天使過ぎる可愛いクラスメイトと一途過ぎる可愛い後輩、どっちを選べばいいんだ!?

muku

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夏休み 一章 先輩たちの最後の総体

005 雪キャプテンの就任初日

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第5話 雪キャプテンの就任初日

 ――総体の試合から一週間が経過し、ついに三年生が引退して、部活は二年生と一年生が主体の新チームとなった。

「新キャプテンは――青葉雪。副キャプテンは――月山翼だ」

 須崎先輩によるキャプテン、及び副キャプテンの発表が行われた時、チームメイトから俺と月山は拍手で迎えられた。

「頼りないところもあると思いますが、部をまとめていけるように一生懸命頑張ります――」

 みんなは俺がキャプテンで納得するのだろうかと、多少は不安を抱えていたものの、二年の連中も後輩たちも、彼らの表情を見る限りでは存外すんなり受け入れてくれたようだった。

 キャプテンとしてまず行うべき仕事――それは、とにかく声を出すことである。全体指示はもちろん、個人への声かけをしていくこと……それが一番大事であり、俺にとっては一番大変な仕事だ。

 なんとか新体制での初日の部活が終わったが、もう既に喉がガラガラである。ただの平部員であった頃は、こんなに全体指示を出すことは少なかった。これほど声帯を酷使したのは久々である。

「――お疲れ様でした! 雪ちゃんキャプテン。」

 部活の帰り道で、サッカー部マネージャーのちろるは、わざとらしく”キャプテン”という単語を強調して呼んできた。にこにこして何がそんなに嬉しいのやら……。

「はぁ……まじで疲れた。キャプテンとか呼ばれるの全然慣れないわ。」

 今日の練習でも、二年生は変わらず青葉と俺を呼んでくれたが、一年生の後輩たちは「雪キャプテン」と呼称を変えていた。

 その都度、「……今まで通り、雪先輩でいいから。」と言ったものの、真面目なのか面白がってるのか、その後も雪キャプテンと呼ばれ続けた。

 キャプテン就任一日目だからというのもあるだろうが、想像していたよりも、精神的な部分でかなりの疲労を感じている。

「はぁ――、本当にキャプテン務まるのかな。」

 乾いたため息と弱音が思わず出てしまった。

「え……? 雪ちゃん先輩、キャプテンの仕事、早速板についてましたよ?」

 ちろるのその言葉は、気を遣ったり、お世辞で言ったりしているわけではなさそうだった。彼女が思った率直な感想をもらしたように聞こえた。

「でも、確かに……あんなに大きな声出して、全体に指示出したり、自分からみんなにいっぱい話しかけたりする先輩、初めて見たかもしれません。」

 ちろるは感心するような表情でそう言った。

「そうか? まぁ立場が変われば、行動も変わるっていうしな。まだまだキャプテンとして、どう振る舞えばいいかわからないまま手探り状態だ。まぁ最低限できる事として、せめて声くらいは出してみたって感じだな。」

 それが須崎先輩からもらったアドバイスである。偏屈な表情で言う俺に、ちろるは屈託ない笑顔を見せた。

「ふふっ、二人で話してる時の……、そういう理屈っぽいところは相変らずですね~。なんかちょっとほっとしました」

 そう言って、ちろるはまた穏やかな笑みを見せた。彼女の笑顔を見ていると、こちらもどこかほっとした気分になる。

「ほっとしたって? どうして?」

「いやぁ、何というか……。先輩が少し遠くに行ってしまったような気が……。いや、やっぱり何でもないです。」

「遠くに? どういうこと?」

「うーん……。なんというか、少し大人っぽくなったというか……。いえ、もともと私より一つ年上だし……大人といえば大人なんですけど。何かしっかりしてきたなぁというか……。」

 ”しっかりしてきたなぁ”って、何でお前そんな上から目線なんだよ。

 ちろるは自分でも、何が言いたいのかを上手く整理できていないようだった。だとすれば、それが俺に理解できるはずもない。

「そうか――俺のダンディな渋い大人っぽさに、ちろるんはやっと気づいたのか?」
「あ、やっぱりさっきの発言は撤回させてください。先輩はただのアホな子供っぽい人でしたね」

 ……うん。まぁちょっとムカつくけど、もうそれでいいや。

「アホで結構。ところで、ちろるん……その手に持ってるの何なの?」

 ちろるの手には、広告チラシのような紙が握られていた。

「えっと、これはですね……。神戸ハーバー花火大会のチラシなのです……。キャプテン就任でお忙しいところ恐縮なのですが、もしお時間の都合がつき、ご興味があれば……同伴いただけないでしょうか。」

 ちろるは社会人が名刺を差し出すように、花火大会のお知らせを差しだしてきた。

「なんで、そんな畏まった言い方なの?」
「テレ隠しといえば……、お分かりになりますでしょうか。」

 ちろるんも俺に劣らずのあほな子だと思う。いや、俺の影響を受けてしまったのだろうか。

「ようするに、それってデートの誘い?」
「ま、まぁ……そんなところです///」

 恥ずかし気な表情を浮かべるちろるの手から、大事そうに握られていた紙を受け取った。そのせいで、紙にはくしゃっとシワがついている。

「毎年ある大きな花火大会だな。この日は午前中は部活だけど、午後からは特に用事ないし大丈夫だよ。」

「そ、そうですか……。よかったです。っじゃあ、約束ですよ。」

 ちろるは嬉しそうに小指をたてた。指切りげんまんとか、小学生かと思いつつも俺も手を差し出し、お互いの小指同士を絡ませた。

「指切り拳万、嘘ついたらハリセンボン飲~ます、指切った!」

 高校生にもなってこんな事をするとは……やっぱり恥ずかしい。俺は照れ隠しのために、ちろるへ豆知識を語った。

「指切りって、遊女が意中の相手に不変の愛を誓うため、小指の第一関節を切る心中立てが由来らしいよ。」

「え、なんか怖いですね。」

 ちなみに“拳万”は――拳を一万回くらわせるぞという意味で、嘘をついたら殴り倒して、針を千本飲ませるぞという恐ろしい事を歌っている。

 こんな童歌をほとんどすべての日本人が知っていて、子供たちも笑顔で歌っているのは、外国人から見たら結構クレイジーかもしれない。しかしある意味、日本人の約束を守る真面目さや、義理堅さを象徴している歌とも考えられる。

「ちなみに――、ちろるんは浴衣とか着ていくの?」
「そうですね。先輩が着てほしいなら、頑張って着てこようかな~なんて。」

 ちろるはそう言って悪戯な笑顔を見せた。アニメや漫画とかだと、夏祭りや花火大会に浴衣はマストである。しかし、実際に浴衣を着るのはやや面倒である。

「まぁ……雰囲気が出るしなぁ。着てほしいかどうかと言われたら、正直着てほしいところだが」

「ふっふ~。そこまで言うなら着てきてあげましょう」

 ちろるが浴衣なら、隣りに並んで歩く俺も浴衣とか着た方がいいのかもしれない。面倒な思いを彼女だけにさせるのも申し訳ないし――。

「そうだな――ちろるんが浴衣なら、俺も浴衣か甚平でも着ていくか」
「えっ! ほんとですかっ!」

 その発言に、ちろるは前のめりになって食い気味に言った。彼女のくりっとした目が見開かれ、きらきらと期待に輝いている。

「おぉ……。まぁ……雰囲気でるし……」
「先輩の和服姿みたいですっ! 絶対着てきてくださいよ!」

 ちろるはそう言って、再び彼女の小さな小指を差しだして来た。本日二度目の心中立てである。

 なんか反応が男と女で逆なのかもしれないと思ったが、ともかく俺とちろるは、翌週の花火大会に、浴衣で行く約束をした。
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