ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

そして彼らはすれ違う 1

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「じゃあ、俺はここで呼び込みの仕事があるから」

 食事を取り人心地ついたエヴァン達一向は、早速ダンジョンへと向かうためにアトハース村の入口にまでやってきていた。
 休憩も終わり、そこで呼び込みの仕事へと戻るクリスは、エヴァンへと一声掛けると所定の位置へと歩いていく。
 冒険者ギルドの出張所での仕事を手伝っている、ハロルドとアイリスの姿は既にここにはない。
 そのため同年代の人物の最後の一人である彼が離れていくのに、エヴァンはどこか寂しそうな表情を見せていた。

「そうか。頑張るのだぞ、クリス」
「おぅ、そっちもなー」

 しかし彼も仕事とあれば、無理に引き止める事など出来る訳もない。
 エヴァンはすぐに表情を引き締めると、クリスに別れの言葉を告げていた。
 彼もこれから冒険へと向かうのだ、こんな所で立ち止まってなどいられない。
 そんなエヴァンの決意を知ってか知らずか、彼の声にクリスは振り返ろうともせず、適当に手を振って応えただけであった。

「負けないぞ、クリス。私だって、やれば出来るのだ!」

 食事の際にクリス達の冒険譚を聞いたのか、彼らにライバル心を覗かせてエヴァンは静かに拳を握る。
 そんな彼の姿を見守っていたアビーの口元に、薄い微笑みが浮かんでいる事を気付いた者はいるだろうか。

「その通りでございます、坊ちゃま。ウィルビー様達は坊ちゃまよりも少しだけ年上のようですが、それほど年頃に差はありません。そのような方達でも冒険に赴き、貴重の武具を手に入れるという偉業を成し遂げておられるのです。坊ちゃまにお出来にならない理由など、どこにありましょうか」
「う、うむ!そうだな、その通りだ!!」

 その口元に浮かべていた微かな微笑みも既に掻き消したアビーが、エヴァンに語ったのは彼を冒険へと促す言葉であった。
 彼が危険な行動を取るのを諌める立場である彼女が、そんな言葉を話したのは何故だろうか。
 少なくともクリスとの微笑ましいやり取りに、親馬鹿的な心情が芽生えたからではない事だけは確かであった。

「ですが、坊ちゃま。あの男だけには、どうかご注意ください」
「キルヒマンにか?先ほどから何度も聞いたが、何故あの男だけを敵視するのだ?見知らぬ者というのなら、アーネットとガスリーもそうだろう?」

 アビーがエヴァンに気分を良くする言葉を掛けたのは、その事を確かに言い聞かせるためであった。
 集団の先頭に立って、冒険者の二人を引き連れて歩いているカイは、彼女達からは少しだけ距離が離れている。
 アビーは彼へとその冷たい瞳を向けながら、エヴァンに気を許してはならないと語りかける。
 しかしエヴァンからすれば、アビーがエルトンとケネスの二人を信用し、カイだけを頑なに信用としない理由に見当もつかないようであった。

「それは・・・私にもはっきりとした事は申し上げられません。しかし、あの男からは何か得体の知れないものを感じるのです」
「ううむ・・・それだけでは―――」

 カイの事を終始警戒しているアビーも、それをはっきりと言語化は出来はしなかった。
 エヴァンという特別な立場にある人物に近づいてくる商人となれば、確かにそれだけで怪しくはある。
 しかし彼女が感じている危機感は、それとは別の種類のものであった。

「いいえ、坊ちゃま。それだけで十分なのです。寧ろアーネット様やガスリー様の事も、心から信用してはなりません。ご自分の立場を思い出しください、坊ちゃま。坊ちゃまが心から信用していい者など、誰もいないのです」
「・・・そうか、そうだな。うむ、分かったぞアビー。私が本当に信用していいのは、やはりお前だけなのだな」
「いえ、それは・・・いえ、そうです坊ちゃま。私だけをお信じください。このアビゲイル・コレットだけは、坊ちゃまを裏切る事はございません」

 アビーの曖昧な感覚だけが理由では、疑う理由にはならないとそれを跳ね除けようとしたエヴァンに、彼女は彼の肩を掴むとより強く語りかけている。
 アビーはエヴァンの立場では誰も信用する事など出来ないと言い聞かせるが、彼はそれを彼女以外信じては駄目だと解釈していた。
 それをすぐさま否定しようとしたアビーが、結局それを否定出来なかったのは、彼女の中に残った情の仕業だろうか。
 しかしこれだけは断言できる、彼女はエヴァンを裏切る事はないと。
 その力強い言葉に、エヴァンもまたはっきりと頷き返していた。

「へー、地図ってこんなのがもらえるのか。これって最初のフロア、全部網羅してるんじゃないか?」
「あんまり乱暴に扱って、破るなよ?折角貰った、貴重な情報なんだから」

 エヴァンとアビーがその主従の絆を深めている少し前方で、エルトンが先ほど貰ったばかりのダンジョンの地図を広げて覗き込んでいた。
 彼は以前訪れた時に目にしたダンジョンの景色と、その地図に記された地形を見比べて、それがどれだけ正しいのかを確かめている。
 そんな彼の振る舞いに、ケネスは折角貰った地図を破いてしまうのではないかと、冷や冷やとした表情でそれを見守っていた。

「どれどれ・・・あぁ、確かにそうですね。これは最初のフロア全体が記されていますよ」

 エルトンが広げる地図を覗き込んだカイは、その内容に太鼓判を押している。
 ダンジョンに所属する者しか通れない隠し通路の存在も知っている彼からすれば、それは甚だ不完全なものであったが、冒険者に配布する地図としては十分な出来と言えた。

「へぇ~、やっぱりそうなんだ。あの時は途中で帰っちまったからな。後一つ行けば、次のフロアだったんなら行っとけば良かったな」
「あの時は知らなかったんだから、しょうがないだろ・・・待ち時間ばっかりで、疲れてたし」 

 カイの言葉に頷いたエルトンは、以前の冒険を思い出しては悔しそうに呻いている。
 彼らはどうやら、地図で示された最後の部屋の手前で引き返してしまったらしい。
 しかしそれも、仕方のないことであろう。
 冒険者でごったかえす時間帯にダンジョンへと挑んだ彼らは、あまりに多い冒険者のために中々前に進む事が出来ず、ただただ待つだけの待機時間の多さに疲れ果ててしまっていたのだから。
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