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勇者がダンジョンにやってくる!

主人の失踪に部下達は事態が動き出す事を予感する 1

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 ダンジョンの朝は早い。
 それは冒険者達の間で朝一番にダンジョンに訪れれば、手をつけられていない宝箱が手に入るという認識が広がっているためだ。
 そしてそれは、あながち間違いでもない。
 ダンジョンの宝箱は、設定された中身が一定時間ごとに在庫から補充されるようになっている。
 そのため朝一番に訪れれば、中身を補充された宝箱を独り占め出来るという訳だ。
 それはダンジョンの中に設置された宝箱だけの話で、魔物を倒した際に出現するそれとは別であるが、冒険者にとっては大きな収入源である事は間違いない。
 そのためダンジョンの稼動は早く、それを管理する者達の目覚めも早かった。

「あら、私が一番だと思ったのだけど・・・早いのね、ダミアン」
「ふぉっふぉっふぉっ、老人の朝の早さを舐めてもらっては困るな」

 まだ日も上がって間もないのにかかわらず、この最奥の間には二人の人影があった。
 自らが一番乗りのつもりでそこへと足を踏み入れたヴェロニカは、既にそこで待機していたダミアンの姿に小さく驚いてみせる。
 このダンジョンの管理をほとんど一手に引き受けているヴェロニカが、朝が早いのは当然の事だろう。
 しかし彼女がここに一番乗りで現れるのは、それをカイに褒めてもらいたいからという、可愛らしい下心もあっての事でもあった。

「それで、連中はもう?」
「来ておるよ。ほら、そこのあの・・・あれを見てみぃ。全く、熱心な連中じゃて」

 朝の早い老人のライフスタイルを生かして真っ先のこの部屋へと居座っていたダミアンに、ヴェロニカは部屋の中へと歩み寄りながら尋ねていた。
 その問い掛けに対して、ダミアンは空中に展開されていたモニターの一つを指し示している。
 そこにはダンジョンの入り口にごった返す、冒険者の姿が映っていた。

「全く懲りないわね・・・待っていた所で、開場が早くなる訳でもないでしょうに」

 彼らはダンジョンの入り口から動こうとせず、その奥には決して進もうとはしなかった。
 何故なら彼らの視線の先には、その実力では決して敵わないであろう強敵の姿があったからだ。
 ダンジョンに人を立ち入らせないための門番は、今だにそこに鎮座している。
 彼らはそれがそこからいなくなるのを、今か今かと待っているのだった。

「じゃが、以前一度だけ開場を早くしたことがあったじゃろう?ほれ、待ちかねた冒険者共が殴り合いを始めた時じゃ。あの時は仕方なく開場を早めたが・・・それが悪かったんじゃろうなぁ」
「それは、死者が出るかもしれなかったから仕方なく・・・でもそうね、確かにそれが悪かったのかも。全く、ダンジョン内ならともかく、外で争われてはこちらではどうしようもないというのに」

 カイから出来るだけ冒険者を死なせないようにと仰せつかっている関係上、ダンジョンの目の前で諍いを始めた彼らの姿に、ヴェロニカは見て見ぬ振りは出来なかった。
 それにより開場を早めた事実が、今日のこの状況へと繋がっている。
 ダンジョンの入り口に集まっている冒険者達は、もしかしたら開場が早まるかもしれないという、一握りの期待を持ってその場へと集まっていたのだった。

「それよりもほれ、これを見てみるといい」
「何、この紙切れ?伝言があるなら、端末を使えばいいじゃない・・・」

 ダンジョンの入り口に群がる冒険者達の姿に、溜め息を漏らしていたヴェロニカへとダミアンが何やら小さな紙切れを手渡してくる。
 それを受け取ったヴェロニカは、そんなものを使わなくてもダンジョンの端末を使ってメッセージを残せばいいのにと漏らしていた。

「これは・・・!?もしかしてカイ様が!?」
「その通りじゃよ。やれやれ、一番乗りはこのダミアンではなかったということじゃな」

 文句を言いながらダミアンから紙切れを受け取ったヴェロニカも、その内容へと目を落とすと目を見開いて態度を豹変させていた。
 そこには、カイからのメッセージが書き残されていた。
 彼女の驚きにダミアンは肩を竦めて見せると、自らよりも早くこの場に訪れていた主人の存在を示唆している。
 しかしそんな彼の仕草も、ヴェロニカはどうでもよい事のようで、紙の上から視線を外す事はなかった。

「おぅ、もう来てたのか。俺も結構早いと・・・どうしたんだ、姐さん?何かあったのか?」

 ヴェロニカが紙に書かれた内容を目に固まっていると、部屋の入り口から大柄な男が身を屈めながら入ってきていた。
 大柄な彼からすれば狭いその入り口を通り抜けたセッキは、既に二人も先に来ていた同僚に対して、軽く手を掲げては声を掛けている。
 昨日何だかんだと誤魔化された変化を、一番待ちかねていたのは他ならぬ彼であろう。
 そのため普段よりも早起きをしてここに訪れたセッキは、先に来ていた二人に対して軽く驚いた様子を見せている。
 しかしそれ以上に、なにやら小さな紙切れを手にとっては、それを凝視しているヴェロニカの様子の方が彼には気に掛かっていた。

「何があったか、ですって?これを見てみなさい!すぐに分かるわ!!」
「あぁ?何なんだよ一体・・・」

 暢気な様子で声を掛けてきたセッキに対して、ヴェロニカは怒りに満ちた表情で彼へと紙切れを叩きつけてくる。
 その八つ当たり気味の態度に、彼女がそんな振る舞いをみせる理由に見当がつかないセッキは、ただただ戸惑うばかり。
 彼は当惑した様子のまま、受け取った紙切れをその大きな両手で器用に広げては、その内容へと目を落とし始めていた。

「どれどれ・・・『私は少しの間ここを離れる。その間はこれまでと変わらず、このダンジョンを運営するように。心配せずともお前達の望みはもうすぐ叶う、このカイ・リンデンバウムに任せるがいい』って、何だこりゃ?旦那、どっか行っちまったのか?じゃあ、昨日の話しはどうなるんだよ?」

 そこには、カイが書き残した言葉が残されていた。
 しばらくこのダンジョンを離れるという事と、その間のダンジョンの運営を今までどおり行うように記されている書置きに、セッキは戸惑ってしまう。
 それもその筈だろう、彼は昨日の話の続きがしたくて早起きしてきたのだ。
 それなのにその話をすべき主人がこんな書置きを残して姿を消してしまえば、当惑してしまうのも仕方のない事であった。

「それ所ではないわ!!カイ様がお一人でここを出て行かれるなんて・・・!きっと昨日の私達の提案に、不満がお有りだったんだわ!!」

 カイの書置きを目にしても、ある意味暢気な感想を漏らしているセッキの姿に、ヴェロニカはそれ所ではないと怒鳴り散らしている。
 彼女はセッキからカイの書置きを奪い返すと、それを大事そうに抱えては自らの不甲斐なさを嘆いていた。

「そうだわっ!すぐにカイ様を追いかけないと!!カイ様お一人では、そのお身体に危険が・・・!」

 自らの不甲斐なさを嘆いているヴェロニカも、カイを一人外にやってしまっている状況に気付けば、焦り始めもする。
 ここにいる者達と違い、彼らの主人であるカイは戦闘能力というものが皆無に等しかった。
 そのため彼を一人にしてしまうと、いつその身に危険が迫るとも限らない。
 その事実に気が付いたヴェロニカは焦りの声を上げると、すぐにでも主の元に駆けつけようとこの部屋の出口へと急ぎ始めていた。

「待て待て、待つんじゃヴェロニカ!それには心配及ばん。カイ様にはわしがフィアナをつけておる。あの子がおる限り、カイ様に危険が及ぶ事はないじゃろうて」

 明らかに動転してしまっているヴェロニカの様子に、ダミアンが慌てて心配はないと呼び掛けていた。
 彼はヴェロニカよりも早くこの部屋に訪れ、カイの書置きを目にしている。
 そのため彼女よりも先に、そのための対策を取っていたのだった。
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