当お腹が空いていたのだろう、すぐそこの工房に着く前にみんなサンドイッチを食べ終わっていた。


「まず間違いなく最高傑作だ。どうだ?」


 工房の中央の台に置かれた物体は精緻な彫り込みが無数に刻まれ、その上を薄い膜が覆っている。
 中央には狐が巨大なハンマーを背負っているネーシャ印のシンボルマーク。
 そのシンボルマークが彫り込まれているのは魔結晶【蛇女】。
 魔結晶はその性質上スキルを使用して溶かす以外に形状変化をさせることができない。
 しかしそれは通常の話。
 ネーシャには鍛冶神の御手という通常とは異なる特殊なスキルがある。これにより可能となったことだろう。

 全体的に黒く、彫りこまれた跡に金と赤のラインが煌く。このラインも魔結晶だ。
 複数の魔結晶が仕込まれたこの物体は

 魔結晶8つ持ちの【狂豚鬼の大爪】2枚を使った盾だ。
 その他にも魔結晶がふんだんに使われており、8つ・・のスロットのうち6つが埋まっている。
 恐ろしい事に使われている魔結晶は6つなのだ。
 しかもまだ2つも仕込める余地を残している。

 鑑定結果はコレだ。


        ■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 アイギスの盾 [蛇女] [灰熊] [豚王] [飛猫] [犬人] [戦狼] [空] [空]
 狂豚鬼の大爪2枚を主として作られた盾。
 美しく精緻に彫りこまれたラインには魔結晶が溶かし込まれ、防御力と再生能力を極限まで高めている。
 狂豚鬼の大爪の固有スキルである震爆を有し、任意の対象と位置に震爆を叩き込む事が出来るように進化した。
 瞬間再生も進化し完全再生となり、アイギスの盾全てと装備者にまで効果が及ぶ。
 アイギスの盾を装備している者を殺す事は実質的に不可能となる。
 中央に設置された魔結晶【蛇女】に刻まれたシンボルはアイギスの盾の核となり、核が完全に破壊されなければアイギスの盾と装備者を再生し続ける。

 付与効果:HP+450 回復力+46 完全再生
 固有スキル:震爆 ネーシャの刻印

        ■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 なんというか凄まじい性能の盾が出来てしまった。
 魔結晶がふんだんに使われているのはオレがそういう要望を出したからだ。
 魔結晶8つ持ちという驚異的な個体の素材を鍛冶神の御手という特殊スキルで加工しなければ作れない盾だ。
 スロットの数はとんでもないことになるのは確信していた。
 しかし予想していた6つというスロット数よりも2つも多い。
 まったくもってとんでもない盾だ。

 震爆や完全再生を持っている上にネーシャの刻印という謎スキルまである。
 ネーシャの刻印はどういった効果なのかいまいちわからないが、狐が巨大なハンマーを持ったコミカルな絵柄なんだからとても素晴らしいものだろう。うん、絶対そう。

 HPに450も加算される上に回復力も+46だ。
 オレが装備したいくらいの極上の性能だが、もちろんコレを装備するのはアルだ。

 今まで性能は高いものの、市販品を使っていたアル。
 PTの盾として十分にその務めを果たしていたけれど、アイギスの盾を持つ事によって更なる完全な守りを手に入れたことだろう。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 皆に見守られる中、アイギスの盾を手に取りアルに渡す。
 跪き恭しい態度でソレを受け取り、装備して見せてくれたアル。
 初めて装備したはずなのに長年愛用しているかのようにしっくりくるその姿は、傷つけることが出来るものなどこの世界には存在しえないだろうという確信に満ちている。
 オレやレーネさんが2人がかりで戦っても恐らく傷1つ負わせる事は出来ないだろう。
 それだけの確信を得られるほどに今のアルは頼もしい。

 いや元々すっごく頼もしいけどね!


 こうして本日この日、この瞬間に……最高の従者にして最強の守り手は誕生した。


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