君に望むは僕の弔辞

爺誤

文字の大きさ
6 / 10

6 無知の恥

しおりを挟む
 花のあった場所は、小さな屋敷の庭だった。
 少年は俺に食料と寝床と、人間らしく戻るきっかけをあたえた。

 身体が回復したところで、国に戻ることも今は難しい。
 弟の元婚約者の父親である宰相がどんな手段を取るかわからないが、王家がすり替わる可能性もある。
 俺を生かしたのはその娘だから、思惑が違うかもしれない。

 兄と弟が死んでも、血統を残すための保険か。
 だけど護衛の一人もないということは、弟の元婚約者の独断かもしれない。
 宰相にとっては血統が残っている方が厄介だろう。
 王家を乗っ取るほうが話が早い。

「お茶を飲まない?」
「ああ、すぐに用意しよう」

 今の俺の身分は、屋敷の主人の話し相手兼雑用係となっている。
 行く先がないと言ったら、そうなった。

 かなり裕福な様子で、本家から予算は潤沢に出ているという。
 その割に使用人達が質素な様子なのは、全員がこだわった趣味を持っているからだそうだ。

 執事は材料にこだわったぬいぐるみ作成、メイド頭(といってもメイドも三人しかいない)はアクセサリー作り、メイド二人は揃って物語を作成しているらしい。
 雑用係兼庭師兼護衛官のふたりはナイフ集めと珍しい植物の栽培をしている。
 二階建ての屋敷の半分以上が使用人たちの部屋だ。

 彼らの主人である少年は、彼らを面白がって自由にさせている。
 少年自身は、非常に虚弱なようで、起きてごく少量の食事を食べては寝て、体調がいいと散歩をしてまた眠り、と一日のほとんどを寝ている。

 それでも顔を合わせたら俺の話を聞きたがった。
 聞けば、幼い頃は床から上がれないような生活をしていて、この屋敷に来てから庭の散策などをできるようになったという。

 狭すぎる世界で生きている少年は、いつまで生きられるかわからないけれど、心穏やかに死ねたらいいと言った。
 笑わないのかと聞いたら、笑い方なんて忘れてしまったと返されて、己の無神経に反省した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

俺の居場所を探して

夜野
BL
 小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。 そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。 そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、 このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。 シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。 遅筆なので不定期に投稿します。 初投稿です。

僕は何度でも君に恋をする

すずなりたま
BL
由緒正しき老舗ホテル冷泉リゾートの御曹司・冷泉更(れいぜいさら)はある日突然、父に我が冷泉リゾートが倒産したと聞かされた。 窮地の父と更を助けてくれたのは、古くから付き合いのある万里小路(までのこうじ)家だった。 しかし助けるにあたり、更を万里小路家の三男の嫁に欲しいという条件を出され、更は一人で万里小路邸に赴くが……。 初恋の君と再会し、再び愛を紡ぐほのぼのラブコメディ。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

妹に奪われた婚約者は、外れの王子でした。婚約破棄された僕は真実の愛を見つけます

こたま
BL
侯爵家に産まれたオメガのミシェルは、王子と婚約していた。しかしオメガとわかった妹が、お兄様ずるいわと言って婚約者を奪ってしまう。家族にないがしろにされたことで悲嘆するミシェルであったが、辺境に匿われていたアルファの落胤王子と出会い真実の愛を育む。ハッピーエンドオメガバースです。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。 ※8/10 本編の後に弟ルネとアルフォンソの攻防の話を追加しました。

処理中です...