4 / 5
第04話 ある少年との出会い
しおりを挟む
「レアーヌさん、あのっ、この魔物にはどう立ち向かえばいいんでしょうか……っ!」
陽の光を反射させて鈍色の光沢を放つ片手剣(ショートソード)を一生懸命に構えながら、戦士の少年——シリルが尋ねてきた。
風に揺れる柔らかな金髪を短くまとめた彼は、初めての本格的な戦闘を前に、小鹿のように全身を強張らせて私を見つめている。
「ご、ご指示を! 僕、頭が真っ白になっちゃって……。レアーヌさんの言う通りに動きますから、僕が何をすればいいか全部教えてください!」
必死に助けを求める少年の姿に、私は安心させるような穏やかな微笑みを返した。
「大丈夫よ、シリル。落ち着いて。その子は牙の攻撃にさえ気をつければ怖くないわ。獲物を狙うときは必ず首筋へ飛びかかってくる。だから、相手が動く瞬間に合わせて左手のバックラーで『盾殴り(シールドバッシュ)』を放つの。怯んだ隙に剣でトドメを刺せばいいわ」
街外れの平原。私たちはいま、群れからはぐれた一匹の魔物と対峙していた。
『白銀狼(シルバーウルフ)』。危険度は低いが、初陣の少年には十分すぎる脅威だろう。
メイドである私にとっては荷の重い相手だが、彼ならできるはずだ。危なげなく初勝利を収められるよう、私は背中を押す。
「長年に渡って多くの冒険者を見てきた私には分かるわ。貴方なら、絶対にできる」
「は、はい……っ! レアーヌさんがそう言ってくれるなら、僕、やってみます!」
私が泰然と構えているのを見て、シリルも少しずつ呼吸を整え始めた。
そう、それでいい。戦いにおいて最も重要なのは平常心。
「えっと、バックラーで殴ってから、トドメ……。よし、頭に入れました!」
私の指示を反復しながら、シリルは勇気を振り絞って踏み出した。
両足をしっかりと開き、腰を落とす。そして片手剣の柄でバックラーを打ち鳴らした。戦士の基本スキル『挑発(プロヴォーク)』だ。
教えたわけではないが、相手を誘い出す方法を自分で考えたらしい。いい筋をしているわ。
「アオオオオオオンッ!」
じりじりとした睨み合いの末、焦れたシルバーウルフがシリルめがけて弾かれたように駆け出した。
「盾(シ)、シールドバッ——」
「焦らないで! まだ引きつけるのよ!」
「わわっ!?」
恐怖から早まろうとした彼を、鋭い声で制止する。
今打てば回避される。怖いでしょうけれど、あと数歩、我慢よ。
「——今っ!」
「……はいっ!!」
私の声に応え、シリルは渾身の力でバックラーを突き出した。
飛びかかってきた銀狼の顔面に盾が直撃し、衝撃で魔物が地面に叩きつけられる。自慢の牙が血飛沫と共に散り、銀狼は地面でビクビクと痙攣するが、もう起き上がる力はない。
「ふ、ふぅ……上手くいったぁ……」
「安心するのはまだ早い。とどめを刺してないわよ」
「あ、そうだった! よ、よし……えいっ!」
無防備な首筋に、シリルは精一杯の力でショートソードを振り下ろした。
切っ先は少し震えたけれど、その一撃は銀狼の命を断つのに十分な鋭さを持っていた。
「はあ、はあ……」
荒い息をつきながら、シリルは呆然と魔物の遺骸を見つめている。
「おめでとう、シリル。立派な初勝利よ」
後ろから近づき、パチパチと拍手を送る。
そこでようやく彼は自分がやり遂げたことに気づいたようだ。
「や、やりました、レアーヌさん! 僕、一人で魔物を倒せたんだ! すごいや、本当に倒せちゃった!」
パッと顔を輝かせ、少年の純粋な喜びが爆発する。
「全部、レアーヌさんのアドバイスのおかげです。僕、緊張してダメダメだったのに、優しく教えてくれて……ありがとうございます!」
「いいえ、貴方の勇気の結果よ。もっと自分を誇っていいわ。本当によく頑張ったわね」
ねぎらいを込めて少年の頭を撫でると、彼は顔を真っ赤にして、けれどとても幸せそうに「えへへ」と笑った。
その懐いてくるような仕草は、本当に小動物のようで可愛らしい。
「——さあ、今日は初討伐の記念に二人でお祝いをしましょう。私が腕によりをかけてご馳走を作るわ」
「やったあ! レアーヌさんの料理、僕、世界で一番大好きなんです! たくさん動いたら、なんだかすっごくお腹が空いてきちゃった」
「リクエストはあるかしら?」
「じゃあ石鶏の唐揚げにアーリーバッファローのテールスープ、それからヘアリーボアの姿焼きにブロードシープのラムチョップも食べたいです!」
「ふふ、お肉ばっかりじゃない。もっとお野菜も食べないとダメよ?」
呆れる私に、シリルはニコッと無邪気な笑みを向けて言った。
「いいんです、こう見えて僕、肉食男子ですから! 牛さんたちが僕の代わりに草を食べてくれてるから、お肉を食べれば野菜を摂ったのと同じなんです!」
「……そんな理屈、聞いたことないわよ?」
「そういうものなんですー! だからレアーヌさん、今日はいっぱい食べさせてくださいね!」
あどけない少年のわがままに、私は苦笑しながら彼と連れ立って帰路につく。
さて、この可愛らしい少年のために、どんなお祝いの食卓を整えようかしら。
陽の光を反射させて鈍色の光沢を放つ片手剣(ショートソード)を一生懸命に構えながら、戦士の少年——シリルが尋ねてきた。
風に揺れる柔らかな金髪を短くまとめた彼は、初めての本格的な戦闘を前に、小鹿のように全身を強張らせて私を見つめている。
「ご、ご指示を! 僕、頭が真っ白になっちゃって……。レアーヌさんの言う通りに動きますから、僕が何をすればいいか全部教えてください!」
必死に助けを求める少年の姿に、私は安心させるような穏やかな微笑みを返した。
「大丈夫よ、シリル。落ち着いて。その子は牙の攻撃にさえ気をつければ怖くないわ。獲物を狙うときは必ず首筋へ飛びかかってくる。だから、相手が動く瞬間に合わせて左手のバックラーで『盾殴り(シールドバッシュ)』を放つの。怯んだ隙に剣でトドメを刺せばいいわ」
街外れの平原。私たちはいま、群れからはぐれた一匹の魔物と対峙していた。
『白銀狼(シルバーウルフ)』。危険度は低いが、初陣の少年には十分すぎる脅威だろう。
メイドである私にとっては荷の重い相手だが、彼ならできるはずだ。危なげなく初勝利を収められるよう、私は背中を押す。
「長年に渡って多くの冒険者を見てきた私には分かるわ。貴方なら、絶対にできる」
「は、はい……っ! レアーヌさんがそう言ってくれるなら、僕、やってみます!」
私が泰然と構えているのを見て、シリルも少しずつ呼吸を整え始めた。
そう、それでいい。戦いにおいて最も重要なのは平常心。
「えっと、バックラーで殴ってから、トドメ……。よし、頭に入れました!」
私の指示を反復しながら、シリルは勇気を振り絞って踏み出した。
両足をしっかりと開き、腰を落とす。そして片手剣の柄でバックラーを打ち鳴らした。戦士の基本スキル『挑発(プロヴォーク)』だ。
教えたわけではないが、相手を誘い出す方法を自分で考えたらしい。いい筋をしているわ。
「アオオオオオオンッ!」
じりじりとした睨み合いの末、焦れたシルバーウルフがシリルめがけて弾かれたように駆け出した。
「盾(シ)、シールドバッ——」
「焦らないで! まだ引きつけるのよ!」
「わわっ!?」
恐怖から早まろうとした彼を、鋭い声で制止する。
今打てば回避される。怖いでしょうけれど、あと数歩、我慢よ。
「——今っ!」
「……はいっ!!」
私の声に応え、シリルは渾身の力でバックラーを突き出した。
飛びかかってきた銀狼の顔面に盾が直撃し、衝撃で魔物が地面に叩きつけられる。自慢の牙が血飛沫と共に散り、銀狼は地面でビクビクと痙攣するが、もう起き上がる力はない。
「ふ、ふぅ……上手くいったぁ……」
「安心するのはまだ早い。とどめを刺してないわよ」
「あ、そうだった! よ、よし……えいっ!」
無防備な首筋に、シリルは精一杯の力でショートソードを振り下ろした。
切っ先は少し震えたけれど、その一撃は銀狼の命を断つのに十分な鋭さを持っていた。
「はあ、はあ……」
荒い息をつきながら、シリルは呆然と魔物の遺骸を見つめている。
「おめでとう、シリル。立派な初勝利よ」
後ろから近づき、パチパチと拍手を送る。
そこでようやく彼は自分がやり遂げたことに気づいたようだ。
「や、やりました、レアーヌさん! 僕、一人で魔物を倒せたんだ! すごいや、本当に倒せちゃった!」
パッと顔を輝かせ、少年の純粋な喜びが爆発する。
「全部、レアーヌさんのアドバイスのおかげです。僕、緊張してダメダメだったのに、優しく教えてくれて……ありがとうございます!」
「いいえ、貴方の勇気の結果よ。もっと自分を誇っていいわ。本当によく頑張ったわね」
ねぎらいを込めて少年の頭を撫でると、彼は顔を真っ赤にして、けれどとても幸せそうに「えへへ」と笑った。
その懐いてくるような仕草は、本当に小動物のようで可愛らしい。
「——さあ、今日は初討伐の記念に二人でお祝いをしましょう。私が腕によりをかけてご馳走を作るわ」
「やったあ! レアーヌさんの料理、僕、世界で一番大好きなんです! たくさん動いたら、なんだかすっごくお腹が空いてきちゃった」
「リクエストはあるかしら?」
「じゃあ石鶏の唐揚げにアーリーバッファローのテールスープ、それからヘアリーボアの姿焼きにブロードシープのラムチョップも食べたいです!」
「ふふ、お肉ばっかりじゃない。もっとお野菜も食べないとダメよ?」
呆れる私に、シリルはニコッと無邪気な笑みを向けて言った。
「いいんです、こう見えて僕、肉食男子ですから! 牛さんたちが僕の代わりに草を食べてくれてるから、お肉を食べれば野菜を摂ったのと同じなんです!」
「……そんな理屈、聞いたことないわよ?」
「そういうものなんですー! だからレアーヌさん、今日はいっぱい食べさせてくださいね!」
あどけない少年のわがままに、私は苦笑しながら彼と連れ立って帰路につく。
さて、この可愛らしい少年のために、どんなお祝いの食卓を整えようかしら。
171
あなたにおすすめの小説
「あなたは強いから大丈夫よね」、無自覚に人生を奪う姉
恋せよ恋
恋愛
「セリーヌは強いから、一人でも大丈夫よね?」
婚約破棄され「可哀想なヒロイン」となった姉カトリーヌ。
無自覚で優しい姉を気遣う両親と『私の』婚約者クロード。
私の世界は反転した。
十歳から五年間、努力で守ってきた「次期後継者」の座も。
自分に誂えた「ドレス」も……。「婚約者」さえも……。
両親は微笑んで言う。
「姉様が傷ついているの強いお前が譲ってあげなさい」と。
泣いて縋れば誰かが助けてくれると思っているお姉様。
あとはお一人で頑張ってくださいませ。
私は、私を必要としてくれる場所へ――。
家族と婚約者を見限った、妹・セリーヌの物語。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
「憎悪しか抱けない『お下がり令嬢』は、侍女の真似事でもやっていろ」と私を嫌う夫に言われましたので、素直に従った結果……
ぽんた
恋愛
「おれがおまえの姉ディアーヌといい仲だということは知っているよな?ディアーヌの離縁の決着がついた。だからやっと、彼女を妻に迎えられる。というわけで、おまえはもう用済みだ。そうだな。どうせだから、異母弟のところに行くといい。もともと、あいつはディアーヌと結婚するはずだったんだ。妹のおまえでもかまわないだろう」
この日、リン・オリヴィエは夫であるバロワン王国の第一王子マリユス・ノディエに告げられた。
選択肢のないリンは、「ひきこもり王子」と名高いクロード・ノディエのいる辺境の地へ向かう。
そこで彼女が会ったのは、噂の「ひきこもり王子」とはまったく違う気性が荒く傲慢な将軍だった。
クロードは、幼少の頃から自分や弟を守る為に「ひきこもり王子」を演じていたのである。その彼は、以前リンの姉ディアーヌに手痛い目にあったことがあった。その為、人間不信、とくに女性を敵視している。彼は、ディアーヌの妹であるリンを憎み、侍女扱いする。
しかし、あることがきっかけで二人の距離が急激に狭まる。が、それも束の間、王都が隣国のスパイの工作により、壊滅状態になっているいう報が入る。しかも、そのスパイの正体は、リンの知る人だった。
※全三十九話。ハッピーエンドっぽく完結します。ゆるゆる設定です。ご容赦ください。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
お望み通り、消えてさしあげますわ
梨丸
恋愛
一国の次期王妃と言われていた子爵令嬢アマリリス。
王太子との結婚前夜、彼女は自ら火を放ち、死んだ。
国民達は彼女の死を特に気にもしなかった。それどころか、彼女の死を喜ぶ者もいた。彼女の有していた聖女の力は大したものではなかったし、優れているのは外見だけの“役立たずの聖女”だと噂されるほどだったから。
彼女の死後、すぐさま後釜として皆に好かれていた聖女が次期王妃に召し上げられた。
この国はより豊かになる、皆はそう確信した。
だが、“役立たずの聖女”アマリリスの死後──着実に崩壊は始まっていた。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
※この調子だと短編になりそうです。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる