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アイリス・イン・ナイトメア
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「――それが君の選択なんだねアイリス」
黙ってあたしの返答を待っていたアリスはややあってゆっくりと男とも女とも取れる声を発した。
「姉と仲直りしたい、か」
「……なにか問題でも?」
「いや? 別にただ、こういう綺麗な結末もあると思ってね」
つまらない答えと笑われるかとも思ったが、まんざらでもなさそうだ。
あくまで表情は分からないから主観だが。
「それが君の望みだというのなら僕たちは叶えるまでのことさ。……あまり時間もない、さあ素敵な夢を見る準備はいいかいアイリス?」
「ええ、アンタに全部任せたわ」
急かされる形で慌てて首肯した。
確かにアリスの言うとおり、もうあたしには時間がさほど残されていないのだろう。
だからその前になんとしてもリディアと仲直りしなくてはならない。
「それじゃあ行くよ、虹創作の世界へ」
なんだか意識が急速に薄れていく。
日だまりの中で野鳥のさえずりを聴きながらうとうとする感覚にも似ていて。
だからこそ抵抗する気力もなく、あたしはあっけなく夢の世界へ落ちていく。
深い、深い、夢の中へと堕ちていく。
不快……、夢……、オチ……。
……。
………。
……………。
「――おやすみ僕らのアイリス。いい悪夢を」
rrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr
◆
あたしはアイリス。
由緒あるヴァンディール公爵家の一人娘で、かつてあたしには姉だったはずの存在がいた。
名前はリディア。
子供の頃から仲良し姉妹として育ったから彼女のことはずっと人間だと思っていたのに、その正体は人豚というただ食べられるためだけに作られた家畜――人間モドキなんだって。
そして王家主催で開かれた晩餐会。
珍しくちょっとしたことで姉妹喧嘩していたあたしとリディアは二人揃って出席し、そこで真実が知らされた。
あとのことは止めるまもなくすぐに始まった。
衛兵たちによって羽交い締めにされたリディアは『ファラリウスの雌豚』という調理器具に押し込められ、あたしは婚約者である宰相閣下の令息※※※とともにアルフレッド殿下からその器具に火付けを命じられたの。
あたし? あたしは当然最初渋ったわ、でも王命だからと言われればしないわけにはいかないでしょ?
だから、ね。覚悟を決めてやったの。
――火を付ける前にリディアは言っていた、自分は人間であり断じて人豚なんかじゃないって。
だからあたしも頷いたの、他の誰が認めなくてもリディアは今までもこれからもずっと人間だって、大好きだよお姉ちゃんって。
喧嘩したまま別れるのは嫌だったから最後にそうやって仲直りして笑顔で彼女を見送ったの。
『ファラリウスの雌豚』から響くお姉ちゃんの歓喜の悲鳴を音楽に、あたしたちはただ狂ったように踊ったわ。
二曲、三曲と続く中で次第にリディアの声は途絶えてダンスは終わり、『ファラリウスの雌豚』の中で焼き上がった彼女は馳走として招待客に振る舞われたわ。
みんな美味しそうに、幸せな顔で姉だったはずの物体をせっせと胃に運んでいたっけ。
ああ、でもあたしは食べてないわよ?
だって共食いはごめんだもん。
決して肉付きが薄くて美味しそうに見えなかったからじゃない、本当よ。
でも結果としてあの時リディアを食べなくてよかったと思うわ。
だってそのあとしばらくして、人豚を食べた者にだけ脳みそがスポンジ状になる謎の奇病が流行ったから。
ある者は糞尿を垂れ流し、ある者は精神崩壊し、ある者は屍食鬼なんて呼ばれて生きたまま人を貪り食らう人外になった。
……誰かが言っていたなぁ、これは人豚の呪いだって。
呪いなんてあるわけないのに。人豚の儀は祝いの席なのだから、起こりうるとすればそれは祝福に他ならない。
ふふっ、ふふふ、そう祝福。今までアンタたちが無邪気に食べてきた人豚――アリスによる死ぬほど美味しいプレゼントを召し上がれ。
結果として本当にそのまま死んでしまったとしても本望なはず。
人豚なんて言い訳まで作ってまで人を食べたかったのだから。
これで分かったでしょ? ――食べると美味しいのに人が人を常食にしないのは理性じゃなくてたんに当たりを引くと病気になる危険性があるからってことが。
黙ってあたしの返答を待っていたアリスはややあってゆっくりと男とも女とも取れる声を発した。
「姉と仲直りしたい、か」
「……なにか問題でも?」
「いや? 別にただ、こういう綺麗な結末もあると思ってね」
つまらない答えと笑われるかとも思ったが、まんざらでもなさそうだ。
あくまで表情は分からないから主観だが。
「それが君の望みだというのなら僕たちは叶えるまでのことさ。……あまり時間もない、さあ素敵な夢を見る準備はいいかいアイリス?」
「ええ、アンタに全部任せたわ」
急かされる形で慌てて首肯した。
確かにアリスの言うとおり、もうあたしには時間がさほど残されていないのだろう。
だからその前になんとしてもリディアと仲直りしなくてはならない。
「それじゃあ行くよ、虹創作の世界へ」
なんだか意識が急速に薄れていく。
日だまりの中で野鳥のさえずりを聴きながらうとうとする感覚にも似ていて。
だからこそ抵抗する気力もなく、あたしはあっけなく夢の世界へ落ちていく。
深い、深い、夢の中へと堕ちていく。
不快……、夢……、オチ……。
……。
………。
……………。
「――おやすみ僕らのアイリス。いい悪夢を」
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あたしはアイリス。
由緒あるヴァンディール公爵家の一人娘で、かつてあたしには姉だったはずの存在がいた。
名前はリディア。
子供の頃から仲良し姉妹として育ったから彼女のことはずっと人間だと思っていたのに、その正体は人豚というただ食べられるためだけに作られた家畜――人間モドキなんだって。
そして王家主催で開かれた晩餐会。
珍しくちょっとしたことで姉妹喧嘩していたあたしとリディアは二人揃って出席し、そこで真実が知らされた。
あとのことは止めるまもなくすぐに始まった。
衛兵たちによって羽交い締めにされたリディアは『ファラリウスの雌豚』という調理器具に押し込められ、あたしは婚約者である宰相閣下の令息※※※とともにアルフレッド殿下からその器具に火付けを命じられたの。
あたし? あたしは当然最初渋ったわ、でも王命だからと言われればしないわけにはいかないでしょ?
だから、ね。覚悟を決めてやったの。
――火を付ける前にリディアは言っていた、自分は人間であり断じて人豚なんかじゃないって。
だからあたしも頷いたの、他の誰が認めなくてもリディアは今までもこれからもずっと人間だって、大好きだよお姉ちゃんって。
喧嘩したまま別れるのは嫌だったから最後にそうやって仲直りして笑顔で彼女を見送ったの。
『ファラリウスの雌豚』から響くお姉ちゃんの歓喜の悲鳴を音楽に、あたしたちはただ狂ったように踊ったわ。
二曲、三曲と続く中で次第にリディアの声は途絶えてダンスは終わり、『ファラリウスの雌豚』の中で焼き上がった彼女は馳走として招待客に振る舞われたわ。
みんな美味しそうに、幸せな顔で姉だったはずの物体をせっせと胃に運んでいたっけ。
ああ、でもあたしは食べてないわよ?
だって共食いはごめんだもん。
決して肉付きが薄くて美味しそうに見えなかったからじゃない、本当よ。
でも結果としてあの時リディアを食べなくてよかったと思うわ。
だってそのあとしばらくして、人豚を食べた者にだけ脳みそがスポンジ状になる謎の奇病が流行ったから。
ある者は糞尿を垂れ流し、ある者は精神崩壊し、ある者は屍食鬼なんて呼ばれて生きたまま人を貪り食らう人外になった。
……誰かが言っていたなぁ、これは人豚の呪いだって。
呪いなんてあるわけないのに。人豚の儀は祝いの席なのだから、起こりうるとすればそれは祝福に他ならない。
ふふっ、ふふふ、そう祝福。今までアンタたちが無邪気に食べてきた人豚――アリスによる死ぬほど美味しいプレゼントを召し上がれ。
結果として本当にそのまま死んでしまったとしても本望なはず。
人豚なんて言い訳まで作ってまで人を食べたかったのだから。
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