ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

文字の大きさ
254 / 308
カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

カイ・リンデンバウムは自らの目的のため暗躍する 1

しおりを挟む
「う~ん、これは・・・不味いな」

 目の前で繰り広げられている光景に、カイはどこか不満そうな呟きを漏らしている。
 それもそうだろう、彼は勇者であるエヴァンがその力を振るう所が見たくて、ヴェロニカ達にもっと厳しくするように命令を下したのだ。
 にもかかわらず、彼の目の前で繰り広げられている戦闘は、これまでのそれとさほど変わる様子のない、楽勝といった様相を見せていた。

「これで、どうだっ!あぁ?これを凌ぐのかぁ?やるじゃねぇか!!」

 その手に握る得物を振り下ろして放った強烈な一撃は、剣と盾で武装したゴブリンによって何とか凌がれている。
 そのしっかりと武装を固めたゴブリンは、その見た目からして先ほど戦ったゴブリンの上位種といったところか。
 仕留めるつもりで放った一撃を凌がれてしまったエルトンはしかし、どこか嬉しそうにニヤリと笑うと、より一層戦意を高めては雄叫びを上げていた。

「楽しんでるところ悪いけど、早く片付けてこっちに来てくれないかな?いつまでも押さえてはいられないんだけど?」

 手強い敵の出現に感情を昂ぶらせるエルトンとは反対に、ケネスはその冷静さをさらに研ぎ澄ましたように、務めて冷静に振舞っていた。
 彼が相手にしているのは、エルトンが戦っているゴブリンと似た姿をしたゴブリンであった。
 違う所があるとすればそれは、そのゴブリンが盾を持たず、代わりに両手で振るう巨大な斧を構えている所だろうか。
 エルトンと違い力で押すタイプではないケネスに、そのゴブリンと正面切って戦うのは難しい。
 そのため彼はそのゴブリンの攻撃をいなすのに専念する事で、どうにかそいつを押さえていたのだった。

「はははっ!そのわりにゃ、余裕そうじゃねぇか!そら、よっと!!」

 早く目の前の相手を片付けて、こっちを助けてくれと要請する相棒の言葉に、エルトンは笑いながら返事を返している。
 その内容は、ケネスにはまだまだ余裕があるというものであった。
 果たして、それは本当だろうか。
 ナイフが得物のケネスに、そのゴブリンの激しい攻撃を掻い潜って、致命傷を与えるのは難しいように思える。

「まぁ、確かに・・・なくはないけどね」

 確かにそれは、間違いではない。
 大振りではあるが鋭く斧を振るうゴブリンに、その隙を突いて致命傷を与えるほどの素早さをケネスは持ち合わせてはいない。
 しかしその隙に、チクチクと肌を削っていく事は出来た。
 見れば彼の目の前のゴブリンは、その身体の至る所を切り裂かれており、その傷口からだらだらと血を垂れ流していた。
 流れ出る血液は、そのゴブリンの体力を削っているだろう。
 その証拠に斧を両手で構えるゴブリンは、肩で息をするように荒い呼吸を繰り返しており、その消耗っぷりは目に見えて明らかであった。

「ふぅむ、やはり二人は中々に腕が立つな。相手の魔物もかなり強力に見えるが、まだまだ余裕がありそうなのだ」

 二人の戦いぶりを目にしては、感心するような呟きを漏らしているエヴァンに、その戦いへと参加する気配は見えない。
 それもその筈であろう、相手する魔物が強力になっているため時間が掛かってはいるが、彼らにはまだ余裕が見て取れた。
 そんな状況で、エヴァンが背中に背負ったその大剣を抜くとは思えない。
 そんなエヴァンの姿を、カイは残念そうな表情で見詰めていた。 

「左様でございますね、坊ちゃま。しかしお二方も疲労が蓄積しているご様子、この戦闘が終わり次第休憩を取られるのがよろしいかと」

 余裕のありそうな二人の様子にも、アビーはこの戦闘が終わり次第休憩を取るようにエヴァンへと提案している。
 それもその筈であろう。
 盛況なこのダンジョンでは、次の部屋が空くまでに前の部屋で休憩を取るのが常であった。
 しかし今のダンジョンは、何故かほとんど先に進んでいる冒険者の姿が見受けられず、そのため彼らはかなりのハイペースでここまで進んできていたのだった。
 そのペースは如何な熟練の冒険者の二人と言えど、知らず知らずの内に疲労を溜めてしまう速度であることは間違いなかった。

「うむ、そうだな!そうだ!その時はアビー、あの・・・あれを淹れてやってもいいじゃないか?」
「紅茶でございますね?畏まりました、用意しておきます」

 アビーの休憩の提案に、エヴァンは軽く頷くと彼女が得意な飲み物を彼らにも提供してもいいのではないかと話していた。
 エヴァンの言葉に自らの手に持つ荷物を素早く広げたアビーは、早速とばかりに紅茶を淹れる準備を始めている。
 アビーがその場ですぐに火を起こせたのは、彼女が用意した魔道具のお陰だろうか。
 その筒状となった装置は薄く発光すると、その周辺の空気が明らかに熱を帯び、ゆらゆらと景色を揺らし始めていた。

「完全に休憩モードになっちゃってるし・・・あれ、おかしいな?もっと厳しくしろって俺、言ったよな?もしかして、ちゃんと伝わってない?」

 もはや戦う気配など一切なく、淡々と休憩の準備を始めているエヴァン達の姿に、カイはおかしいなと首を捻っている。
 彼は先ほど確かに、ヴェロニカ達にもっと厳しく当たるようにとお達しした筈であった。
 にもかかわらず、この場に流れ始めているほのぼのとした空気に、カイは自らの指示がうまく伝わっていないのではと疑い始めていた。

「いや、そんなことないか。出て来る魔物は確実に強くなってるし、さっきから冒険者がすれ違っていくのも、俺達を一刻も早く奥へと進ませるためだろうしな・・・う~ん、それならこのままヴェロニカ達に任せた方がいいのかなぁ?」

 うまく伝わっていないのではないかと疑うカイも、目に見えて変わった部分には疑問を挟めない。
 確かに冒険者の二人はまだ余力を残しているように感じられるが、その相手をしている魔物が確実に強力になっていっているのは間違いがない。
 そしてそれは明らかに、普段よりも強力な魔物の配置なのだ。
 そう考えれば彼の意図は間違いなく、ヴェロニカ達に伝わっていると思われる。
 そう納得したカイは、そうであるならばヴェロニカ達にこのまま任せればいいかと考え始めていた。

「いやいやいや!それじゃ勇者様が殺されちゃうじゃん!!そうだった、俺はあいつらの計画を妨害してるんだった!!」

 もうヴェロニカ達に全てを任せて、自分はこのままただの商人として振舞おうかと考えていたカイは、それでは何にもならないという事実を思い出していた。
 彼はヴェロニカ達に気づかれないように、彼女達の計画を妨害するためにここにいるのだ。
 それにもかかわらず、彼女達の好きなようにやらしてどうするのだと、彼は自らに突っ込みを入れる。

「う~ん、そうなるとまだ余裕のある今の内に勇者様の力を見ておきたいな・・・ん、あれは?」

 二人の冒険者の戦いぶりを見ると、ヴェロニカ達はまだここで勇者を仕留めようとはしていないのだろう。
 そうであるならば今の内に勇者の力を見ておきたいと願うカイの目に、なにやらもぞもぞと蠢く存在の姿が映る。
 それは今も戦いを繰り広げている冒険者達とは反対側に佇む、岩の姿に擬態したスライムであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...