ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

収拾不能の大混戦 3

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「あのー・・・レイモンド様。勇者である貴方様が、戦われれば問題ないのではないでしょうか?」

 エヴァンと一緒に集団の中頃へと押し込まれていたカイは、こんな状況にもかかわらずまだ諦めていなかったようで、彼にその力を振るうように懇願していた。

「う、うん?まぁ、確かにその通りなのだがな・・・しかし―――」

 皆で意見を一致させてこの場を離れようとしている時に、そんな事を提案するのは空気が読めていないだろう。
 しかし勇者の力であれば、この場を問題なく切り抜けられるのも、また事実であった。
 そんなカイの言葉に、エヴァンは断る理由が思いつかず言い淀んでしまう。

「今は、そのような状況ではないのでは?とにかくこの場を離れる事を、優先すべきかと思われますが」 
「た、確かにその通りですね!これは、失礼致しました!」

 しかしそれも、アビーが助け舟を出すまでの話しだ。
 強い口調でそんな状況ではない話す、アビーの表情は勤めて冷静である。
 しかしその冷静な表情は、寧ろその口調に僅かに滲んだ苛立ちや怒りを強調させ、思わずカイが平謝りしなくてはならなくなるほどの迫力を醸し出していた。

「おい、お前ら!もっと急げって・・・っち、もう遅かったか」

 先行し退路を拓いていたエルトンは、先ほどのやり取りによって足が緩みがちになっていたカイ達に、もっと急ぐように呼び掛けている。
 しかしそれも言い切る前に、舌打ちに変わっていた。
 彼の視線の向こうでは、ようやく切り拓いた道を埋め尽くすように回り込んでくる魔物達の姿が映っていた。

『そんな簡単に逃がすと思うてか!!同胞達よ、ゴブリン共を抑えておくのだ!!勇者の首級を上げる勲しは、我らオークの手に!!』
『ちぃ!邪魔してんじゃねぇよ、この豚野郎共がっ!!手前ら、こんなドン臭い連中に足止めされてんじゃねぇ!!脇をすり抜け、股を潜れ!!俺達のすばっしこさを見せつけてやるぞ!!』

 彼らがもし魔物達の言葉を聞く事が出来たなら、彼らを取り囲もうとしている魔物達もまた、手柄を争っていがみ合っていると気付く事が出来ただろう。
 しかし魔物達の言語を解する術を彼らは持たず、それを理解したのはカイただ一人である。
 そのカイも彼らにそれを話す事の出来ない事情があれば、彼らは大人しく来た道を引き返すしかなくなっていた。

「これはいかん。戻れ戻れ!あいつらの、あのゴブリン共がいる所まで戻るんだよぉ!!」

 彼らが次の部屋へと向かう通路の手前まで進めていたのは、彼らの背後をその二体のゴブリンが守っていたからだ。
 今もその場で、彼らを取り囲もうとしている魔物達を押さえている二体のゴブリンの後ろには、若干ではあるが安全なスペースがあった。
 そこへと戻るように促すエルトンは、目の前から襲い掛かってくるオークとゴブリンの猛攻を、何とか凌いでみせていた。

「ふぅ・・・ここなら何とか一息入れられそうだが。あいつらもそう持ちそうにはねぇな・・・どれ、俺もいっちょ助太刀にいってっくっかぁ」

 押し込むようにして元いた場所へと戻った一行に、エルトンはほんの一息だけ呼吸を整えると、再び戦場へと舞い戻っていく。
 彼の見立ては間違いなく、彼らを守るように振る舞っている二体のゴブリンも、最初の頃の勢いが衰えてきているようで、徐々に押し込まれ始めているようだった。

「わ、私達はどうすればよいのだ!?こ、このままでは・・・!」
「ご安心ください、レイモンド様。私とエルトンが時間を稼ぎます。その間にレイモンド様達は隙を見て、ここから抜け出すのです」

 この状況が絶体絶命である事は、碌に戦った経験もないエヴァンにも伝わっている。
 その動揺に混乱した様子のみせる彼に、ケネスは言い聞かせるように語り掛けていた。
 その内容ははっきりと、自らが犠牲になると語っている。
 そしてそれは幾ら人の感情の機微に鈍感なエヴァンにも、間違いようのなく伝わってしまっていた。

「だ、駄目だ!駄目だぞ、ガスリー!!そんな事は、この私が―――」
「そこまでです、坊ちゃま。それ以上は、お二方の覚悟を汚してしまいます」
「ぐっ!し、しかしだな・・・うぅ、分かったのだ。これ以上は何も言わぬ。しかし、しかしだ!決して命を無駄にするのではないぞ!!」

 ケネスと今も戦っているエルトンの二人から、確かな覚悟を感じ取ったエヴァンは、それを止めさせようと声を上げる。
 しかしそんな子供じみた我が侭では、二人の覚悟を汚すだけだとアビーから諭されれば、彼もいつしか自ら嗚咽を飲み込んでいた。
 そうして再び顔を上げた彼は、二人の戦士を見送ろうと漢の顔を覗かせていた。

「はははっ!別に私も死ぬつもりはありませんよ!お二方とキルヒマンさんが離脱すれば、折を見て逃げ出しますので。合流するのを、待っていてください・・・っと、そろそろ行かないと不味そうだな。それではそういう事なので、後の事はお願いします」

 エヴァンの少年らしくない、悲壮な表情を目にしたケネスは吹き出すように笑い出すと、そんな覚悟を決める必要などないと軽く手を振っていた。
 彼はお荷物であるエヴァン達がいなくなれば、自分達だけで生還出来ると軽く笑い飛ばしている。
 それがエヴァンを安心させるための嘘である事は、誰の目からみても明らかだろう。
 しかしそれを問い質す暇もなく、彼は一人魔物の相手をしては追い込まれつつあった相棒の下へと、軽い足取りで向かっていってしまっていた。

「勇者様。今こそ、今こそです!今こそ、そのお力をお振るいください!このままでは彼らは確実に、命を落としてしまいます!貴方も分かっているでしょう!?彼らは死ぬつもりなのです!それを止められるのは貴方しかいない!!」

 戦場へと向かうケネスの背中を見送っている、エヴァンの表情は悲痛に満ちている。
 その表情に、カイは今こそその時だと訴えかけていた。
 もはや逃げ場すらない状況に、仲間の命が犠牲になろうとしている。
 今この時を除いて、一体いつ勇者がその力を振るうだろうか。
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