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夏休み 二章 花火大会
010 花火大会前の天体観測
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「もうすぐ花火が始まるな。」
花火観覧用の場所に着き、俺とちろるは夏の夜空を見上げた。空には夏の星が瞬いており、このまま天体観測をしてもいいなと思える綺麗な夜空だった。
「夏の大三角形が見えますね。」
「うん? どれが夏の大三角形?」
「あの三つのぴかぴかしてる星ですよ。夏に見える一等星は四つしかなくて、そのうち三つが有名な夏の大三角形です。」
「ふーん。残り一つの一等星は?」
「あっちの方にぎりぎり見えてる、赤く輝く眩しい星がそうですね。」
ちろるはそう言って、地平線に近い場所で輝く赤い星を指さした。
「アンタレスと言って、アンチ・タレスが語源だそうです。」
「タレス……火星のアンチ?」
「そうですね。火星に対抗するくらい、赤い星ってことです。」
「なるほど……。」
アンタレス――そう説明されると、とても覚えやすい名前だ。ちろるの説明に、思わず感心してしまった。天体に関しては、俺は学校の授業で習った程度の知識しか知らない。
「ちろるん星座とか好きなの?」
「私、高校入った時、サッカー部のマネージャーになるか、テニス部に入るか、天文部に入るかですごい迷ってたんですよ。」
「そうなんだ、初耳だわ。ってか、うちの学校に天文部とかあったのも初耳だわ。」
「……それは知っててあげてくださいよ。」
「何でサッカー部のマネージャーになろうと思ったの?」
「……。」
ちろるは突然、少しふてくされたような表情に変わり、じろっとした目つきでプラスイオンが含まれた視線を送ってきた。
「え……? なぜそこで黙る。」
「…………鈍感。」
「鈍感……? あっ……、察し。」
ようするに、俺がサッカー部にいたから――ってことでOKなのかな。そんな理由でマネージャーになるとか……ちろるんの俺への愛が半端ない。
しばらく二人の間には、気恥ずかしさからくる何とも言えない沈黙が流れていたが、それは花火が打ちあがる音によって吹き飛ばされた。
「うわっ~! はじまった~!」
花火が打ちあがっている間、俺の隣からは、「花火めっちゃきれい~!」「おっきいな~!」と、ちろるの小学生並みの感想が常にBGMとして流れていた。
「確かに、綺麗だ。」
力強く胸に響く花火の音と共に、無数の光の球が夜空に散らばる。流星群が目の前に降り注いでくるような光景は、思わず息を止めて見てしまうほどの美しさであった。
花火が打ちあがっている間、上を向き続けることに疲れた俺は、時折花火に夢中で空を見上げるちろるの横顔を眺めた。
花火が夜空にはじける度に、彼女の横顔が光に照らされる――俺はまた、この光景を写真で切り取って残したいという衝動に駆られた。できればそれは、彼女の姿を撮るにふさわしい素敵なカメラが必要だったが、あいにく手元にはスマホしかなかった。
もし彼女と、来年も花火を見に来ることができるなら……、その時までには、素敵なカメラを買っておこう。
最後のフィナーレは、数秒間に何百という花火が空に打ちあがり、圧倒される迫力のスターマインが続いた。周囲の観客もここ一番の歓声を上げ、百万人近い人々が夜空を見上げていた。
「花火よかったですね。」
「そうだな。家族以外と行くのも楽しいな。」
「先輩って、家族以外の人と来るのって初めてなんですか?」
「……まぁ、男と花火大会とか行っても虚しいだけだろ。」
「そうですか。」とちろるんは、何やら嬉しそうににやにやしている。
「ちろるん、何でそんなに嬉しそうなの?」
「いやぁ、雪ちゃん先輩の“はじめて”をもらっちゃったな……って思いまして。っあ、ちなみに私も“はじめて”ですよ。」
「……。」
一瞬どきっとしたが、この生娘がまさかそんな際どいことを狙って言っているわけがない。いや、そうであってほしいと願う自分がいる。
「なんでそんな変な顔してるんですか。」と、ちろるは微妙な表情をしていた俺に尋ねた。
「いや……、その言い方は色々と、語弊を生みかねない表現だなぁ……って思いまして。」
「……?」
「ほら、初体験……てきな。」
俺の言葉の意味を理解するまで、紙飛行機を飛ばして地面に落ちるまでくらいのタイムラグがあった。その間、ちろるはぽかんと小さく口を開けて考えたが、その意味に気づいた瞬間、しゅばっとザリガニがバックステップを踏む様に俺から距離をとった。
「……っはぁ!?/// 初体験とか、何考えてんですか!? 先輩のエロすけっ!/// セクハラっ!!」
やっぱりちろるは、性的な意味での“はじめて”を意識して言ったわけではないらしい。罵倒の嵐を浴びたが、これはちろるんが悪くないか――それとも俺がデリカシーないだけ??
それにしても、男子だけじゃなく女子もやっぱり、好きな人と色々なことの初めてを共有するのは嬉しいことなのか。また一つ勉強になった。
つまり、D貞の方が、パートナーからしたら嬉しいということだろう。全国のDを持つ男達は、決して卒業を急ぐ必要はないということだ。Dを持つ男……って、ワンピースのDの一族っぽくていいな。これからは、俺はDの一族だって名乗る事しよう。
「雪ちゃん先輩……、またなんかアホなこと考えてます?」
「おい、またって何だ。俺の灰色の頭脳はいつも高度な思考が巡らされてるんだよ。」
「絶対くだらないことでしょ。私……、先輩がアホな事考えてる時、顔を見たらすぐわかるんですよ。」
ちろるは腕を組んで、「えっへん!」と子どもが自慢げに振る舞う素振りをみせた。
「何それ……。俺の顔に“今、アホな事考えてますよ!”とか書いてあるのか。」
「そうですね。当たらずも遠からずです。」
「いや……、冗談のつもりだったんだけど……。どういう事だよ。」
「なんかね~、口が少し半開きになって、目の焦点が合わないアホな顔してるんですよ。」
「……。これから気を付けるわ。」
「あははっ。私は……先輩のアホな顔も、結構好きですけどね。」
ほんとに……、この子は俺のことちょっと好きすぎるんじゃないだろうか。俺なんかの事をどうしてここまで――。
花火観覧用の場所に着き、俺とちろるは夏の夜空を見上げた。空には夏の星が瞬いており、このまま天体観測をしてもいいなと思える綺麗な夜空だった。
「夏の大三角形が見えますね。」
「うん? どれが夏の大三角形?」
「あの三つのぴかぴかしてる星ですよ。夏に見える一等星は四つしかなくて、そのうち三つが有名な夏の大三角形です。」
「ふーん。残り一つの一等星は?」
「あっちの方にぎりぎり見えてる、赤く輝く眩しい星がそうですね。」
ちろるはそう言って、地平線に近い場所で輝く赤い星を指さした。
「アンタレスと言って、アンチ・タレスが語源だそうです。」
「タレス……火星のアンチ?」
「そうですね。火星に対抗するくらい、赤い星ってことです。」
「なるほど……。」
アンタレス――そう説明されると、とても覚えやすい名前だ。ちろるの説明に、思わず感心してしまった。天体に関しては、俺は学校の授業で習った程度の知識しか知らない。
「ちろるん星座とか好きなの?」
「私、高校入った時、サッカー部のマネージャーになるか、テニス部に入るか、天文部に入るかですごい迷ってたんですよ。」
「そうなんだ、初耳だわ。ってか、うちの学校に天文部とかあったのも初耳だわ。」
「……それは知っててあげてくださいよ。」
「何でサッカー部のマネージャーになろうと思ったの?」
「……。」
ちろるは突然、少しふてくされたような表情に変わり、じろっとした目つきでプラスイオンが含まれた視線を送ってきた。
「え……? なぜそこで黙る。」
「…………鈍感。」
「鈍感……? あっ……、察し。」
ようするに、俺がサッカー部にいたから――ってことでOKなのかな。そんな理由でマネージャーになるとか……ちろるんの俺への愛が半端ない。
しばらく二人の間には、気恥ずかしさからくる何とも言えない沈黙が流れていたが、それは花火が打ちあがる音によって吹き飛ばされた。
「うわっ~! はじまった~!」
花火が打ちあがっている間、俺の隣からは、「花火めっちゃきれい~!」「おっきいな~!」と、ちろるの小学生並みの感想が常にBGMとして流れていた。
「確かに、綺麗だ。」
力強く胸に響く花火の音と共に、無数の光の球が夜空に散らばる。流星群が目の前に降り注いでくるような光景は、思わず息を止めて見てしまうほどの美しさであった。
花火が打ちあがっている間、上を向き続けることに疲れた俺は、時折花火に夢中で空を見上げるちろるの横顔を眺めた。
花火が夜空にはじける度に、彼女の横顔が光に照らされる――俺はまた、この光景を写真で切り取って残したいという衝動に駆られた。できればそれは、彼女の姿を撮るにふさわしい素敵なカメラが必要だったが、あいにく手元にはスマホしかなかった。
もし彼女と、来年も花火を見に来ることができるなら……、その時までには、素敵なカメラを買っておこう。
最後のフィナーレは、数秒間に何百という花火が空に打ちあがり、圧倒される迫力のスターマインが続いた。周囲の観客もここ一番の歓声を上げ、百万人近い人々が夜空を見上げていた。
「花火よかったですね。」
「そうだな。家族以外と行くのも楽しいな。」
「先輩って、家族以外の人と来るのって初めてなんですか?」
「……まぁ、男と花火大会とか行っても虚しいだけだろ。」
「そうですか。」とちろるんは、何やら嬉しそうににやにやしている。
「ちろるん、何でそんなに嬉しそうなの?」
「いやぁ、雪ちゃん先輩の“はじめて”をもらっちゃったな……って思いまして。っあ、ちなみに私も“はじめて”ですよ。」
「……。」
一瞬どきっとしたが、この生娘がまさかそんな際どいことを狙って言っているわけがない。いや、そうであってほしいと願う自分がいる。
「なんでそんな変な顔してるんですか。」と、ちろるは微妙な表情をしていた俺に尋ねた。
「いや……、その言い方は色々と、語弊を生みかねない表現だなぁ……って思いまして。」
「……?」
「ほら、初体験……てきな。」
俺の言葉の意味を理解するまで、紙飛行機を飛ばして地面に落ちるまでくらいのタイムラグがあった。その間、ちろるはぽかんと小さく口を開けて考えたが、その意味に気づいた瞬間、しゅばっとザリガニがバックステップを踏む様に俺から距離をとった。
「……っはぁ!?/// 初体験とか、何考えてんですか!? 先輩のエロすけっ!/// セクハラっ!!」
やっぱりちろるは、性的な意味での“はじめて”を意識して言ったわけではないらしい。罵倒の嵐を浴びたが、これはちろるんが悪くないか――それとも俺がデリカシーないだけ??
それにしても、男子だけじゃなく女子もやっぱり、好きな人と色々なことの初めてを共有するのは嬉しいことなのか。また一つ勉強になった。
つまり、D貞の方が、パートナーからしたら嬉しいということだろう。全国のDを持つ男達は、決して卒業を急ぐ必要はないということだ。Dを持つ男……って、ワンピースのDの一族っぽくていいな。これからは、俺はDの一族だって名乗る事しよう。
「雪ちゃん先輩……、またなんかアホなこと考えてます?」
「おい、またって何だ。俺の灰色の頭脳はいつも高度な思考が巡らされてるんだよ。」
「絶対くだらないことでしょ。私……、先輩がアホな事考えてる時、顔を見たらすぐわかるんですよ。」
ちろるは腕を組んで、「えっへん!」と子どもが自慢げに振る舞う素振りをみせた。
「何それ……。俺の顔に“今、アホな事考えてますよ!”とか書いてあるのか。」
「そうですね。当たらずも遠からずです。」
「いや……、冗談のつもりだったんだけど……。どういう事だよ。」
「なんかね~、口が少し半開きになって、目の焦点が合わないアホな顔してるんですよ。」
「……。これから気を付けるわ。」
「あははっ。私は……先輩のアホな顔も、結構好きですけどね。」
ほんとに……、この子は俺のことちょっと好きすぎるんじゃないだろうか。俺なんかの事をどうしてここまで――。
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