趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚

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 ギルドマスターの朝は早い――正確には、世間的に見れば「昼過ぎ」だが、俺的には早い。
 目を覚ました俺は、隣で眠っている猫に顔を埋め、ハイになれる謎の成分を摂取した後、起き上がった。
 そして、机の上に置いてあった何枚かの紙を手に、部屋を出る。
 人は三日あれば忘れると言うが、俺は三日経っても忘れられなかった。
 ギルドを埋め尽くした加入希望者の顔、ラグナルの満面の笑み、リゼットの手際の良い書類処理。
 そして――二人だけ残ったセレスとローヴァン。
 俺のささやかなギルマス生活は、これからどうなってしまうのだろう。

「おはようー」

 扉を開けると、見知った顔、新顔共にいたりいなかったりした。

「おはようございます、シン様。こちら、本日の紅茶になります」
「おお、ありがとう」

 リゼットからカップを受け取ると、彼女が運んできてくれた椅子に座る。全自動で満足感が満たされていく。

「マスターおはよっ! 今日もいい天気だよ!」
「シンさん、おはようございます! 見てください、新しい剣を買ったんですよ!」
「あ、兄さんだけずるい! 私も買ったんです! ……おはようございますっ!」
 
 セラ、レオン、イーリスの三人は若者同士話が合うのか、よく固まっている印象がある。
 と、その時、ギルドの扉が勢いよく開かれた。
 見れば、汗だくのラグナルとセレス、涼しい顔で後ろに控える爺。

「おお団長ッ! 本日は三十分お早いお目覚めでッ! 暑苦しいお出迎えになってしまい申し訳ございませんッ!」

 暑苦しい自覚はあるんだ……いや、汗をかいているからか。

「おはよう。えっと……二人はなにを?」
「セレス嬢と筋トレに勤しんでおりましたッ!」
「おほほ、その通りですわ! 日差しを背に受けながらの腕立て伏せは、一日の活力を爆上げしてくれましてよ!」

 ドリルを揺らしながら熱弁するセレスに、「その通りです」と淡々と相槌を打つ爺。
 なるほど。脳筋が二人集まると暑苦しさは足し算ではなく掛け算されるらしい。

「この後、シン様もご一緒されませんこと!?」
「今日はやめておきます」

 一日の活力どころか、疲労でその日が終わる未来しか見えない。
 ふと視線をやると、カウンターの隅にローヴァンが座っていた。
 朝の騒がしさとは別世界のように、湯気を立てるお茶を片手に、静かに窓の外を眺めている。
 その背中からは、年季の入った剣士特有の落ち着きと――なんか妙な迫力が漂っていた。

「おはようございます、ローヴァンさん。早いですね」
「何言ってんだ坊主。俺だって寝てたいんだよ」

 返ってきたのは、渋く低い声と深いため息。
 
「昨日、お前さんが言ったんじゃねぇか。『明日はやることがあるから、いい感じの時間に集まるように』って」
「……そうでした。ちなみに、何時からここに?」
「八時くらいだな」

 俺の中でのいい感じは二時か三時なのだが、この人の場合はどうやら早朝らしい。

「おい坊主、その顔。俺を『早起きすぎだろ』って思ってないよな?」
「……思ってませんよ」
「ほう、ジジイになって勘も鈍っちまったかなぁ?」

 ニヤリと笑うローヴァンに、ラグナルが「さすがですッ!」と訳のわからない賛辞を送る。
 セレスは「まぁまぁ、早起きは三文の徳と申しますし!」と腕を組んで頷き、イーリスは「私も早起きできるよう頑張ります!」と宣言していた。
 早起き競争を始めるつもりはないんだが。

「……で、特別な用事があるんだろ? 発表してくれよ」

 全員の視線がこちらに集まる。
 セレスは胸を張り、レオンとイーリスは何事かと首を傾げている。

「あー……大したことじゃないんだけど、ちょっとギルドの方針を伝えておこうと思って」

 この前の戦いで学んだ事だ。
 俺は懐から、さっきまで机の上に置いてあった紙束を取り出す。
 セレスの視線が紙に向かい、レオンは「うわ、なんか正式な書類っぽい」と小声で呟き、イーリスはそれを聞いてクスクス笑った。

「王都ギルドが定めるランクの精度は高い。けど、ギルドマスターとしては各々の実際の動きや得意・不得意を見ておきたい。ってことで――」

 軽く紙を振って見せ、名前を呼んだ。

「レオンとイーリス、セレス……さん、ローヴァンさん。それぞれ俺と、簡単な依頼に行ってもらいます」

 途端、反応は様々だった。

「おおっ、それは楽しそうですね!」
 
 レオンは目を輝かせ、すぐに腰の剣に手をやる。武器の準備が早い。

「わぁ……シンさんと一緒に依頼なんて嬉しいです!」
 
 イーリスは控えめに両手を胸の前で握りしめ、頬を赤らめる。

「ふふん、ようやくわたくしの鍛錬の成果をお見せする時が来ましたわね! それとシン様、わたくしの事は気軽にセレスと呼んでくださいましっ!」
「そ、そうか……それじゃあセレス、よろしく」
「はいっ! わたくしと貴方様の仲に遠慮は不要でしてよ~!」
 
 セレスは扇子を開き、ドリルを誇らしげに揺らしながら仁王立ちしている。
 そして、背後の爺の目が「何もするなよ」と告げている。しねぇよ。

「ほぉ、坊主が俺の動きを見極めるってか。いいじゃねぇか、久々に剣が鳴るってもんだ」
 
 ローヴァンさんは口元だけで笑い、椅子の背に置いていた長剣の柄を軽く叩く。
 よし、これで伝えるべき事は伝えたな。あとは――。

「リゼット、セラ、ラグナル。俺が留守の間は頼んだぞ。何が言いたいか……分かるよな?」

 三人は頷く。

「もちろんです。シン様がお留守の間、ギルド内から埃を駆逐しておきます。シン様のお部屋の安全もお任せください。主にベッドの」
「リゼットさんがいるし、私は修行してこようかな! ローヴァンさんにアドバイスもらおーっと!」
「まぁかせてくださいッ! 団長の強さ、逞しさ、寛大さを街中に広めて参りますッ!」

 セラは良し、百歩譲ってリゼットも良いといして。

「……ラグナル、俺が戻るまでずっと筋トレだけしててくれ」
「何故ですかッ!?」

 ラグナルの驚愕の声が、ギルドを揺らしたのだった。
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