趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚

文字の大きさ
21 / 74

幸せな時間

しおりを挟む
 シンの刃が男を捉えることはなかった。
 否、それは身体にぶつかることもなかった。

「ぐ、あっ……か、はッ……ッあああああッ……!」

 喉が裂けそうな声が漏れる。
 内臓を素手で握り潰されるような痛み。
 神経が一本ずつ焼き切れていくような感覚。

「がっ、はッ……ッく……」

 声にならない絶叫が、歯の隙間から漏れる。
 腹の傷からはまだ血が流れていたが、その感覚すら遠くなるほどの熱が、身体を焼き尽くしていく。

「……ああ、君も気づかなかったか。残念」

 男が囁くように言う。
 その声音には、わずかな落胆と、薄い愉悦が滲んでいた。

「種明かしをしてあげるよ。この短剣は、僕の友達の牙を削って作ったものなんだ」

 男はうっとりとした声で呟いた。
 
「彼に、そしてこの剣に傷をつけられた者は、呪われる。僕に対して危害を加えようとすると――その身体に、死ぬほどの痛みが走るようにね。いいでしょう? とっても理にかなってる」

 まるで芸術品を紹介するような口ぶりだった。
 苦しむシンの姿に、セラは絶句していた。

「まさか、団長が……!」

 その時、教会の裏手からラグナルが戻ってきた。
 広場の惨状を見た彼は、一瞬で何が起きているのかを悟る。

「団長オオォォォォッ!」

 野太い声が夜気を裂いた。
 大地を踏み抜くような勢いで、彼が男へ向かって踏み出す。
 だが――その巨体が跳びかかろうとした刹那。
 
「――来るな……ッ!」

 シンが吠えた。
 身体を焼かれるような激痛の中で、それでも絞り出した言葉だった。
 その声音に、ラグナルは思わず足を止める。

「な、何故ですか……何故ですか団長ッ!」
「……お……お前は言った……な……死ぬほどの、いた、み、だと……」

 シンはラグナルの言葉に返さず、男に問う。

「あぁ……この痛みで死ぬことはないよ。死ぬほど苦しんで、最後に私が殺すか……彼に喰わせるんだから」

 男は恍惚の笑みを浮かべる。

「そこで寝てる彼には可能性を感じてねぇ。考えに考え抜かせて、それを踏みにじって殺す……そのために生かしておいたんだ。まぁ、買い被りだったけどね」
「は、はは……そう、か……」

 シンは吐き出すように笑った。
 喉の奥で血が泡立ち、口内に広がっていく鉄の味が、思考の縁をじわりと蝕んでいく。
 けれど――その笑みは消えなかった。

「……なにがおかしい?」

 シンの膝に力が入る。全身の筋肉が軋みを上げる。
 吐血しながら、手を地面につく。

「ま、マスター……これ以上は、もう……」
 
 セラが呟く。
 彼女の瞳は大きく見開かれ、涙が今にも零れそうだった。

「もう、立たないで……!」

 それでも、シンの脚はゆっくりと、確かに地を踏んだ。
 もはや狂気的とも思えるシンの姿に、男の表情がかたまる。

「き、君は……死ぬ気なのか?」

 はじめて、男の声が揺れる。
 想定外のものを目にしたかのように。
 
「――うるせぇな」

 声はほとんど出ていなかったが、その響きには、はっきりとした芯があった。
 そして、再び短剣を強く握ると、男を目掛けて剣を――。

「――ぐああああぁぁぁぁぁっ!」

 呪いの痛みが全身を駆け巡る。
 焼けた鉄の杭が脳髄を貫くような激痛。
 全身の神経が一斉に悲鳴を上げ、視界が赤と白に弾ける。
 でも――。

「ど、どうして止まらない!?」

 男が一歩後ずさる。
 攻撃は届かず、刃先は空を斬った。
 だが、シンは剣を振り続けて、痛みに悶え続ける。

「お願いします! もうやめてください!」
「私たちのことはいいから――やめて……」

 自分を助けてくれようとしている。
 だが、その姿があまりにも痛々しく、レオンとイーリスは懇願する。
 もう見ていられないと……自分たちの命が失われる方がマシだと。
 しかし、シンは剣を振り続ける。

「君は――君はどうして諦めない!?」

 その言葉に、シンの動きがピタリと止まる。
 戦う前よりも、遥かに強い眼差しで男を射抜く。

「俺が……俺がここで剣を振るわなかったら――」

 自分を心配しているであろう仲間たち、兄妹へと視線を向ける。

「――終わっちまうだろうがッ!」

 叫びと共に、幾度となく繰り返されたシンの一撃。
 それがついに――男の皮膚を裂く。
 ある者は心を揺さぶられ、ある者は驚き、ある者は納得に目を見開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

処理中です...