ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

リタ・エインズリーは勇者である 4

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「・・・埒が明かない。何とか、何とかしないと・・・」 

 しかしそれは、セッキ一人の望みでしかない。
 彼を何とか突破して、一刻も早くマーカスの救援へと向かいたいリタは、一向に決着のつく様子のないこの戦いに、強い焦りを感じてしまっていた。

『あっ・・・おで、やっちまったかも』
『不味いど不味いど!どうすればいいんだで!!』

 やたらと鈍い音と共に響いてきたのは、そんなトロール達の間の抜けた声であった。
 コミカルにすら聞こえる彼らの会話はしかし、決して笑い話ではないことを話してはいないだろうか。
 それは特に、リタにとって。

『あっちゃー・・・やっちまったか、あいつら。まぁしゃあない、謝れば何とかなるだろ。さて、続きを・・・』

 響いた音とトロール達の声に、ある事実を悟ったセッキは軽く頭を抱えると、心底残念そうに首を振っていた。
 しかし一頻り残念そうに首を振った彼は、気持ちを切り替えるように一声吐き出すと、すぐに戦いを再開しようとする。
 彼にとって、それはその程度の問題でしかなかったようだ。

「・・・マーカス、君?そんな、嘘・・・だよね?」

 しかし、リタにとってはその限りではない。
 響いてきた音の方角と、その周辺でなにやら騒いでいるトロールの姿に、彼女は本能的にその事実を悟ってしまっていた。
 目を大きく見開いた彼女の瞳はその焦点を定めずに、ふらふらとそちらへと歩いていく身体と同じように、いつまでも頼りなく揺れ続けている。
 彼女はもはや戦う意欲をなくしたように、ゆっくりと彷徨うようにして歩いているだけだ。
 しかし、それを許さない者もいる。

『おっと、俺を無視するなよ?なぁ、勇者様よぉ。死んじったもんはしょうがねぇ、もうあんな奴のことは忘れて、俺と楽しもうぜぇ!!』

 ふらふらと彷徨うような歩き方で、マーカスの下へと歩み寄っていたリタの進路へ、すっと巨大な影が割り込んでくる。
 リタはそんな存在にも関心を抱かずに、倒れそうな不安定さで揺り動いては横へと避けてゆく。
 しかし割り込んだ巨大な影、セッキはそんな彼女の動きを許しはせず、その手を広げては完全に彼女の行く手を遮っていた。

『あ?だから、無視すんなって・・・』

 遮られた行く手にも、セッキの巨大な体躯とリタの小柄な身体を考えれば、その隙間までも完全に塞がれる訳もない。
 広げられた腕の下の隙間へと潜り込み、のろのろと先へと進もうとするリタはしかし、その鈍重な動きにいとも容易くその隙間すらも塞がれてしまう。

「・・・さい、・・・れ」
『何だって?よく聞こえねぇよ?いいから、さっさと殺り合おうぜ?向こうに行ったって、どうせ無駄無駄!知ってんだよ、俺ぁ。あいつらは加減を知らねぇってな』

 再び塞がれた進路に、リタがなにやら呟いた言葉はセッキには聞き取れない。
 彼はそんな事よりも、さっさと戦いを再開したくて堪らないという態度を見せている。
 リタはそんな彼の言葉に耳を傾ける様子もなく、新たな進路を探してはのろのろとその場を彷徨っていた。

『おいおい、いい加減諦めろって。俺を倒さなきゃ、向こうには―――』
「うるさい、黙れ」

 そんな悪あがきを止めようとしたセッキの腕は、その先から消えて地面へと落ちる。
 閃きすらなく瞬いた刃は既に、リタのその手に。
 彼女は自ら為したことに関心すら抱かずに、先へと進む。
 そうしてようやく、その切り裂かれた傷口から盛大に血流が吹き出し始めていた。

『・・・は?何だこれ?うおっ!?いってぇ!!!はははっ、マジか!?お前がやったのか、勇者様よぉ!!!』

 突然目の前から消失した自分の腕に、それが切り落とされた感触すらなければ、その現実をすぐには受け止めることは出来ない。
 しかし吹き出る血潮に痛みは流れ、やがて激痛へと変わったそれに、いつまでも無視することは出来はしない。
 奔った痛みにその現実をようやく認識したセッキは、驚きと共に喜びを爆発させていた。
 何故ならそれが、彼が求めていた勇者の振る舞いそのものであったからだ。

『あ、兄貴!?腕が腕が!!?』
『ひぇぇぇ!?どうすっべどうすっべ!?そ、そうだで!これを使ってけろ、兄貴!!』

 しかしそれを、この世の終わりかのように騒ぐ者もいる。
 腕を切り落とされたセッキの姿に、おろおろと右往左往しながら騒ぎ始めたトロールの二人は、混乱したようにその場でどたどたと暴れまわっていた。
 その混乱の果てにトロールの一人が何かを思いついたかのように立ち止まり、その粗末な衣服を弄り始める。
 彼がその懐から取り出したのは、彼らの手からすると余りに小さ過ぎるガラスの小瓶だ。
 それをセッキへと投げつけたトロールに、もう一人のトロールも慌ててそれに倣って、ガラスの小瓶を放り投げていた。

『気が利くじゃねぇか、おめぇら!!助かったぜ!!』

 空中を舞い、キラキラと輝きを放つその小瓶は、おそらく治癒のポーションだろう。
 セッキは普段愚鈍な彼らの見事な機転に感謝の声を叫ぶと、慌てて自らの腕を拾ってそれを元の位置へとくっつけていた。
 それは治癒のポーションの力で、切り落とされた腕を繋げるための処置だろう。
 しかしその状態で、彼は一体どうやって投げつけられたポーションを受け取るというのか。

『ひょっと!ひぇひぇ、どぅひゃ!ひゅまぃもんひゃど!』

 答えは簡単だ。
 セッキはその大きな口を最大限に広げると、飛来したポーションを受け止めている。
 飛来したそれを全て受け止め切れたのは、彼の技量というよりも幸運の賜物だろう。
 三つほど投げつけられたポーションを、その凶暴な牙の間に挟んだセッキは、そのままの状態でなにやら自慢げに喋って見せていた。

『あひょわ・・・がっ!!ちっ、相変わらずまっじぃな・・・そら!これで、どうだ?』

 その鋭い牙で挟んでいたポーションの瓶を噛み砕いたセッキは、その味に文句を零すと繋げたままの腕へと口を近づける。
 彼が近づけた傷口に吹きかけた液体は、すぐに血液に混じって本来の色を失っていたが、もやのように立ち上る蒸気が、その治療の終わりを告げていた。

『よし、いけそうだな。待ってろよ、勇者様。今、俺様が―――』
『あ、兄貴ぃ!!早く来てくれよぉ!!』
『ひぃぃ!こ、こいつ・・・なんか、怖いどぉ!!』

 立ち上った蒸気のような煙が消える頃には、その腕を握っては動きを確かめているセッキの姿がそこにある。
 彼がその感触を確かめては戦意を昂ぶらせようとしていた丁度その時、どこかから情けない声が響いてくる。
 それはのろのろと彷徨うように動くリタが目の前にまで迫り、その異様な雰囲気に恐怖するトロール達の悲鳴であった。

『ちっ、情けねぇな・・・まぁ、あれ相手じゃしゃあねぇか。待ってろ、今行くからよぉ!!』

 盛り上がりかけていたところに水を差されたセッキは、その不満に舌を打っている。
 しかし彼の腕を気付かないほどの鋭さで切り落とした今のリタの相手を、彼らに務まるとは思えない。
 それどころか、一太刀の内に彼らは切り伏せられてしまうだろう。
 そう納得を示したセッキはすぐに救援へと走り出し、その始めに放り出していた金棒を拾い上げていた。

『おぅらぁぁぁっ!!!俺様を無視してんじゃねぇぇぇ!!!』

 大柄な彼が全速力で駆け出せばその速度、迫力共に相当なものになる。
 リタがふらふらと彷徨ってようやく辿りついた距離を一瞬で縮めたセッキは、気合の声と共にその得物である金棒を振り下ろす。
 その先に佇むリタは今だ、そちらを向いてすらいなかった。 
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