ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

文字の大きさ
37 / 308
ダンジョン経営の始まり

アトハース村へ 1

しおりを挟む
 昼下がりの酒場には、その名よりも食堂という呼び名の方が相応しい。
 村の住人からのよそよそしい視線を受けながらそこへと立ち入ったカイは、予想以上の寂れ具合に思わず二の足を踏んでしまっていた。
 食事時が過ぎてある程度人がはけた酒場にも、今だそれなりの人がその席を占拠している。
 彼らはそこで、僅かな食事の残りや飲み物をいじっており、そこから一向に動こうとはしない。
 その振る舞いは午後からの仕事に行きたくないと、全身で主張しているようだった。 

「っとと、すみません」
「・・・気をつけろ」

 店内へと足を踏み入れたカイは、出入り口から一番近い席に座っていた男とぶつかりそうになってしまう。
 カイはその男に短く謝罪を告げると、彼もぶっきらぼうに言葉を返していた。
 彼は気づいただろうか、その一瞬の内にその姿が盗まれた事に。
 カイは元の世界の近所に住んでいたおっさんの顔の下に、彼から盗んだ姿を潜ませる。
 そうして始めて、彼はこの村で通じる言葉を話せるようになっていた。

(なんかこればっかりうまくなってくな、俺。割と最初から、これだけはうまく出来たんだよな。何でだろう、自分が薄かったから?いや、深く考えるのはよそう。なんか悲しくなってくるから)

 ドッペルゲンガーとしての変身能力は、魔法と同じく彼が元いた世界ではなかった筈のものだ。
 しかしこの変身能力については、彼は始めからうまく扱うことが出来ていた。
 それがドッペルゲンガーとしての生態だからなのか、それとも彼の性格との相性なのかは分からない。
 しかし深く追求すると悲しい気持ちになりそうなそれに、カイは途中で考えるのを止めていた。

「あーっと、何か飲み物を頼む。後はそうだな・・・すぐに食べれる物を」

 ちょっとしたトラブルに、店内の客達の視線がカイへと集まっていた。
 しかしその瞳は無関心で、それ以上のトラブルへと発展しないと分かると、すぐにそれぞれの食事へと戻ってしまう。
 そんな客達の振る舞いに僅かな息苦しさを感じさせられたカイは、その歩みを進め空いているカウンターへと滑り込むと、店主に向かって簡単な注文を投げ掛けていた。

「お客さん、見ない顔だけど・・・旅人かい?荷物もないようだけど、ちゃんと金はあるんだろうね?」

 こんな辺境では、外からやってくる者など滅多にいないのだろう、木の杯を丁寧に磨いている店主の男は、カイにじろじろと無遠慮な視線を向けてくる。
 彼が食器を磨く手を止めようとしないのは、カイの事をまだ客だとは認めていないからだろうか。
 確かに荷物もなく手ぶらで訪れた旅人など不自然で、金を持っているようには見えないだろう、しかしその言葉に、カイは待ってましたと心の中でガッツポーズを決めていた。

(よしきた!これを待ってたんだよ!!魔王軍内での通貨ならそれなりに貯蓄しているが、こっちのお金がどんなものか知らないからな、調べたかったんだ。そして、ふふふ・・・ちゃんと用意しているぞ?)

 店主からの疑いの言葉に、腰に括り付けた袋を弄り始めたカイは、そこに金属の感触を感じていた。

「あぁ、勿論だとも。これで足りるかな?」

 感触だけで中身の違いが判別できるほどそれを熟知していないカイは、取り出した硬貨の幾つかから銀色の輝きを持つもの選び取ると、それを店主へと差し出す。
 それを目にした店主は食器を磨く手を止めるとそれを摘み上げ、しげしげと観察し始めていた。

(問題、なさそうか?いやぁ、たとえ一人だけでもダンジョンに人が来てて良かったな。そのお陰でこうして、お金が手に入ったんだから)

 カイが取り出した硬貨は、以前ダンジョンに訪れた男が取り落としていった荷物から回収したものだ。
 それがなければ、無一文で情報収集しなければならない所だった。
 こうした場所で話を聞くのも、注文した後と前ではその口の軽さも違ってくるだろう。
 事実、店主がこちらに向ける視線も、先ほどまでのものとは変わっているように見える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。 身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。 そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと! これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。 ※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。

女神を怒らせステータスを奪われた僕は、数値が1でも元気に過ごす。

まったりー
ファンタジー
人見知りのゲーム大好きな主人公は、5徹の影響で命を落としてしまい、そこに異世界の女神様が転生させてくれました。 しかし、主人公は人見知りで初対面の人とは話せず、女神様の声を怖いと言ってしまい怒らせてしまいました。 怒った女神様は、次の転生者に願いを託す為、主人公のステータスをその魂に譲渡し、主人公の数値は1となってしまいますが、それでも残ったスキル【穀物作成】を使い、村の仲間たちと元気に暮らすお話です。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

処理中です...