ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

カイ・リンデンバウムは自らの目的のため暗躍する 1

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「う~ん、これは・・・不味いな」

 目の前で繰り広げられている光景に、カイはどこか不満そうな呟きを漏らしている。
 それもそうだろう、彼は勇者であるエヴァンがその力を振るう所が見たくて、ヴェロニカ達にもっと厳しくするように命令を下したのだ。
 にもかかわらず、彼の目の前で繰り広げられている戦闘は、これまでのそれとさほど変わる様子のない、楽勝といった様相を見せていた。

「これで、どうだっ!あぁ?これを凌ぐのかぁ?やるじゃねぇか!!」

 その手に握る得物を振り下ろして放った強烈な一撃は、剣と盾で武装したゴブリンによって何とか凌がれている。
 そのしっかりと武装を固めたゴブリンは、その見た目からして先ほど戦ったゴブリンの上位種といったところか。
 仕留めるつもりで放った一撃を凌がれてしまったエルトンはしかし、どこか嬉しそうにニヤリと笑うと、より一層戦意を高めては雄叫びを上げていた。

「楽しんでるところ悪いけど、早く片付けてこっちに来てくれないかな?いつまでも押さえてはいられないんだけど?」

 手強い敵の出現に感情を昂ぶらせるエルトンとは反対に、ケネスはその冷静さをさらに研ぎ澄ましたように、務めて冷静に振舞っていた。
 彼が相手にしているのは、エルトンが戦っているゴブリンと似た姿をしたゴブリンであった。
 違う所があるとすればそれは、そのゴブリンが盾を持たず、代わりに両手で振るう巨大な斧を構えている所だろうか。
 エルトンと違い力で押すタイプではないケネスに、そのゴブリンと正面切って戦うのは難しい。
 そのため彼はそのゴブリンの攻撃をいなすのに専念する事で、どうにかそいつを押さえていたのだった。

「はははっ!そのわりにゃ、余裕そうじゃねぇか!そら、よっと!!」

 早く目の前の相手を片付けて、こっちを助けてくれと要請する相棒の言葉に、エルトンは笑いながら返事を返している。
 その内容は、ケネスにはまだまだ余裕があるというものであった。
 果たして、それは本当だろうか。
 ナイフが得物のケネスに、そのゴブリンの激しい攻撃を掻い潜って、致命傷を与えるのは難しいように思える。

「まぁ、確かに・・・なくはないけどね」

 確かにそれは、間違いではない。
 大振りではあるが鋭く斧を振るうゴブリンに、その隙を突いて致命傷を与えるほどの素早さをケネスは持ち合わせてはいない。
 しかしその隙に、チクチクと肌を削っていく事は出来た。
 見れば彼の目の前のゴブリンは、その身体の至る所を切り裂かれており、その傷口からだらだらと血を垂れ流していた。
 流れ出る血液は、そのゴブリンの体力を削っているだろう。
 その証拠に斧を両手で構えるゴブリンは、肩で息をするように荒い呼吸を繰り返しており、その消耗っぷりは目に見えて明らかであった。

「ふぅむ、やはり二人は中々に腕が立つな。相手の魔物もかなり強力に見えるが、まだまだ余裕がありそうなのだ」

 二人の戦いぶりを目にしては、感心するような呟きを漏らしているエヴァンに、その戦いへと参加する気配は見えない。
 それもその筈であろう、相手する魔物が強力になっているため時間が掛かってはいるが、彼らにはまだ余裕が見て取れた。
 そんな状況で、エヴァンが背中に背負ったその大剣を抜くとは思えない。
 そんなエヴァンの姿を、カイは残念そうな表情で見詰めていた。 

「左様でございますね、坊ちゃま。しかしお二方も疲労が蓄積しているご様子、この戦闘が終わり次第休憩を取られるのがよろしいかと」

 余裕のありそうな二人の様子にも、アビーはこの戦闘が終わり次第休憩を取るようにエヴァンへと提案している。
 それもその筈であろう。
 盛況なこのダンジョンでは、次の部屋が空くまでに前の部屋で休憩を取るのが常であった。
 しかし今のダンジョンは、何故かほとんど先に進んでいる冒険者の姿が見受けられず、そのため彼らはかなりのハイペースでここまで進んできていたのだった。
 そのペースは如何な熟練の冒険者の二人と言えど、知らず知らずの内に疲労を溜めてしまう速度であることは間違いなかった。

「うむ、そうだな!そうだ!その時はアビー、あの・・・あれを淹れてやってもいいじゃないか?」
「紅茶でございますね?畏まりました、用意しておきます」

 アビーの休憩の提案に、エヴァンは軽く頷くと彼女が得意な飲み物を彼らにも提供してもいいのではないかと話していた。
 エヴァンの言葉に自らの手に持つ荷物を素早く広げたアビーは、早速とばかりに紅茶を淹れる準備を始めている。
 アビーがその場ですぐに火を起こせたのは、彼女が用意した魔道具のお陰だろうか。
 その筒状となった装置は薄く発光すると、その周辺の空気が明らかに熱を帯び、ゆらゆらと景色を揺らし始めていた。

「完全に休憩モードになっちゃってるし・・・あれ、おかしいな?もっと厳しくしろって俺、言ったよな?もしかして、ちゃんと伝わってない?」

 もはや戦う気配など一切なく、淡々と休憩の準備を始めているエヴァン達の姿に、カイはおかしいなと首を捻っている。
 彼は先ほど確かに、ヴェロニカ達にもっと厳しく当たるようにとお達しした筈であった。
 にもかかわらず、この場に流れ始めているほのぼのとした空気に、カイは自らの指示がうまく伝わっていないのではと疑い始めていた。

「いや、そんなことないか。出て来る魔物は確実に強くなってるし、さっきから冒険者がすれ違っていくのも、俺達を一刻も早く奥へと進ませるためだろうしな・・・う~ん、それならこのままヴェロニカ達に任せた方がいいのかなぁ?」

 うまく伝わっていないのではないかと疑うカイも、目に見えて変わった部分には疑問を挟めない。
 確かに冒険者の二人はまだ余力を残しているように感じられるが、その相手をしている魔物が確実に強力になっていっているのは間違いがない。
 そしてそれは明らかに、普段よりも強力な魔物の配置なのだ。
 そう考えれば彼の意図は間違いなく、ヴェロニカ達に伝わっていると思われる。
 そう納得したカイは、そうであるならばヴェロニカ達にこのまま任せればいいかと考え始めていた。

「いやいやいや!それじゃ勇者様が殺されちゃうじゃん!!そうだった、俺はあいつらの計画を妨害してるんだった!!」

 もうヴェロニカ達に全てを任せて、自分はこのままただの商人として振舞おうかと考えていたカイは、それでは何にもならないという事実を思い出していた。
 彼はヴェロニカ達に気づかれないように、彼女達の計画を妨害するためにここにいるのだ。
 それにもかかわらず、彼女達の好きなようにやらしてどうするのだと、彼は自らに突っ込みを入れる。

「う~ん、そうなるとまだ余裕のある今の内に勇者様の力を見ておきたいな・・・ん、あれは?」

 二人の冒険者の戦いぶりを見ると、ヴェロニカ達はまだここで勇者を仕留めようとはしていないのだろう。
 そうであるならば今の内に勇者の力を見ておきたいと願うカイの目に、なにやらもぞもぞと蠢く存在の姿が映る。
 それは今も戦いを繰り広げている冒険者達とは反対側に佇む、岩の姿に擬態したスライムであった。
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