幼女と執事が異世界で

天界

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第7章

158,あ、コレあかんヤツだ

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 飛び出したと同時に紫電を纏った槍が1本だけ飛んできた。
 残りの5本はドリルさんが凄まじいスピードで牽制をしているのでオレの方には向けられないようだ。やるじゃないかドリルさん。

 残像すら残さないスピードで鬼刃をかき回しているドリルさんのおかげでオレは悠々と移動を完了できた。
 とりあえず鬼刃の背後まで移動したが明らかにこちらのことも警戒している。
 その証拠に6本の腕に握られた槍のうち4本がドリルさんを相手取り、残りの新たに補充されて2本になった方がオレへ向けられている。
 さすがに投げる余裕はないようだが普通に接近したらあの2本の槍で迎撃されるだろう。

 普通に接近したら、だけどね。

 まぁ当然普通になんて接近しない。
 腰を捻って鈍器スキルLv1――フルスイングを発動する。
 鬼刃とは200m以上離れている。だが300mまでならオレの射程内だ。

 ドリルさんの攻撃がオレから見て右側に集中し始めたのを確認して、鬼刃の左斜め後ろに転移し強震する。
 捉えていたはずのオレを見失い、向けられていた2本の槍が一瞬だけ硬直する。
 だがその一瞬で十分だ。

 凶悪な威力を秘めた破城槌が鬼刃の左足にぶち当たる。
 凄まじい衝撃にその場で1回転するかのように回転して頭から床に激突してそのまま鬼刃が背負っていた柱に向けて回転しながらすっ飛んでいった。
 しかし縦回転で床に何度も頭を打ち付けて柱に激突して止まった鬼刃はすぐさま槍を投げて反撃してきた。

 あの程度では大したダメージにはならないらしい。
 脳震盪などもないようだし、やはり中身は空のようだ。

 槍を避けて次の一撃をどこに打ち込むかを検討しながらゆっくり移動する。
 その間にもドリルさんが柱を背負った鬼刃を切り刻んでいる。しかし金属同士がぶつかる音はしているが鬼刃に傷はほとんどついていない。
 ちなみにオレのフルスイングを受けた左足は少しへこんでいる程度だった。
 ものすごい頑丈だな。でもやれないことはなさそうだ。

 ドリルさんの攻撃が一部の方向に集中し始めるのを合図に転移してグレートコーンをぶち込んでいく。
 単発では大してダメージにならない事はわかっているので、グレートコーンによる超衝撃でぶっ飛んでいくところを反撃される前に転移してさらに追撃する。
 3,4発連続で当てて床に縫い付けたところにフルスイングでさらに追撃を仕掛けようと鬼刃の直上に転移したところで驚いたことにヤツは反撃してきた。
 片手1本で槍を器用に回転させて反撃というか防御してきたが構わずそのまま回転する槍ごとグレートコーンをたたきつける。

 迷宮の床や壁はかなり硬い。
 グレートコーンをたたきつけても皹が入る程度で留められるくらい硬い。
 そんな床に鈍器スキルを用いて振るわれたグレートコーンの超火力は鬼刃を中心に強固な床を陥没させた。
 今度こそ手ごたえありかと思ったが、すぐさま槍が飛んできたので転移で回避。
 なかなかどうして硬いじゃないか。

 だがあれだけのグレートコーンの連撃を浴びてはやはり無事ではすまなかったようだ。
 かなり鎧が凹んでいるし、最後に防御しようとした槍を持っていた腕は指がひしゃげている。


「なかなか硬いですわ」

「そうですねぇ。でもやれないことはないっぽいですね。
 アリアローゼさんが動きを止めてくれれば私がなんとか出来そうです」

「頼りにしていますわ、わたりん」


 陥没させた床から起き上がりひしゃげて槍がもてなくなった以外の5本の腕に槍を携え鬼刃はまだまだやる気満々のご様子だ。
 だがさすがに槍をすぐに投げつけるような事はしない。ドリルさんの早さとオレの転移を学習したのだろう。
 槍を手放した瞬間にオレの攻撃が死角から飛んでくるかもしれないわけだしね。

 ドリルさんの姿が掻き消え、先ほどと同様の状況が繰り返される。

 凄まじいスピードで牽制と斬撃の弾幕で張り付けにし、その隙にオレがグレートコーンをぶち込む。
 何度かこの連携を繰り返し、鬼刃の鎧はかなりの箇所が凹み潰れ、使い物にならなくなった腕は2本に増加した。
 しかしここでヤツは全身に紫電を纏い急速な再生能力を発動させ始めた。

 どうやら一定以上のダメージを与えると次の段階に移るらしい。
 最初は槍と投擲による攻撃。
 次が紫電を纏った上での再生能力。

 ただでさえ硬いのに面倒なヤツだ。その上纏った紫電は全方向への反撃が可能ときた。
 グレートコーンを叩きつけたら反撃されて障壁を1枚破られた。
 オレの障壁は時間経過で回復するから問題ないが多少時間はかかる。これでは再生される前に潰すこともままならない。


「火力が足りないな」

「そのようですわね。どうしますの?」


 障壁を破られた際にすぐさま転移で逃げたので鬼刃とは少し距離が離れた。
 グレートコーンが直撃して吹っ飛んでもいるので最初の時よりもずっと離れている。
 今なら青いクリスタルがあるはずの柱はオレ達の後ろだ。最初と立ち位置がまったく逆の状態というわけだな。

 だが正直勝ち目が見えているこの状況で逃げるのはどうかと思う。
 何よりもドリルさんが思っていた以上に使える。
 自身のスピードを活かして鬼刃の行動抑止に徹してくれているし、隙を作り出すのもうまい。正直びっくりだ。

 ドリルさんに問題はない。
 問題はオレの火力だ。

 グレートコーンをフルスイングで繰り出しても鎧を凹ませる程度しか出来ていない。
 しかしそれでも再生能力がなければ問題なかっただろう。蓄積させればよかっただけだからな。
 だが再生能力を発動させてきた現状では明らかに火力不足。


「……そうですね。少しの間任せても大丈夫ですか?」

「何か策がありますのね? 任されましたわ!」


 少し思案しそう言うと、2つのドリルがギュルギュル言いそうなくらいの表情で口角を釣り上げたドリルさんが掻き消える。
 直後に金属同士がぶつかりあう音と紫の放電がバチバチ、と鳴り響く。

 剣戟の嵐が鬼刃の槍と紫電を全て防ぎ、縫い付ける。
 先ほどよりもずっと増したスピードにより鬼刃は完全にドリルさんに押さえ込まれている。
 だがこれはそう長い時間もたないだろう。
 今ドリルさんは恐らく全力を出している。そんな状態が長くもつわけが無い。

 さてドリルさんが燃え尽きてしまう前に準備を終わらせなければ。

 念のために柱の後ろに素早く移動する。
 やはり青いクリスタルが設置してあった。青く輝いているので使用するのも可能な状態だ。でも今は関係ない。


 スキルリセットで必要ないスキルを全てリセットする。
 回復力増加Lv10、気配察知Lv3、回復力強化Lv3を全て外し、割り振ったステータスを全てリセットする。
 筋力増加Lv10を取得し、残りのポイントを全て筋力に振って再度筋力強化Lv3を掛けなおせば準備は完了だ。


 火力が足りないのなら足せばいいじゃない。


 筋力増加Lv10で筋力の増加量は85。
 初期値が10なのでこの状態でも95ある。
 さっきまでは筋力増加Lv5だったので合計でも35しかなかった。

 かなりの量のスキルを外したので残りのポイントは127。
 この全てを筋力に割り振ってある。

 残っているスキルは本当にこの戦いに必要な物だけという徹底したスキル構成だ。
 転移してぶち込む。
 このためだけの特化構成だ。

 故に特化された筋力は筋力強化Lv3により倍化され……なんと444。
 奇しくもぞろ目で4揃いだ。
 でもそんなの関係ねぇ!

 準備が終わればあとはぶち込むのみ。
 アイテムボックスからスレッジハンマーカスタムを取り出し、片手・・で握る。
 グレートコーンも当然片手だ。
 筋力35では片手で持つのは出来ても振り回すのは無理だった。

 だが今は444。

 重さなんて感じないほど軽い。まるで羽のようだ。


「行きます!」


 今尚凄まじいスピードで嵐のような剣戟を繰り出しているドリルさんにもわかるように大声で伝えると床を蹴る。
 超重量と凄まじい筋力により床に皹が入り、オレの視界が切り替わった。

 場所は鬼刃の直上。

 スレッジハンマーカスタムが唸りを上げて振り下ろされる。
 片手ではフルスイングは使えないが問題ない。

 振り下ろされた大槌を2本の槍を交差させて受け止め、その瞬間に紫電が反撃を見舞おうと炸裂する。
 だがスレッジハンマーカスタムから生じた凄まじい衝撃により紫電が掻き消え、槍も消し飛んだ。
 次いでその衝撃はオレの障壁も2枚消し飛ばし、そのまま鬼刃の腕を巻き込み床が一瞬にして砕け散り一気に沈み込む。
 そこでスレッジハンマーカスタムは砕け散ってしまった。

 それなりの頑丈さを誇る大槌でも今のオレの筋力による衝撃を受け止める事はできなかったようだ。


 だが問題ない。


 スレッジハンマーカスタムが砕け散り、鬼刃の2本の腕が破裂してなくなったところに本命が叩き込まれる。

 すでに鬼刃は腰まで砕け散った床にめり込んでおり、避けることなど不可能な状態だ。
 せいぜいが残っていた腕4本を使って防御する程度。

 しかしその程度何の意味もなかった。


 さっきまでものすごくうるさかった音が一瞬にして消えた。


 凄まじい強度を誇る迷宮の床が捲れ上がり、砕け散る。
 スレッジハンマーカスタムにより受けた衝撃以上のナニカが爆心地を中心として全てを崩壊させんとその破壊力を炸裂させた。


 あ、コレあかんヤツだ。


 自分が起こした破壊だが、ヤバイ。やばすぎる。
 加速された思考の中でも一瞬と言えるほどのスピードでグレートコーンが消えてなくなる。
 続いてゆっくりと残っていた障壁が順に砕けていく様はまるで死へのカウントダウンのようだった。

 一気に冷水を浴びたように脳みそが冷えた瞬間には連続で転移してその場を脱出。巨大な柱の後ろに退避が完了していた。

 残っていた障壁は1枚。間一髪といっていいだろう。
 しかし、直後の立っていることすら困難な揺れと衝撃波。
 まるで脳を直接揺さぶられているかのような衝撃に呑まれて残っていた最後の1枚の障壁が砕け散った。

 オレが覚えていたのはここまでだった。

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