ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

揃う役者達 3

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「知ってっか、エヴァン。それ、ゴブリンの肉が入ってんだぜ」
「む?そ、そうなのか?さっきは勢いでああ言ってしまったが、流石にゴブリンの肉は食べたくないぞ?」

 固くて臭く、不味い事で有名なゴブリンに肉でも食べてみせると豪語したエヴァンに、クリスがニヤニヤと笑みを浮かべながらちょっかいを掛けている。
 それはそういったやり取りに慣れている者であるならば、一目で冗談と分かる口調であろう。
 しかしそんな扱いを受けた事のないエヴァンは、思わずそれを真に受けて青ざめた表情を作ってしまっていた。

「だ、大丈夫ですよー、エヴァン様!そもそもお肉が足りなくて、全然入ってないですから!」
「・・・それはそれで、ちょっと残念なのだ」

 折角楽しみにしていた食事が、もはや手をつけるのも躊躇う代物に変わってしまい、しょんぼりと肩を落としているエヴァンの姿に、アイリスが慌ててフォローを入れている。
 しかしそのフォローは、クリスのものとは違った意味でエヴァンをガッカリさせるものであり、彼のしょんぼりとした表情を変わらせる事は出来ずにいた。

「ちょ、ちょっと二人とも!もっと言葉遣いを・・・」
「別に私は構わないぞ?ハロルドももっと気軽に話すのだ!」
「そ、それはちょっと・・・」

 同年代であったためか、僅かな時間の間にすっかり仲良くなった様子のクリス達とエヴァンのやり取りに、ハラハラと表情を乱しているハロルドはもう少し言葉遣いを改めるように呼びかけている。
 それは彼らの身分の違いを考えればもっともな忠告であったが、それを当人であるエヴァンが気にしないと宣言すれば、意味のない気遣いとなってしまう。
 むしろエヴァンからもっと気軽に接してくれと話しかけられ、ハロルドはその顔に困り果てた表情を浮かべていた。

「はははっ!子供達の順応性の早さというものは、何度見ても驚かされますな!」
「そうでございますね。坊ちゃまも同年代のご友人ができ、大変よろしゅうございました」

 子供達の微笑ましいやり取りに軽快な笑い声を上げたカイは、それを嬉しそうにアビーへと語りかけている。
 警戒している相手からの言葉でも、目の前の光景は喜ばしい事である事は間違いない。
 アビーはその固い表情に僅かに笑みを浮かべると、しみじみと喜びの声を漏らしていた。

「コープさんやーい!わしのご飯はまだかいのぅ」
「あ、すいませんローチさん!今、代わります!!」

 昼食の時間でも、ギルドの出張所を完全に閉めてしまう訳にはいかない。
 そのため元々そこの職員であったローチとアシュリーは、変わりばんこに食事を取っていたのだが、和やかな時間に彼女はそれを忘れてしまっていた。
 空腹に耐えかねたローチが彼女に声を掛けたのは、そんな事情が故であり、なにもボケてしまった訳ではなかった。

「ほら、ローチさん。向こうで食事を取ってきてください、ここは私がやっときますから!」
「おぉ、そうかそうか。ではわしは、向こうでご飯を取ってくるとしようか」
「だから、向こうですって!向こう!」
「おぉ、そうだったそうだった!」

 駆け足で出張所へと戻ったアシュリーは、急いでローチと受付を交代している。
 彼女は建物の外へと出たローチに村人用の炊き出しの列を示すと、そちらへと向かうように促している。
 ローチはそんな彼女の指示にも見当違いの方向へと向かおうとしていたが、それは彼女の懸命な声によってすぐに正されるだろう。

「・・・おらぁ!!てめぇら、何どさくさに紛れて割り込もうとしてやがんだ!!後ろに並べ、後ろに!!」

 アシュリーがローチの誘導に気を取られている隙に、受付へと並ぶ列に割り込んだ人の姿を、彼女は見逃してはいない。
 ローチと話している時の穏やかな表情を、彼女が脱ぎ捨てるには数秒の間で十分だろう。
 そうして牙を剥き出しにした彼女は、割り込んだ男達へと怒鳴り声を上げると、さっさと後ろに回れと叫び散らしていた。

「な、なぁ・・・あれって、アシュリーちゃんだよな?」
「・・・多分ね。なんていうか、彼女も成長したんだよ。色々と、ね」

 街のギルドで新人受付嬢としておどおどとした可愛らしい姿を見ていた二人からすれば、アシュリーの今の振る舞いは衝撃的なものであった。
 強面の冒険者達に向かって、牙を剥くように犬歯を剥き出しにして吠えている彼女の姿を指差す、エルトンの手は震えている。
 どこかそれを否定して欲しいように迷いながら呟くエルトンに対して、ケネスははっきりと事実を告げていた。

「そ、そうだな!そう思うことにしよう・・・」

 それは残酷な現実だろうか。
 ケネスの言葉に納得を示しながらも、どこかそれを受け入れがたく感じているようなエルトンは、今も吠え続けているアシュリーの姿を微妙に視界に入れないように顔を背けていた。
 それぞれが空いている席に着き、配られた器に穏やかな食事が始まっていく。
 その向こう側からは、アシュリーの叫び声がいつまでも響き続けていた。
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