ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

文字の大きさ
283 / 308
カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

リタ・エインズリーは勇者である 3

しおりを挟む
『おいおい・・・こんなちんけな火の粉程度が、俺様に効くと思ってんのかぁ?随分、舐められたもんだなぁ!!』
「そんな・・・があぁぁぁぁぁっ!!?」 

 その頭髪の先端を僅かにチリチリと燃やしたセッキは、絶望に目を見開いているマーカスに対してニヤリと笑って見せている。
 彼がダメージを負った様子がないのは、炎に絶対の耐性を備えているからか、それとも単に実力差がありすぎてダメージを与えることが出来なかったのか。
 何の事はない、彼はそれをやせ我慢して見せていただけだった。
 元々赤みが帯びている彼の肌は、火傷に熱を帯びてもそれが分かり難いだろう。
 唇を歪めたセッキの表情はその実、痛みに耐えて奥歯を噛み締めたのを誤魔化すものであったが、圧倒的強者のオーラを放つ彼の表情に、マーカスはその嘘を見抜くことなど出来はしない。
 自らの渾身の攻撃が無意味だと知り絶望するマーカスは、その表情のまま力を込めたセッキによって握り潰されようとしていた。

「・・・せ、・・せよ・・」

 余りの激痛によってその杖さえ取り落としてしまったマーカスにはもはや、抵抗することすら出来ないだろう。
 ミシミシと響く骨の軋む音が、彼の命があと残り僅かである事を示している。
 それはもはや覆すことの出来ない、現実なのであろうか。
 その時、どこかから囁くような、願うような呟きが聞こえてきていた。

「そいつを、放せよぉぉぉぉっ!!!」

 壁へと強かに打ちつけられ、ようやくその身を起こした所である彼女の意識はまだ、はっきりとはしていないだろう。
 それでも叫び声を上げて駆け出したリタの足は早く、一瞬の間にその距離を詰めていた。

『お、ようやくお目覚めかい?そんじゃ、後はお前らに任せっぞ』

 こちらへと突進してくるリタの姿に嬉しそうな表情を見せたセッキは、あっさりとマーカスの身体を解放すると、それを二体のトロールの下へと放り投げていた。

『ま、任せろ!』
『おでだち頑張る!頑張って、こいつボコボコにする!!』

 セッキからマーカスを受け取ったトロール達は、彼の命令に気合の篭った返答を返すと、早速とばかりにその身体を殴りつけ始めている。
 万全な状態であるならば、その技術と立ち振る舞いによって彼らの猛攻を凌げたマーカスも、今や見る影もない。
 余りにも一方的に殴られ続ける彼に、聞こえてくるのは肉を潰すような打撃音ばかりであった。

『いや、だからよぉ・・・殺すなって言ってんだろ・・・って、おっと!いけねぇいけねぇ、忘れる所だったぜ勇者様よぉ!!』

 先ほどやり込められた反動だろうか、明らかに張り切ってボコボコにしている様子のトロール達に、セッキはそのまま殺してしまわないかと心配を漏らしていた。
 さっきあれほど言い聞かせた事をもう既に忘れている様子の彼らに、頭を抱えているセッキの横を何者かの影が猛スピードで通り過ぎてゆく。
 しかしその存在に気づき、すぐさま振るったセッキの腕はさらに速い。
 速さ重視でそれほど力の篭っていない腕は軽く、それに弾き飛ばされた影もすぐ傍へと落ちる。
 地面へと静かに降り立った勇者、リタはそのまま体勢を立て直す事なく再び走り始めていた。

「そこを・・・どけぇぇぇっ!!!」

 再び走り出した彼女の標的は、もはやセッキではない。
 今も殴られ続けているマーカスを助けようと駆けているリタは、彼を取り囲んでいるトロール達に向かって進もうとしている。
 しかしそんな彼女の振る舞いを、セッキが許す筈もない。
 彼女が先に進むよりも早く、そのルートへと立ち塞がるセッキは、その巨大な体躯を生かして両手を広げては彼女の行く手を遮っていた。

『だからさぁ・・・それじゃ無理だって。よっと!』

 このままではいつまで経ってもマーカスの下には辿りつかないと悟ったリタは、先にセッキを無力化しようと彼に飛び掛ってゆく。
 しかし聖剣を手にしていない彼女など、彼の相手にもなりはしない。
 軽くあしらうように振るった腕に、またも弾かれてしまった彼女は、今度は大きく吹き飛ばされてしまっていた。

「くそっ、もう少しだったのに!っ!?・・・?何のつもり?」

 大きく弾かれ、ようやく地面へと降り立ったリタが悔しさを噛み締める間もなく、何かが猛烈なスピードで彼女へと迫っていた。
 予感した危険に、大きく飛び退いた彼女はしかし、地面へと突き刺さったそれに疑問を感じてしまう。
 空間を切り裂くようなスピードで飛来してきたそれは、彼女が担うべき聖剣アストライアであった。

『くれてやるよ。やっぱ勇者様は、それを使わねぇとなぁ?』
「・・・舐めるなぁぁぁっ!!!」

 明らかにそれを投げつけた姿でリタへと目を向け、早くそれを手に取れと示しているセッキに、言葉は伝わらずともその意図は明白だ。
 事実、それを手に取らなければ戦いにもならない実力差があるのは確かだろう。
 しかしその余りにも舐め腐ったセッキの態度に、怒りを感じないほどリタは純粋ではなかったし、自らの実力に自負もあった。

『ははっ!!なんだよ、やれば出来るじゃねぇか!!!』

 セッキが先ほど放った自らの得物である金棒を拾う、その僅かな時間に飛び掛ってきたリタのスピードは、先ほどまでのものとは比べ物にならないほどに速い。
 それは彼女が、その手に聖剣を握っているからか。
 飛び掛り、その刃を振るう彼女のそれを、セッキは何とか弾き返している。
 しかしそれは余りに不安定な体勢から放った一撃であり、リタの剣を完全に弾き返すほどのものではない。
 そうして彼が体勢を立て直すよりも早く、その刃を振るった彼女によって、セッキの身体は浅く切り裂かれてしまっていた。

『いいねいいねぇ!!この痛み、この熱さこそが戦いよ!!なぁ、そうだろぉ!!勇者様よぉ!!!』

 致命的な隙を晒しながらも、浅い傷を受けただけで済んだのは、彼が咄嗟に体勢を立て直すことを諦めてその場に転がったからだろうか。
 跳ねるようにしてその体勢から跳ね起きたセッキは、両手を広げると全身で喜びを表している。
 彼のその脈動する肉体は、これこそが望んでいた戦いだと大いに奮えて表現していた。

「マーカス君、今行くから!!」

 しかし彼女は、そんなセッキに関心など見せずに、その横を通り過ぎようとしていた。
 彼女が目指しているのは、今もトロール達に嬲り殺されようとしているマーカスの下だろう。
 今の彼女の力であるなら、そんなトロール二体程度、一瞬のうちに退けてしまえる筈だ。

『おいおい、つれねぇじゃねぇか・・・もっと楽しもうぜぇ!!!』
「くっ、この・・・邪魔を、するなぁ!!」

 しかし、そうはならない。
 自らの横を通り抜けようとしたリタに、セッキはその手の得物を全力で振り下ろしている。
 その鋭さは、咄嗟に受け止められるような威力ではない。
 リタが何とか身を躱しながら放った刃は、セッキの得物を僅かに切り裂いていたが、着地した彼女はマーカスからまた一歩、遠ざかってしまっていた。

『俺を倒さなきゃ、あいつを助けにはいけねぇぜぇ!!もう腹を括って、俺と殺り合おうぜぇ、勇者様よぉ!!!』

 払った閃光が、弾けて消える。
 なにものをも切り裂く聖剣に、それと打ち合わなければならないセッキは、その得物の振るい方に慎重さを求められるだろう。
 しかしそのハンデキャップこそが、彼をこの戦いへの喜びへと導いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた

ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。 遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。 「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。 「異世界転生に興味はありますか?」 こうして遊太は異世界転生を選択する。 異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。 「最弱なんだから努力は必要だよな!」 こうして雄太は修行を開始するのだが……

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

処理中です...