幼女と執事が異世界で

天界

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第7章

159,惨状

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 脳髄に焼きこてを当てられたような激痛で目を覚ました。
 声にならない悲鳴を一頻りあげたあとに今現在の自分というものをやっと認識する事ができた。

 右腕は裂傷と打撲がいくつか見られるがなんとか無事。
 左腕は折れているし、指も5本あることはあるがあらぬ方向を向いている。
 砕けた篭手の破片が突き刺さってもいるがまだこちらはマシな方だった。

 問題なのはどうやら両足。
 折れた左腕と指以上の激痛が今尚脳髄を焼き、奥歯が折れそうなほど歯を食いしばらなければいけないほどのダメージを負っている。
 しかしその様子は見えない。
 巨大な岩が乗っているからだ。

 激痛はすれど足の指の感覚がない。
 これはまずい。非常にまずい。何がまずいって最悪な話、両足がなくなっている可能性があるのだ。
 そしてそんな状況だとオレの高いHPでも失血死の危険がある。時間が無い。

 すぐさま王族の不文律プリンセス・スマイルを使用して初級魔法:体力回復を全開でかける。
 まずは左腕からだ。
 足を治しても巨大な岩が乗っている状態だから、また押しつぶされるだけとなり意味がない。

 砕けている左腕から破片が抜け落ち、どす黒い血が一瞬だけ噴出したあとに明後日の方向を向いていた腕と指が自分の体からしているとは信じがたい音を立てて元の位置に戻った。
 どす黒い血の下にあった無残な傷はもうない。

 初級魔法:体力回復で修復する怪我は修復と共に痛みを与える。
 怪我の度合いが大きければ大きいほどにその痛みは大きくなり、大怪我を負った状態で修復されると激痛でショック死するほどだ。
 だがMPを大量に注ぎ込むことにより痛みを和らげる事ができる。
 王族の不文律プリンセス・スマイルにより無限のMPとなった今のオレにとっては回復の痛みをまったく感じずに修復する事も容易だ。

 左手を握ったり開いたりして問題が無いことを確認し、次いで右腕をさくっと治した。
 それと同時に王族の不文律プリンセス・スマイルが自動で解除されてしまった。
 そういえば回復力が今は素の状態――10だった。
 両腕を修復しただけで王族の不文律プリンセス・スマイルが自動解除される量までスタミナが減ってしまったのだろう。

 左腕を完全修復して右腕も治せたのだからまだよかった。
 途中だったらかなり危険だっただろう。何せ左腕には篭手の破片が大量に刺さっていたからね。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 足の激痛に耐えながらスキル構成を元に戻……そうとして足の上に乗っているこの巨大な岩? 迷宮の床か? をどけなければいけないことに気づいた。

 今のオレは筋力444というでたらめな化け物状態だ。
 筋力強化Lv3がまだ効いている状態ということはアレからまだ30分は経っていない事を意味している。どの程度出血しているのかわからないが30分以上も流し続けていたらさすがにやばかっただろうな。


 この程度の岩ならたとえ足を挟まれて座ったままの体勢でもなんとかできるだろう。
 治したばかりの左腕をすぐに酷使するのはちょっと怖いが、折れたらまた治そう。とにかく今は足だ。

 岩の隙間に指を引っ掛けて1度深呼吸。
 歯を思いっきり食いしばって岩を力任せに畳返しよろしく、ひっくり返した。

 しかしオレはひっくり返した、という程度の認識だったが現実は違った。
 せいぜいひっくり返えしてどかす程度だったはずが岩はそのまますっ飛んでいってしまった。
 少しして激突音が響く。

 筋力444はヤバイ。わかっていたがヤバイ。


 邪魔な岩がなくなり、その下敷きになっていた足が見え……気が遠くなりそうになった。

 オレの足が片方ない。
 左足が膝からちぎれてなくなってしまっていた。
 右足もミスリルの靴が粉々に砕けてその破片が突き刺さり酷い有様の上に向いてはいけない方向に足首が曲がっている。
 岩の下は血溜りになっていてあと数分も放置しておけばオレは死ぬだろう。

 左足がなくなったショックよりも脳髄を焼くような激痛の方がきついので筋力特化を回復力特化に切り替えるだけにして速攻でステータスを変更した。
 かなり痛みには強い方だと思っていたがこれはちょっときつい。足がなくなるとか無理。ヤバイ。オレの足……。


「大丈夫、だよな……? いけるよな……? 頼むぞ……頼むぞ……」


 震える声で確認するように何度も祈る。
 アイテムボックスからスタミナポーションを何個か使用して王族の不文律プリンセス・スマイルを発動。
 すぐさま初級魔法:体力回復をかける。
 注ぎ込まれるMPは今まで最大といっていいほどの膨大な量だ。
 この世界――ウイユベール中のMPをかき集めても足りないくらいの量を込める。


 帰って来い! オレの足!


 まず動きを見せたのは右足だった。
 突き刺さっていた破片が左腕の時と同様にポロポロ、と抜け落ち、やはりどす黒い血が一瞬だけ噴出す。
 聞いてはいけない音が自身の足からして元に戻り、右足から感じていた痛みがなくなりかなりマシになった。
 右足の感覚も指の先まではっきりとわかる。

 続いて左膝が熱くなり、肉が蠢いているのがはっきりとわかる。
 自分の足の肉が蠢いているのだ。はっきり言って怖い。いや、怖いなんてもんじゃない。

 肉が蠢いていたかと思ったら次は骨が突き出た。
 そしてその周りを覆うように神経や筋肉が絡みつき皮膚が張られ……足が徐々に形成されていった。

 映画かなんかにあったような肉体の再生映像を見ているかのような気分だった。

 しかしこれ……膨大なMPで痛みを消しているからいいけど、痛みを消さなかったら大変なことになっているんじゃないだろうか。

 現実逃避気味にそんなことを考えていたら足の再生は終わっていた。
 なくなってしまった左足は今やツルツルのお肌にちっちゃなあんよ。すっかり元通りだ。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 元戻りになった足を見て一気に力が抜けた。
 深く息を吐き、念のため体中に初級魔法:体力回復をかけておく。
 細かくついていた傷も全て治ったところで王族の不文律プリンセス・スマイルを解除する。

 ステータスも念のため鬼刃との戦闘前の状態に戻しておく。
 すると気配察知Lv3の範囲内に反応が1つ。

 生きていたか、ドリルさん。さすがにしぶとい。

 冗談はさておいて、オレですらこんな重傷を負ったんだ。ドリルさんはそれ以上であってもおかしくない。
 死んでしまっていたらさすがにちょっと凹むから生きていてね。死んですぐなら気配察知に反応が出ちゃうからね。
 服も酷いことになっているがまだ大丈夫だ。靴は靴下も含めて完全になくなっているのでアイテムボックスからトレーニング用の靴を取り出して履き、反応があった場所に駆ける。


「アリアローゼさん、大丈夫ですか?」

「げほっ……わたりん……当然ながらだいじょうごほッ!」


 大量の血反吐を吐きながらもオレの方を見ていながらも明らかに焦点はあっておらず、強がるドリルさん。
 オレを目視しているのではなく、声が聞こえた方に顔を向けただけのようだ。目が明らかに見えていない。明らかにオレよりも重傷で、生きているのが不思議なくらいだ。

 装備もほとんどが粉々になっており、やはり破片が肉に食い込んでいてあちこちから出血している。
 当然ながら服もほとんど用をなしていない。しかし扇情的な要素よりも痛々しさの方が遥かに大きい。 
 右腕は肩口からなくなり、左腕はなんとか無事。
 両足も完全に折れていて右足は皮一枚で繋がっているという惨状。

 しかしそんな酷い有様でも一際輝く勇者の装備。他の装備は一切なくなっているか、粉々になって肉体に突き刺さっているかしかないというのに。
 勇者の装備の腕輪は右腕にも装着されていたはずなのに残った左腕に2つともあった。どういう原理だ。
 しかしドリルさんが死なずに済んでいるのは多分コレ――勇者の装備のおかげだ。
 勇者の装備にはそれぞれHPへの大幅な加算効果が付いている。HPが多いということはそのまま死ににくい・・・・・事を意味している。
 勇者の装備に相応しい並じゃない量のHP加算がこれほどまでの重傷を負ったドリルさんを生かし続けているのだ。

 ……恐ろしい。


「わ、わたりん……どこですの? わたくげほっ」

「喋らないでください。今すぐ治しますから」

「お願いしますわ……体中が痛くて……さすがのわたくしでもちょっと辛いですわ」


 はっきりいってちょっとでは済まないだろう。すでに痛みも麻痺してしまっているのか、もしくは勇者の装備のせいか。
 とにかくショック死も失血死も今のドリルさんには許されない。
 オレがいなかったらこのまま膨大なHP量のせいで長い間死ねないまま苦しんだのだろうな。


 ……まぁこの惨状を引き起こしたのはオレだけどな。


 チクリ、と胸がちょっとだけ痛んだが相手がドリルさんだからかちょっとで済んだ。
 これがレーネさんやアルだったら泣いて謝るどころじゃ済まなかっただろうなぁ。

 王族の不文律プリンセス・スマイルを発動させてドリルさんをちゃちゃっと治療する。
 無くなった腕ももちろん気持ち悪い映像と共に修復完了。
 見えなくなっていた目もどうやら治ったようだ。


「わたりん、ありがとうございますですわ。この恩は忘れませんわ。
 どうでしょう、わたくしと一緒に勇者活動をす」

「なんでやねん」

「あいたっ……痛いですわ、わたりん」


 恩を仇で返そうとするからだ。
 速攻で突っ込みを入れたらあれだけの重傷を負っても涙1つ流さなかったのに、涙目になってるし。
 まったくドリルさんは本当にドリルさんだぜ。


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