そんなに相談女の方が良ければお好きにどうぞ。邪魔な私たちはいなくなりますので

日々埋没。

文字の大きさ
4 / 26

04

しおりを挟む
「海ですわっ!」 

 目の前で水平線上に広がる大海原を眺め、誰からともなく感激の声を上げた。

 結局あれからカナデアたちが親を説得し、正式に休学届けを出したのは、それからすぐのことだった。

 もちろん休学に際し、ある程度のいきさつは話してある。
 名前こそ出さなかったもののミーナのせいだと。

「ああ、潮風が気持ちいいわ……」

 今回の発起人でもあるカナデアがほうと息をもらす。
 友人の予期せぬ形での婚約破棄による精神保養も兼ね、今回は皆での傷心旅行と称してリゾート地と名高いここ隣国にやってきた。

 一般庶民とは違い、令嬢たちが通う学園は色々と融通が利く。
 故に突発的な数ヶ月程度の休学もなんなく認めてもらうことができた。

 もっともこれらは表向きの理由であり、真の目的は他にある。
 そのためしばらくここで時間を潰す必要があり、畢竟ひっきょうただ黙って無為な毎日を過ごすだけでも問題はない。
 ――が、どうせなら今は素直にバカンスを楽しむことにしたカナデア御一行である。

「ありがとうカナデアさんに皆さん。おかげでわたくしも少しだけ心が楽になりましたわ。やはり持つべきものは友ですわね」

 そう言ってまだぎこちながらも薄い笑顔を浮かべながら、件の友人からそんな感謝の言葉を聞かされては胸が熱くならないわけがない。
 婚約破棄の一件からまだ完全に立ち直れたわけではないだろうが、この選択は間違っていなかったとカナデアは思う。

「さあさ、せっかくの機会なのだから堅苦しいことは言いっこなしよ。楽しましょう!」

 ことさら努めて明るく言うカナデアの言葉に皆は賛成の意を示す。
 建て前はどうであれミーナのいない地で羽を伸ばすこともまた、彼女らには必要だったのだろう。

 ――さて、カナデアが考案した対ミーナへの対抗策はこうだ。

 元々ミーナは一人でいる分にはそう大したことはない。
 良くも悪くも空気を読まない性格ではあるが、用がなければ向こうから近づいてこないのでそうして遠巻きにしている分には害はない。

 なのに何故彼女がこうもトラブルメーカーになっているのかといえばやはりそれは狙った異性に媚びを売り、ともすれば周囲の人間――この場合は彼女の友人である――をターゲットに近づくための都合の良い引き立て役にするからなのは周知の通り。

 淑女であろうとする貴族令嬢たちは普段他者の悪口を叩くことがなく、殿方にも好まれるように乱暴な言動を控えて奥ゆかしくあるから、それを逆手にとってミーナは相談女として先手を打つ。

 当然こういった手合いに対する適切な対処の仕方を知らない令嬢たちは後手に回り、あることないことを吹き込まれて悪者にされるのだ。

 しかもそれだけのことをやっておきながら抜かりなく周囲の目を気にし、表面上は仲の良い友人として振る舞ってくるからなおのこと質が悪い。
 
 だからこそカナデアはミーナの相談女として話の種にされるくらいなら、いっそのこと物理的に距離を置こうと考えたわけだ。

 当然ミーナはこのことすら友人に裏切られたあたし可哀相アピールに利用するのだろうが、騙されやすい令息らに見切りはつけてあるのでいくら自分たちの悪評を流されようとも関係ない。

 ただ一つ誤算があるとするならば、当初カナデアは気の置けない友人たちとだけ行動を共にするつもりだった。

 それが気がつけば同性だけで一クラスは作れそうになるほどの大所帯となっていた。

 どうやら自分が思っていたよりもずっとミーナ被害者の会は拡大しており、今回の噂を聞きつけた他クラスの令嬢もどうせならと付いて来ることとなったのだから恐ろしい。

 一体どれほどミーナは令嬢らの恨みを買っているのかと。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※短編です。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4800文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

妹の初恋は私の婚約者

あんど もあ
ファンタジー
卒業パーティーで、第一王子から婚約破棄を宣言されたカミーユ。王子が選んだのは、カミーユの妹ジョフロアだった。だが、ジョフロアには王子との婚約が許されない秘密があった。

王家の賠償金請求

章槻雅希
恋愛
王太子イザイアの婚約者であったエルシーリアは真実の愛に出会ったという王太子に婚約解消を求められる。相手は男爵家庶子のジルダ。 解消とはいえ実質はイザイア有責の破棄に近く、きちんと慰謝料は支払うとのこと。更に王の決めた婚約者ではない女性を選ぶ以上、王太子位を返上し、王籍から抜けて平民になるという。 そこまで覚悟を決めているならエルシーリアに言えることはない。彼女は婚約解消を受け入れる。 しかし、エルシーリアは何とも言えない胸のモヤモヤを抱える。婚約解消がショックなのではない。イザイアのことは手のかかる出来の悪い弟分程度にしか思っていなかったから、失恋したわけでもない。 身勝手な婚約解消に怒る侍女と話をして、エルシーリアはそのモヤモヤの正体に気付く。そしてエルシーリアはそれを父公爵に告げるのだった。 『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。

婚約破棄を本当にありがとう

あんど もあ
ファンタジー
ラブラブな婚約者のパトリシアとラルフ。そんなパトリシアに、隣国の王立高等学院に留学しないかとのお誘いが。「私、もうこの国の王立学園を卒業してますよ?」「高等学園にはブライト博士がいるわよ」「行きます!」 当然、ラルフも付いて行くのだが、そこでパトリシアは王太子の婚約者と思われて……。

わたくしへの文句くらい、ご自分で仰ったら?

碧水 遥
恋愛
「アンディさまを縛りつけるのはやめてください!」  いえ、あちらから頼み込まれた婚約ですけど。  文句くらい、ご自分で仰ればいいのに。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

あなたが恋をしなければ

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を宣言する第一王子。 よくあるシーンだけど、それが馬鹿王子ではなく、優秀だけど人の機微に疎い王子だったら……。

処理中です...