ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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勇者がダンジョンにやってくる!

変化を求める部下達にカイ・リンデンバウムは戸惑う 5

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「ま、待て!待ってくれ二人とも!!これは今後のダンジョン運営にも関わる大事な決断だ、一度持ち帰ってじっくりと考えさせてくれ!!」

 選びようのない選択肢を回避するたった一つの方法、それはそれを後回しにする事だ。
 詰め寄ってくる二人の圧力に、椅子へと背中を押し付けていたカイは、必死に手を伸ばして彼らを制止すると、両手を広げてはちょっと待ってくれと全身で主張していた。

「そう、ですか?確かに重要な決断ではありますが、カイ様なら・・・」
「これこれ、あまり急かしてはならん。カイ様とてお悩みの事もあろう・・・我ら臣下はそれを黙ってお待ちするものじゃろうて」

 カイが決断を下す事を先延ばしにした事に、ヴェロニカは不思議そうに首を傾げている。
 彼女からすればカイは全知全能の神にも等しく、そんなお方が決断を先延ばしにする事が信じられなかったのだ。
 ダミアンはそんな彼女の振る舞いを窘めてカイの言動に理解を示していたが、果たして彼が本当にどう思っているかは、その表情からは窺い知ることは出来なかった。

「よし!今日はもう遅いし、各自部屋に戻って休もう!結論はまた明日という事で・・・じゃあ、解散!!」

 ダミアンの説得を受けて、引き下がる様子を見せたヴェロニカの姿に、カイはすぐに立ち上がると解散を宣言していた。
 彼の突然の振る舞いに部下達が呆気に取られているのを横目に、カイは彼らの間を颯爽と抜けていくと、さっさと自室へと帰っていってしまっていた。

「お、おい!旦那!?俺はまだ、何も・・・って、行っちまった」

 勢いのままに退室していくカイの姿に、途中から彼らのやり取りに置いていかれてしまっていたセッキが慌てて引き止めようと試みるが、それはもう遅い。
 彼がその長い腕を伸ばしても届かない場所までカイは行ってしまっており、その声にもまるで耳を塞いでいるように反応を示そうとはしなかった。

「引き止めようとしても無駄じゃろうて。大体セッキよ、お主は何を言うつもりじゃったのじゃ?暴れさせて欲しいと言っても、今更相手にはされまいよ」
「あぁん?そんな事はねぇって・・・俺はこう、ちょっと・・・戦いたいってだけで・・・大体よぉ!爺さん達の案じゃ、俺はまた何もする事がなくなっちまうだろう!?もう嫌なんだよ、あんなのはっ!!」

 足早に去っていったカイの姿は、もうこの部屋の中からは見えもしない。
 セッキは尚も彼が去っていった方へと、未練がましく腕を伸ばしていたが、それはダミアンによって無駄だと諭されていた。
 ダミアンはセッキに例えカイを引き止められていたとしても、相手にされることはなかったと語る。
 しかしダミアンのそんな言葉にも、セッキは必死に腕を振るい、自らの立場の不遇を訴えていた。

「あら?私の提案なら、あなたにも活躍の場があるわよセッキ?」
「そうなのか!?って言っても、どうせ適当に冒険者と戦ってくれって話だろ?悪くはねぇが、やっぱりもっと歯ごたえがねぇとな・・・」

 セッキの嘆きにヴェロニカは小首を傾げると、私の提案ならばちゃんと活躍の場を用意しているのにと、彼に語り掛けていた。
 その言葉に一瞬喜びの表情を見せたセッキも、すぐにその顔を沈めてしまう。
 先ほどは冒険者との戦いを切望した彼であったが、それはあまりに暇であったためだ。 
 冷静になって考えれば、このダンジョンに訪れる冒険者程度のレベルでは、彼と戦いにもならないだろう。
 戦いによる刺激を求める彼からすれば、それは全くといっていいほど期待外れなものでしかなかった。

「なんかこう、ねぇのか?俺が満足できるような―――」
「ふぁぁぁ~、うにぃ・・・まだお話しするのぉ?フィアナもう眠いよぅ・・・」

 諦めがつかないセッキは、ヴェロニカとダミアンの二人に何とかならないのかと、しつこく食い下がっている。
 そんな彼に二人は困ったような表情を見せていたが、それもどこかから聞こえてきた間延びした声が響くまでだろう。
 ヴェロニカとダミアンの話についていけなかったのは、何もセッキだけではない。
 フィアナはその退屈な話に、ずっとつまらなそうに眠気を堪えていたのだった。

「そうかそうか、もうおねむかのフィアナよ。それでは部屋に戻らんとな。おおっと、ここでねむってはいかん!こんな所で寝ては身体を痛めてしまうぞ!!ほれセッキ、ヴェロニカ!お前達も運ぶのを手伝わんかい!」
「ふふふっ・・・仕方がないわね、この子は。ほらセッキ、そっちを持って」

 その小ぶりな口を目一杯広げて、大欠伸を漏らしたフィアナは、今にも眠りに落ちてしまいそうに身体をゆらゆらと揺らしていた。
 その姿に目尻を下げるダミアンも、彼女が完全に意識を断ってしまうと、それを慌てて支えている。
 その圧倒的な魔力や知識を除けば、ほとんど普通の猫でしかないダミアンに彼女を支えるのは難しいだろ。
 ましてや、それを寝室まで運ぶなどもってのほかだ。
 そのためダミアンは、フィアナを運ぶために救援を求めている。
 その言葉に微笑を漏らしながら応えたヴェロニカは、彼女の足元を抱えると上半身を持つようにセッキへと指示を出していた。

「これぐらいなら俺一人で十分だろ?ほら姐さん、そっちも」
「あらそう?それじゃあ、お願いするわね」

 不自然な姿勢に苦しそうな寝息を立てているフィアナへと近づいたセッキは、彼女の軽い身体ぐらい一人で抱えられられると、その屈強な肉体を示してみせる。
 彼はフィアナの上半身を支えると、ヴェロニカが抱える足元もこちらに寄越すように促していた。

「ほらフィアナ、さっさと部屋に戻るぞ」
「フィ、フィアナ!?さっさと放さんか!うひゃあ!?」

 ヴェロニカがフィアナの足元を放したのを確認したセッキは、彼女の身体の下へと潜り込むと、それを自らの肩へと担ぎ上げていた。
 それは同時に、彼女が枕のように抱きかかえていたダミアンをも一緒に担ぎ上げる事になり、彼は不安定な状態でじたばたと暴れる羽目になってしまう。
 しかしそれも、すぐに終わるだろう。
 セッキの肩から背中辺りを新たな枕と定めたフィアナは、自然とお古の枕をその手から手放していた。

「んぅ・・・いやぁ、ごつごつしてて・・・痛い、よぉ・・・」
「あぁ?こっちはわざわざ運んでやってんだ、それぐらい我慢しやがれ!」

 セッキの筋肉が敷き詰められた肩は、ダミアンのもふもふとした身体と比べれば、圧倒的に寝心地の悪いものであろう。
 そんな感触に寝言交じりに文句を漏らしているフィアナに、セッキは空いている片手を振り回しながら文句を返している。
 そんな二人のやり取りを、ヴェロニカは口元に手をやりながら見守っていた。

「お前達!少しは老人を労わらんかい!!これだから最近の若いもんは・・・」

 微笑ましいやり取りを行いながら去っていく三人を尻目に、一人取り残されてしまったダミアンはぶつぶつと文句を零している。
 それもやがて、どこかへと消えていくだろう。 
 後には人気のないダンジョンの姿を映し続けるモニターと、フィアナが零していった涎だけが転々と残されていた。
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