俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

陽七 葵

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第六章 二人目の転生者

おれ、転生者なんだ

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「おれ、転生者なんだ」

 何処かで聞いたことのあるセリフだ。

 俺は宿の下にある酒場で男姿のアーサーと向かい合っている。部屋に二人きりになったらみーちゃんが出て来るので致し方ない。

「アーサー、ちょっと待ってて。仲間を連れて来るから」

「仲間って、お前以外には内緒って言っただろ。自分の仲間にも話してねーのに」

「あー、その仲間じゃなくて転生者仲間」

「は?」

「ノエルも一緒なら部屋でも大丈夫か……ちょっと来て」

 俺はアーサーを連れてノエルの部屋を訪れた。


 ◇


 自称転生者が二人揃った。まさか、ノエル以外にも『転生者ごっこ』なるものをしている人がいたとは。

「仲間って、お前の妹じゃねーか」

「うん。ノエル、アーサーも転生者なんだって」

「まぁ、そうなんですの? 一緒ですわね」

 ノエルは至極嬉しそうにアーサーの手を取った。

「やはりここはお兄様が主人公のBLの世界ですわよね?」

「いや、おれもそこまでは知らねーけど、光魔法で勇者って言ったら主人公要素は十分あるだろうな。てか、BLって……まさかあいつらと?」

「はい! 一推しは幼馴染のジェラルド様のようですが、リアム殿下とも既に婚約済みでして、ゆくゆくは……」

「ノエル、そんなこと説明しなくて良いから」

 余計なことまで饒舌に話すノエルに、アーサーは納得したように頷いた。

「あいつら顔良いもんな。つまりあれか、推しを選べなくて逆ハールートに入っちまった訳か」
 
「まぁ、そうとも言いますわね」

「大変だな。一人で四人の相手すんのか」

「いいえ、五人ですわ。悪魔のメレディス様がお兄様を離してくれませんの。既に夫婦になってしまわれて、浮気をしようものならみーちゃんが出て来ますの」

「みーちゃんって、あの黒龍か。大変だな」

 哀れみの目で見て来るアーサー。それにしても、ノエルと普通に会話をしている。BLや逆ハールートという単語も巷で流行っていたりするのだろうか。それはさて置き。

「アーサーの話って何なの? 何か協力して欲しいんでしょ?」

「そうだった。おれ、転生者って言ってもTS転生なんだよ」

「TS?」

「まぁ、そうでしたの? では、前世は女性?」

 アーサーが栗色のカツラを外すと、パサッと長い髪が現れた。

「前世が男で今は女」

 TSの意味を何となく理解した。前世と今と性別が違うことを意味するのだろう。それにしても凝っている。そんな細かい設定まで作っているとは。

「でもアーサーは何で男の格好を?」

「おれ、今はさらし巻いて何とか隠してるけど、胸だけはデカいだろ?」

 俺に同意を求めるな。と、言いたいが素直に頷いた。

「女の格好してたらキモい男ばっか寄ってくるんだよ」

 アーサーは身震いしてみせた。

「でもアーサーの仲間って男だよね? 実はみんな女だったり?」

「アホか。スキンヘッドの女がいる訳ねーだろ。おれ以外はちゃんと男だ。で、おれの頼みってのは他でもない」

 アーサーが一拍置いて続けた。

「おれを買ってくれ」

「は?」


 ◇


 アーサーの話によると——。

 ノエル同様にアーサーも五歳の時に前世の記憶を思い出した。ただ、ノエルと違うのはTS転生だということ。そして、身分だ。

 アーサーは元々孤児で、攫われた挙句に奴隷として変態貴族に買われてしまった。我が国は人身売買を禁止としているが、実はアーサーは隣国であるブライアーズ王国の民だった。ブライアーズ王国では人身売買は日常茶飯事。問題はないらしい。

 幼いアーサーは、奴隷として酷い仕打ちを覚悟していたが、我が子のように寵愛されて育てられた。

 しかし、それも十二歳まで。十二歳になると発育途中ではあるが女の体に近付いてくる。主人はアーサーを性の対象として見るようになった。

『若くて顔の良い奴なら百歩譲って性奴隷になってやっても良いが、相手は五十過ぎたデブのクソジジイだからな』

 同じ性奴隷でも、顔の良い魔王の相手に選ばれた俺はアーサーよりマシかもしれない……そう思った自分が悲しい。

 話は逸れたが、アーサーはそんな主人から逃げるべく執事の中から自分の味方になってくれそうな人を選んだ。

 仲間が見つかったのは良いが、奴隷は首に魔道具を付けられる。一見普通のアクセサリーに見えるこの首輪、主人が奴隷の居場所を特定する為のもの。ただ、この魔道具は少々雑な所があって『この辺にいる』ということしか分からない。

 どうにか屋敷から逃げ出したアーサーだが、食い繋ぐ為にはお金がいる。しかし、一定の場所にとどまる訳にもいかない。逃げ回るには、お金を稼げて各地を転々と渡り歩ける冒険者が最適だ——。

「じゃあ、昨日の襲撃も主人の追手だったの?」

「そういうことだ。だから、卵の報酬で場所を移動する予定だったんだ」

「そっか、ごめん」

 アーサーの報酬を横取りした訳ではないが、何故か罪悪感を覚える。

「おれ、転生者だし何かしらチート能力があるはずだ。強い勇者になってみせる! って初めは意気込んでたんだよ」

「転生者あるあるですわね」

「だけどさ、何もないんだよ。スキルだって大したことねーし、いざ戦場に立っても仲間が助けてくれるから死んでないだけで一人だと何も出来ない」

「寵愛されて育ったんでしょ? 仕方ないよ」

 励ましの言葉を並べる俺の両肩をアーサーはガシッと掴んで、瞳に涙を浮かべた。

「それに何だよ、この顔」

「顔……?」

「何で女のおれより、男のお前の方が可愛いんだよ」

「そんなこと……」

「そんなことあるだろ? おれの顔、別に不細工じゃねーけど可愛くもない。正にモブだよ。こんなモブが何やったって無駄だよ。いずれ屋敷に連れ戻されて性奴隷の道しか残ってねーよ。だから頼むよ。金なら一生働いて返すから、おれを買ってくれよ」

「力にはなってあげたいけど……主人がアーサーを売る気にならないことには」

 アーサーの言うように、奴隷を自由にするには買うのが手っ取り早い。お金ならあるし、こうやって知り合えたのも何かの縁だ。力になってあげたい気持ちは十分にある。

 困惑していると、ノエルが何か閃いたようだ。いつものようにニコッと笑って言った。

「お兄様が奴隷になりましょう」
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