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事情を知らない端から見れば順調で、当人たちからしてみれば双方に複雑な思惑のある交際関係はおおよそ滞りなく続き、早数日が過ぎた。
当初こそ学園のアイドルであるマルスと一部で地味顔令嬢と呼ばれるリーンベイルとのまさかの熱愛発覚ということで騒がれ、同時に様々な憶測を呼んだりもしたのだがそれも徐々に薄れ、また恋の影響で覚醒を果たしたリーンベイル(本来の姿に戻っただけ)に少しずつ周囲からの応援の声も増えていき、今ではこれといったスキャンダルにもならなくなったのは有り難いというべきか。
「マルス様、これから占いでもどうでしょうか」
そして本日、お互い帰宅の路につく途中で唐突にリーンベイルがそう切り出した。
「はあ? 占い?」
興味ないのか露骨に顔をしかめるマルスの態度もなんのその、リーンベイルは続ける。
「ええ、ちょうど今よく当たると評判の占い師がこの辺りにおりまして。本来なら予約をするのも難しいのですが、運良く予約を取ることができたのでこれからどうかと思いまして」
「……まあいいけど」
はあー女ってホント占いとかスピリチュアル系好きだよな、的な心の声が漏れて聞こえてきそうだが、あえて無視。
それからリーンベイルはマルスを連れ立って件のの占い師がいる場所に赴いた。
◆
「――おやおや、そこの通りがかったカップル、どれ、記念に一つ占ってはいかないかね?」
大仰で芝居がかった嗄れ声でリーンベイルたちを引き止めるのは、目深にフードをかぶった全身ローブ姿の御仁――というかミネルバだった。
「あれ、占いの予約してたんじゃないのか?」
と、疑わしげなまなざしをここまで連れてきたリーンベイルに向けるマルス。
「え、ええ、ちゃんと! 占いの予約を! したはず! ですが!?」
ちらっちらっとリーンベイルもまた近くの相方に視線をそれとなく流す。
「ごほんごほん! そうじゃったそうじゃった! リーベル、じゃなくてそこのお嬢ちゃんの予約が入っておったんじゃった! ついうっかり!」
「おいおい、大丈夫かよこの婆さん」
「どぅあれが婆さんじゃまだピチピチのじゅうだ――いやぁこの年になると色々と耄碌が始まって敵わんからのぉ。じゃが占いの腕に関していえば問題ないから安心なされよ」
こめかみに青筋立てながらもなんとかそう取り繕うミネルバの姿に涙が禁じ得ない。
「ふーん、まあ別に俺は占いなんて正直どうでもいいんだけどさ、こい……彼女がどうしてもっていうからな」
あいつ、リーンベイルのことをこいつと呼ぼうとしたな! あいつとこいつで紛らわしいけど! とミネルバ。
「ほほほ、興味ないのに彼女に付き合うだなんて反吐が出そうなほど素敵な彼、死(ボソッと)様ですなぁー。いやホントに反吐が出そうなくらい素敵、というか素で敵」
「あれ、なんか俺アンタの恨みを買うようなことあった? めっちゃ当たりキツいんだけど」
それはあったよ、とは口が裂けても言うまい。
「さあさ、じゃあ占うからそこに掛けて」
言われた通りに占い師(ミネルバ)の目の前にある椅子に腰掛ける二人。ちなみに材質は片方はちゃんとした椅子で(リーンベイルはこっち)、もう片方は明らかにビールケースだった(マルスにはこれで充分)。
「それじゃあまずはそっちのいかにも女を泣かすことに関しては右に出る者のなさそうないかにもクズっぽい感じの男から」
「おい誰がクズだ! こっちは客だぞ!」
「あくまでクズ、っぽい感じだから。あーそれでどうする、なにで呪ってほしいの?」
「呪うんじゃなくて一応占いにきたんだよ俺は!? つーかさっきからなんなんだよマジでこいつ!」
こうして絶対に笑ってはいけない占い、という体のコントが始まるのだった。
当初こそ学園のアイドルであるマルスと一部で地味顔令嬢と呼ばれるリーンベイルとのまさかの熱愛発覚ということで騒がれ、同時に様々な憶測を呼んだりもしたのだがそれも徐々に薄れ、また恋の影響で覚醒を果たしたリーンベイル(本来の姿に戻っただけ)に少しずつ周囲からの応援の声も増えていき、今ではこれといったスキャンダルにもならなくなったのは有り難いというべきか。
「マルス様、これから占いでもどうでしょうか」
そして本日、お互い帰宅の路につく途中で唐突にリーンベイルがそう切り出した。
「はあ? 占い?」
興味ないのか露骨に顔をしかめるマルスの態度もなんのその、リーンベイルは続ける。
「ええ、ちょうど今よく当たると評判の占い師がこの辺りにおりまして。本来なら予約をするのも難しいのですが、運良く予約を取ることができたのでこれからどうかと思いまして」
「……まあいいけど」
はあー女ってホント占いとかスピリチュアル系好きだよな、的な心の声が漏れて聞こえてきそうだが、あえて無視。
それからリーンベイルはマルスを連れ立って件のの占い師がいる場所に赴いた。
◆
「――おやおや、そこの通りがかったカップル、どれ、記念に一つ占ってはいかないかね?」
大仰で芝居がかった嗄れ声でリーンベイルたちを引き止めるのは、目深にフードをかぶった全身ローブ姿の御仁――というかミネルバだった。
「あれ、占いの予約してたんじゃないのか?」
と、疑わしげなまなざしをここまで連れてきたリーンベイルに向けるマルス。
「え、ええ、ちゃんと! 占いの予約を! したはず! ですが!?」
ちらっちらっとリーンベイルもまた近くの相方に視線をそれとなく流す。
「ごほんごほん! そうじゃったそうじゃった! リーベル、じゃなくてそこのお嬢ちゃんの予約が入っておったんじゃった! ついうっかり!」
「おいおい、大丈夫かよこの婆さん」
「どぅあれが婆さんじゃまだピチピチのじゅうだ――いやぁこの年になると色々と耄碌が始まって敵わんからのぉ。じゃが占いの腕に関していえば問題ないから安心なされよ」
こめかみに青筋立てながらもなんとかそう取り繕うミネルバの姿に涙が禁じ得ない。
「ふーん、まあ別に俺は占いなんて正直どうでもいいんだけどさ、こい……彼女がどうしてもっていうからな」
あいつ、リーンベイルのことをこいつと呼ぼうとしたな! あいつとこいつで紛らわしいけど! とミネルバ。
「ほほほ、興味ないのに彼女に付き合うだなんて反吐が出そうなほど素敵な彼、死(ボソッと)様ですなぁー。いやホントに反吐が出そうなくらい素敵、というか素で敵」
「あれ、なんか俺アンタの恨みを買うようなことあった? めっちゃ当たりキツいんだけど」
それはあったよ、とは口が裂けても言うまい。
「さあさ、じゃあ占うからそこに掛けて」
言われた通りに占い師(ミネルバ)の目の前にある椅子に腰掛ける二人。ちなみに材質は片方はちゃんとした椅子で(リーンベイルはこっち)、もう片方は明らかにビールケースだった(マルスにはこれで充分)。
「それじゃあまずはそっちのいかにも女を泣かすことに関しては右に出る者のなさそうないかにもクズっぽい感じの男から」
「おい誰がクズだ! こっちは客だぞ!」
「あくまでクズ、っぽい感じだから。あーそれでどうする、なにで呪ってほしいの?」
「呪うんじゃなくて一応占いにきたんだよ俺は!? つーかさっきからなんなんだよマジでこいつ!」
こうして絶対に笑ってはいけない占い、という体のコントが始まるのだった。
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