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夏休み 二章 花火大会
011 帰り道での思い出話
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花火大会の帰り道、帰路につく人々で電車内は満員だったが、一駅……また一駅と過ぎていくにつれて、席に座れるほどに乗客は減っていった。花火大会の喧騒と打って変わり、最寄り駅を降りると、住宅街は虫の鳴き声しか聞こえないほどの静けさであった。
ちろるを家まで送っていく際、俺はちろるに尋ねてみたい事が一つあった。青白い街灯に照らされるちろるの横顔を見つめながら、それを尋ねていいか迷いつつも、やっぱり思い切って聞いてみることにした。
「ちろるんってさ――何で、俺のこと好きになったの?」
「…………。」
ちろるは沈黙のまま、俺の質問の真意を確かめるかのように、こちらをじっと見つめてきた。やっぱ聞くべきではなかったかもしれない……。
「ごめん――話したくなかったら、全然いいんだけど。」
謝る俺に対し、ちろるは「ふふっ、謝らなくても大丈夫ですよ。」とほほ笑んだ。
「そうですね~。私としては別に構わないのですけど……。きっと話せば……、それはもう長くなって、一晩を明かすことになると思いますよ。」
「……はは。さすがに一晩は困るな……。ちろるんの親も心配するだろ。」
「うーん、そうですね。あくまできっかけ……ですけど、先輩は私と初めてあった日のこと覚えてます?」
「――初めてあった日?」
ちろるの存在を認識したのは、俺が中学二年生の時からだ。でも、小学校も同じなのだから、もしかしたら小学校で出会っているのだろうか。
「俺がちろるんを認識したのは、中学二年の頃からだな。よくテニスボールを飛ばしてくる後輩と認識したのが最初だ。」
「やっぱり……先輩は覚えてないですか。小学校の五年生の時に、私は先輩と会って、直接話もしてるんですよ。」
「えっ、そうなんだ。……ごめん、思い出せない。」
小学校の記憶なんて、さすがに同級生の顔と名前くらいはまだ覚えているが、各学年それぞれ三クラスはあるそこそこ大きな学校だ。学年が違ってしまえば、もう顔や名前なんて全く分からない。
「いえ、別に構いませんよ。でも……中学の時に、私と初めて出会ったことは……覚えてくれてます?」
ちろるは少し不安げにそう尋ねてきた。さすがに俺もその事はちゃんと覚えている。部活の練習中に、俺の脳天へとテニスボールが降ってきたのだ。
「ちろるんが、俺の頭にボールをぶつけた時だろ。もちろん忘れずに覚えてるよ。思い出す度に、あの時の傷が今も疼くぜ……。」
まぁもちろん、傷なんて残ってないけれども……。
「ちょっと! あれは私じゃなくて……、一緒に練習してた子のせいだって言ったじゃないですか~っ!」
「あぁ、確かそうだったかな。」
その時のちろるとのやりとりもちゃんと覚えているが、俺はわざと少しとぼけた返事を返した。
「それにですね……私だって小五の時に、サッカーボールを頭にぶつけられたんですよ。その時にサッカーをしていたのが先輩で、さっきの話とほとんど同じやりとりをしてるんです。」
「マジで……? あれ……? それは……何か……、わずかながら記憶にある気がするぞ……。」
「えっ! ほんとですか!?」
「当時、俺と一緒にサッカーをしてた友達が蹴ったボールが、女の子に当たってしまって……。それで何か……俺のせいだって罵倒されたような記憶が……。」
「……すみません。その時に、“下手くそ!”って、……先輩を罵倒した女の子が私です。」
古ぼけていた遠い過去の記憶が、絵の具で色付けられていくように、鮮やかな色彩を伴って浮かびあがってきた。あの時の少女……、そうか。それがちろるだったのか。
「……まじか。」
「……まじです。」
神妙な顔をして、俺とちろるはお互いの顔をしばらく見つめ合った。道端で立ち止まり、しばらく無言で向き会った状態が続いた後、二人同時に思わず吹き出してしまった。
「……っぷ、ははは!」
「……っふ、あはは!」
「マジか~! あれがちろるんだったのか~!」
「そうですよ。あの時の痛みとともに、今もしっかり思い出せますよ。」
「っはぁ……、そうか。そう思うと、なんだかんだで長い付き合いなんだな。」
「そうですよ。小五の時から数えたら、もう六年の付き合いですよ。もしかしたら、もっと前から会っているのかもしれませんけどね。」
それからは小学校の頃の先生の話や、中学校での思い出話などに花を咲かせた。まだまだ話足らなかったものの、気が付けばもうちろるの家の前まで到着していた。
「あっ、もう家に着いちゃいましたね。」
「おっ、ほんどだ。この話の続きは、また部活の時だな。」
ちろるは少し名残惜しそうな表情を浮かべたが、玄関先まで歩を進めると、くるっとこちらを振り返った。
「……今日は、ほんとうに、と~~~っても楽しかったです!」
「うん、俺も楽しかったよ。」
「ほんと、ありがとうございましたっ……。その……、また来年も……、一緒に行けるといいですね。」
少し伏し目がちになり、自信無さげに言う彼女に、「そうだな、来年も行こう。」と返した。
ちろるはその言葉を聞いてほっとした表情を浮かべ、最後に今日一番の満面の笑みで俺に微笑んだ。
夏の夜空に花火が弾けて輝いたような、とても眩しい笑顔だった。そして玄関の扉を思い切りよく開けて、「ただいま~!」と家の中へと消えていった。
群青色の夜空の濃さはさらに深まり、今日ちろるに教えてもらったアンタレスの星が赤く瞬いていた。静けさで満ちた住宅街を、俺は夜空を時折眺めつつ、ゆっくり天体観測をしながら家まで帰った。
ちろるを家まで送っていく際、俺はちろるに尋ねてみたい事が一つあった。青白い街灯に照らされるちろるの横顔を見つめながら、それを尋ねていいか迷いつつも、やっぱり思い切って聞いてみることにした。
「ちろるんってさ――何で、俺のこと好きになったの?」
「…………。」
ちろるは沈黙のまま、俺の質問の真意を確かめるかのように、こちらをじっと見つめてきた。やっぱ聞くべきではなかったかもしれない……。
「ごめん――話したくなかったら、全然いいんだけど。」
謝る俺に対し、ちろるは「ふふっ、謝らなくても大丈夫ですよ。」とほほ笑んだ。
「そうですね~。私としては別に構わないのですけど……。きっと話せば……、それはもう長くなって、一晩を明かすことになると思いますよ。」
「……はは。さすがに一晩は困るな……。ちろるんの親も心配するだろ。」
「うーん、そうですね。あくまできっかけ……ですけど、先輩は私と初めてあった日のこと覚えてます?」
「――初めてあった日?」
ちろるの存在を認識したのは、俺が中学二年生の時からだ。でも、小学校も同じなのだから、もしかしたら小学校で出会っているのだろうか。
「俺がちろるんを認識したのは、中学二年の頃からだな。よくテニスボールを飛ばしてくる後輩と認識したのが最初だ。」
「やっぱり……先輩は覚えてないですか。小学校の五年生の時に、私は先輩と会って、直接話もしてるんですよ。」
「えっ、そうなんだ。……ごめん、思い出せない。」
小学校の記憶なんて、さすがに同級生の顔と名前くらいはまだ覚えているが、各学年それぞれ三クラスはあるそこそこ大きな学校だ。学年が違ってしまえば、もう顔や名前なんて全く分からない。
「いえ、別に構いませんよ。でも……中学の時に、私と初めて出会ったことは……覚えてくれてます?」
ちろるは少し不安げにそう尋ねてきた。さすがに俺もその事はちゃんと覚えている。部活の練習中に、俺の脳天へとテニスボールが降ってきたのだ。
「ちろるんが、俺の頭にボールをぶつけた時だろ。もちろん忘れずに覚えてるよ。思い出す度に、あの時の傷が今も疼くぜ……。」
まぁもちろん、傷なんて残ってないけれども……。
「ちょっと! あれは私じゃなくて……、一緒に練習してた子のせいだって言ったじゃないですか~っ!」
「あぁ、確かそうだったかな。」
その時のちろるとのやりとりもちゃんと覚えているが、俺はわざと少しとぼけた返事を返した。
「それにですね……私だって小五の時に、サッカーボールを頭にぶつけられたんですよ。その時にサッカーをしていたのが先輩で、さっきの話とほとんど同じやりとりをしてるんです。」
「マジで……? あれ……? それは……何か……、わずかながら記憶にある気がするぞ……。」
「えっ! ほんとですか!?」
「当時、俺と一緒にサッカーをしてた友達が蹴ったボールが、女の子に当たってしまって……。それで何か……俺のせいだって罵倒されたような記憶が……。」
「……すみません。その時に、“下手くそ!”って、……先輩を罵倒した女の子が私です。」
古ぼけていた遠い過去の記憶が、絵の具で色付けられていくように、鮮やかな色彩を伴って浮かびあがってきた。あの時の少女……、そうか。それがちろるだったのか。
「……まじか。」
「……まじです。」
神妙な顔をして、俺とちろるはお互いの顔をしばらく見つめ合った。道端で立ち止まり、しばらく無言で向き会った状態が続いた後、二人同時に思わず吹き出してしまった。
「……っぷ、ははは!」
「……っふ、あはは!」
「マジか~! あれがちろるんだったのか~!」
「そうですよ。あの時の痛みとともに、今もしっかり思い出せますよ。」
「っはぁ……、そうか。そう思うと、なんだかんだで長い付き合いなんだな。」
「そうですよ。小五の時から数えたら、もう六年の付き合いですよ。もしかしたら、もっと前から会っているのかもしれませんけどね。」
それからは小学校の頃の先生の話や、中学校での思い出話などに花を咲かせた。まだまだ話足らなかったものの、気が付けばもうちろるの家の前まで到着していた。
「あっ、もう家に着いちゃいましたね。」
「おっ、ほんどだ。この話の続きは、また部活の時だな。」
ちろるは少し名残惜しそうな表情を浮かべたが、玄関先まで歩を進めると、くるっとこちらを振り返った。
「……今日は、ほんとうに、と~~~っても楽しかったです!」
「うん、俺も楽しかったよ。」
「ほんと、ありがとうございましたっ……。その……、また来年も……、一緒に行けるといいですね。」
少し伏し目がちになり、自信無さげに言う彼女に、「そうだな、来年も行こう。」と返した。
ちろるはその言葉を聞いてほっとした表情を浮かべ、最後に今日一番の満面の笑みで俺に微笑んだ。
夏の夜空に花火が弾けて輝いたような、とても眩しい笑顔だった。そして玄関の扉を思い切りよく開けて、「ただいま~!」と家の中へと消えていった。
群青色の夜空の濃さはさらに深まり、今日ちろるに教えてもらったアンタレスの星が赤く瞬いていた。静けさで満ちた住宅街を、俺は夜空を時折眺めつつ、ゆっくり天体観測をしながら家まで帰った。
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