ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

カイ・リンデンバウムは自らの目的のため暗躍する 2

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「スライムか、ん?もしかすると、あれをうまく使えば・・・よし、やってみるか」

 岩に擬態したスライムは良く見ると、攻撃のチャンスを窺ってはジリジリとカイ達一行に近づいていっているようだった。
 しかし気付かれずに奇襲する事を重視したその動きは遅く、そのままでは二人の冒険者の戦いの決着までに間に合いそうもない。
 そんなスライムの姿を見つけたカイは、なにやら顎に手を当てて考え始めると、そっとそのスライムへと歩み寄り始めていた。

『そこのスライム!こっちへ、こっちへ来なさい!』

 高位のスライムならばともかく、今目の前にいるような低位のスライムでは、言葉を扱うような知能は備えていない。
 しかしそれが自らの支配者からの命令とあれば、言葉は解せずとも理解出来るものはあるのだろう。
 一度驚いたように頭に当たる部分を擡げたそのスライムは、ずりずりと地面を這いずるとカイの下へと近づいてきていた。

『よし、いいぞ!さてさて、どうするのが最善か・・・』

 カイの下まで辿りついたスライムは、まるで指示を仰ぐようにその触手をカイの口元へと伸ばしている。
 カイはそんなスライムの姿を見ては満足げに頷き、それをどう使おうかとエヴァン達の方へと視線を向けていた。

『あの二人を攻撃させるか?いや、勇者様の力を見るには・・・よし。分かるかお前、あの人を狙え。あの黒い、ひらひらした服を着ている人だ、分かるな?あの人に襲い掛かるんだ。だが傷つけるなよ、拘束するだけでいい。いいな、出来るな?』

 もうさほど時間も空けずに決着のつきそうな戦いに、カイは最初その当事者である二人を狙わせようと考えていた。
 しかし彼らを狙った所で、果たして勇者であるエヴァンはその剣を振るうだろうか。
 目の前のスライムはあまり大きい個体ではなく、一度に二人の人間を拘束するのは難しいだろう。
 それで一人を拘束した所で、彼らのような熟練の冒険者であるならば、すぐに状況を立て直してしまう筈だ。
 そう考えれば狙うのは、一人しかいない。
 それは勇者であるエヴァンと親しく、そしてこの一行で一番戦闘能力の低いアビーだ。

『よし行け!!』

 こっそりと指し示した指先に声を掛け、カイはそのスライムを軽く叩くと、今こそ襲い掛かれと指示を出す。
 カイの指示にその柔らかい身体を急激に膨らませたスライムは、そのまま飛び跳ねると急激な速度で、紅茶を淹れる準備をしているアビーへと襲い掛かっていく。

「アビー、これはどこに置けばいいのだ?先に出しておいた方がいいのだろう?」
「いえ、坊ちゃま。今はお湯を沸かしておいているだけですので、食器の方は後で・・・坊ちゃま!?」
「うわわっ!?」

 紅茶を淹れる準備をしているアビーの横で、暇を持て余したのかエヴァンが彼女の荷物から食器を取り出していた。
 しかしここは、魔物も出現する部屋である。
 アビーはそんな部屋で紅茶を楽しむ気はなく、この時間にお湯を沸かしておいて、次の休憩用の部屋でそれを振舞おうと考えていたのだ。
 それをエヴァンへと伝えようとしたアビーはしかし、既に食器を取り出し、あまつさえそれを抱えたままこけようとしている彼の姿に、慌ててそちらへと駆け寄っていた。

「大丈夫ですか、坊ちゃま?」
「う、うむ。助かったのだ、アビー・・・っ!?危ないのだ!!」

 アビーの素早い動きのお陰でエヴァンはその身体を地面へと叩きつける事なく、その食器も割れる事はなかった。
 表情を崩す事のないアビーが、それでも僅かに安堵の表情を見せたのは、その食器が無事だったからではないだろう。
 そんな彼女の礼の言葉を掛けていたエヴァンは、彼女に抱きかかえられた視界に迫り来る魔物の姿を見ては驚きの声を上げていた。

「っ!?エルトン、後ろっ!!」
「あぁ?何だってんだ・・・うおっ!?」

 迫りくるスライムの魔の手に、エヴァンは必死にアビー身体を抱え込んでいた。
 それは不慣れな動きで二人揃って地面へと転がってしまうものであったが、その攻撃を避けることには成功している。
 ターゲットを失ったスライムはしかし、その勢いを減じさせる事はない。
 それは寧ろ最初からそちらに狙いを定めていたかのような動きであり、そのスライムは目の前のゴブリンの相手に集中しており、隙だらけであったエルトンの背中へと襲い掛かっていた。

「ちぃ、こいつは・・・あぁ、うざってぇな!!」

 身体に纏わりつくスライムの軟体は、エルトンの力を持ってしてもすぐには振り解けはしない。
 彼が幸運であったのは、彼が相手しているゴブリンの戦いぶりが慎重であったことであろうか。
 スライムに拘束されながらもその得物を手放さないエルトンに、そのゴブリンは盾を構えては慎重に機を窺い、より致命的な隙を狙っているようだった。

「今行く、エルトン!!」

 相棒のピンチにケネスは彼が戦っていたゴブリンを蹴り飛ばすと、素早くそちらへと向かっていく。
 その判断は、間違いなく正しいだろう。
 彼の接近に、不気味な泡を立て始めたスライムの存在がなければ。

「あぁ、助かる・・・いや待て、ケネス!来るな!!」
「何を・・・うわっ!?」

 そのスライムが自らの身体を泡立たせてまで取り込んでいたのは、このダンジョンの空気だろう。
 十分に取り込んだそれで体積をかさ増しさせたスライムは、その身体を一気に膨張させると、触手をこちらへと向かってきているケネスに伸ばしていた。

「くっ、この!!」

 ケネスがその触手を躱してみせたのは、流石は腕利きの冒険者といった所だろうか。
 彼はさらに襲ってきた触手をその手に持ったナイフで切り裂くと、大きくその場から飛び退こうと身体を沈めている。
 しかしそれが間に合う事はないだろう、彼の目前にはその身体を覆いつくさんばかりに広がった、巨大な触手が迫っていた。

「あれ?なんか思ってたの違うんだけど・・・まぁ、これはこれで」

 自らが考えていた計画とは違う絵面に、カイは戸惑いながらもこれはこれで悪くはないかと納得を示している。
 実際の所、今までずっと戦闘を担当していた二人が拘束されており、彼らが相手にしていたゴブリンが二匹フリーな状態でいるこの状況は、まさに彼が望んでいた場面といえる。
 この絶体絶命な状況では、流石にエヴァンもその力を出し惜しむ事は出来ないだろう。
 カイは期待に溢れた瞳を、彼らの方へと向けていた。
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