俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

陽七 葵

文字の大きさ
119 / 144
第七章 人間界侵略回避

ハニートラップ

しおりを挟む
 やはりというか、さすがと言うべきか……ノエルの思惑通りとなった。良いのか悪いのか、ヴァンパイア六体は俺に夢中になってしまった。

 真っ赤なドレスに靴。そして金髪長髪で見た目は完全に女の子。そんな俺は真夜中の寒空の下、一体のヴァンパイアに膝抱っこされている。他の五体もそれを囲むように座ったり跪いたりして、俺の手足や顔に触れている。とにかく、逆ハーレム状態の末恐ろしい光景だ。

「ねぇ、本当に男の子なの?」

「肌がすべすべだね」

「噛みたいなぁ」

「けど、メレディス様が相手じゃな」

 実はこのヴァンパイア達、メレディスを知っているらしい。

 俺がメレディスの嫁だと気付いてからというもの、俺の血を吸いたくて涎を垂らされるが噛みつかれはしない。

 それにしても、男と知っていながら男に求愛してくる心理が分からない。しかも、俺は女装以外何もしていない。恋愛未経験の俺はアーサーに聞いた。

『具体的に何すれば良いの?』

『普段通りにしてれば大丈夫だろ』

 つまり、俺は思った事を思ったまま言って、思ったまま行動をしただけ。

「オレを妾にどう?」

「街の人達を元に戻してくれたら考えるよ」

「本当か? そんなこと言って考えるだけじゃないだろうな?」

 バレている。

「あ、一番に元に戻してくれた人を妾に……」

「よし、オレだな」

「私が先だった」

「いや、俺様が先だ」

 ヴァンパイアはチョロかった。皆、元に戻してくれたようだ。負傷者はアーサーらが聖水を配って回ると言っていたので、きっと大丈夫。後は時間稼ぎをして明後日の日が昇るのを待つだけ。

「で、妾にしてくれるんだよな?」

「う、メレディスにも聞いてみないと。それに、誰が一番だったか……」

 誤魔化そうとすれば六体の瞳が赤く光った。怯んでいると、お腹がグゥと鳴った。

「腹減ってんのか?」

 運良く妾の話から食事の話に切り替わった。

「オレも物足りねーんだよ」

「よし、飯にしようぜ。俺様、今度は若いの狙うぜ。年寄りのはまずかった」

 ヴァンパイアらは次々と立ち上がり、俺も手を引かれて自然と立ち上がった。

 運良くと言ったが、前言撤回だ。聞かずとも分かる。ヴァンパイアの食事、それすなわち人間の生き血。

「ダメダメ! 俺以外の人の血を吸ったら嫌いになるから!」

「そんなこと言ったって、君はメレディス様のもの。血が吸えん」

「それでも! もし他の人の血を吸ったら口も聞かないし顔も見たくない!」

 プイッとそっぽを向けば、それぞれ困惑したような顔で俺を見た。

 我ながら無茶な事を言っているのは分かっている。これで愛想を尽かされ人間を襲いに行くようであれば、その時はその時だ。そう思っていたら。

「案ずるな。私は君以外の人間の血になど興味ない」

「オレもだ」

「トマトジュースで我慢してやろう」

「良いの……?」

 キョトンとした顔でヴァンパイアらを順番に見上げれば、口元を手で隠して目を逸らされたり、蹲る者まで出てきた。

「え、大丈夫? トマトジュース買って来ようか? それとも気分悪い? 水の方が良いかな?」

 一人困惑しながら蹲っていたヴァンパイアの顔を覗き込めば、ガシッと腕を掴まれた。

「もしかして、緊急を要する感じ?」

「ああ、緊急自体だ」

「どっち? トマトジュース? 水? 急いで探してくるよ」

 立ちあがろうとすると、掴まれている腕を思い切り引っ張られた。体勢を崩した俺は、そのままヴァンパイアの胸にダイブした。

「もう我慢出来ん」

 これは非常にまずいかもしれない。多分このヴァンパイアを怒らせた。このヴァンパイアは俺以外の血を吸うなと言った時、何も応えていなかった。無茶を言う俺に愛想を尽かした一体に違いない。

「お前、抜け駆けすんなよ」

「それは私のモノだ。離れろ」

「嫌だね。こんなにも胸の高鳴りを感じたのは初めてだ」

 首筋に顔を埋められ、思い切り匂いを嗅がれたのが分かった。

「なッ、先を越されてたまるか!」

「それは私とつがいになるのだ」

「いや、俺様だ」

「え……」

 俺を見下ろしているヴァンパイアら五体の目の色が変わった。そして、再び全員に手足や頬などを触られた。ただ、先程と違うことが……。

「あ、やめ……ひゃッ」

 触り方が非常にゆっくりとねっとりとしているのだ。しかもドレスの下から手が入り、エロい手つきで触られる。

「可愛いな」

「血が吸えない分、別の方法で愛でてやるからな」

「妾に選んでくれたら、もっと気持ち良いこと沢山してあげられるよ」

「あ、やめ……メレディスに……」

 メレディスの名前を出したらやめてくれると思ったのにやめてくれない。

「知ってる? 刻印があっても、二人きりじゃなかったらこんなことしても大丈夫なんだよ」

 知ってはいるが、何故なのだろうか。この際聞いてみることにした。

「……何で?」

「他の者にもチャンスを与える為だよ」

「チャンス?」

「出会った時期が遅くて、運命のつがいを逃したなんて奴らが暴れ回ったんだ。だったら、それが本当に運命かどうか確かめてこいって先々代の魔王様が刻印の制限を緩くしたんだ」

「最初は愛を囁く程度の制限の緩和だったんだぜ。けど、先代の魔王様が『愛を囁くだけじゃつまらん』って更に緩和されたんだ」

 これは、先代の魔王のせいだったのか。

「でも、ここまでやらせてくれる女……男は珍しいよな」

「運命を感じている証だな」

 いや、俺だってやらせたくないよ。だけど、やめてと言ってもやめてくれないし、今は攻撃出来ないし……というより、攻撃したら最上級の合意の仕方だとメレディスが言っていた。皆、どうやって拒んでいるのだろうか。

「あぁ! そこ……ダメ!」

「ここが気持ち良いのか?」

「ああ……ダメだって」

「どうやら私の勝ちのようだな」

「いや、見てみろ。オレの首にギュッと絡みついて喘いでいるのだ。オレが好きな証拠だ」

「違ッ、ああ……本当……やめて」

 こんなの明後日の朝までなんて持たない。

 仲間はハニートラップが成功したのを見守った後、操られた人々の対処に向かった。

 アーネット親子に攫われないように誰か一人くらいは残ってくれると思っていたのに、ヴァンパイアがいる内は大丈夫だろうと俺一人ここに残された。皆の読み通りアーネット親子は傍観しているだけで何もしない。

 つまり、ヴァンパイアを止めてくれる人は誰もいない。

「メレディス……助けて」

 ボンッ。

 目の前にキョトンとしたメレディスが現れた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

処理中です...