ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

そうしてボクは産声を上げる 3

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『あぁ・・・ごめんなさい。言葉が分からないのよね・・・それじゃあ、これで伝わるかしら?」

 魔物達の間に通じる共通語で話していたヴェロニカは、それでは伝わらないと反省を口にすると、その言葉の最後を人間達の言葉へと変化させている。
 その言葉の変化に、マーカスは驚愕に目を見開いていた。

「なっ・・・何故、お前達のような怪物が我々の言葉を!?」
「あら、怪物とは失礼ね?私の見た目はあなた達と、さほど変わらないと思うのだけど?でもそうね、貴方達の言葉を話せる理由なら答えられるわよ。それはね、私の主人が勉強為されているのを目にしたからなの!ふふふっ、だからあの方を驚かせようと思ってこっそり勉強したのよ!あぁ、でもこれはまだ秘密なの。だから貴方もあまり他人には話さないで頂戴ね?」

 自らの美しい容姿に、それを怪物と形容された事にヴェロニカは不満を示している。
 しかし先ほどの彼女の振る舞いを考えれば、それをマーカスが怪物と表現するのも自然なことに思えた。
 しかし彼女はそんな事よりも、自分が何故人間達の言葉を話せるかを話したいようで、ウキウキとした笑顔で両手を合わせると、それを長々と語り始めていた。

「主人、だと・・・?お前が、このダンジョンの主ではないのか?」
「私が?そんな滅相もない!私など、あの偉大なる御方の足元にも及ばないわ!!」

 ヴェロニカの惚気話のような語りはしかし、マーカスに聞き逃せない事実を教えていた。
 あの圧倒的な力を持った鬼すらも、この目の前の怪物は使役しているように見えた。
 しかしそんな怪物ですら、このダンジョンの主ではないという。
 ではこのダンジョンの主とは、一体どれほどの存在なのだろうか。
 それはもはや、魔王という名すら足りないほどの化物なのでは。
 そう怯えるマーカスに、ヴェロニカはその想像を加速させる言葉を叫ぶ。
 そうして彼は知ったのだ、この地が決して足を踏み入れてはならぬ、怪物達の巣であった事を。

「っんん!それで、貴方はこの後どうするのかしら?このまま逃げ帰るというのなら、こちらは妨害しないと約束するわ。それとも―――」

 主人の話題に思わず興奮し、大声を上げてしまったヴェロニカは、それを誤魔化すように咳払いをすると話題を切り替える。
 それは、マーカスに逃亡を促す内容であった。
 勇者を討伐したという事実を宣伝して欲しいヴェロニカからすれば、マーカスの存在はまさにその生き証人だ。
 そのため彼女は彼をなるべく生かすように通達していたのだろうし、当然今の状況に彼を殺す気などさらさらないようだった。

「わ、私がそれを、聖剣アストライアを置いていける訳がないだろう!!何としても、取り返す!例え、この命に代えても!!!」

 しかしマーカスにもまた、引けない理由があった。
 勇者のお付の神官でありながら、その勇者を死なせてしまったという責は余りに大きい。
 ましてやその状況で一人、おめおめと生きて帰ったらどんな目に遭うだろうか。
 想像する事すら絶望してしまいそうになる未来に、マーカスはせめて聖剣アストライアだけでも持ち帰り、それを払拭させようと雄叫びを上げる。
 そんな彼の姿に、ヴェロニカは困ったように小首を傾げていた。

「あらそう?確かに貴方の事情も分かるのだけど、こちらとしてもこれは返す訳にはいかないの。でもそうね、どうしても言うなら・・・戦うしかないわね」

 マーカスの事情に理解を示すヴェロニカはしかし、こちらもそれは譲る訳にはいかないのだと眉を困らせている。
 彼女の主人、カイ・リンデンバウムはいずれ、あの大魔王にすら反旗を翻そうと考えているほどの御方だ。
 その時にはきっと、あの忌々しい聖剣も役に立つだろう。
 そう考えるヴェロニカは、はいそうですかとそれを譲ることは出来ない。
 その命すら捨てても構わないという覚悟でマーカスが握り締めたのは、彼の首からぶら下がっている首飾り、タリスマンであった。
 それを引きちぎり、握り締めたマーカスは必死の形相でヴェロニカを睨みつける。
 そのタリスマンは魔法の発動を補助する能力があるのか、揺らめくように光を放ち始めたそれにヴェロニカは肩を竦めると、それならもはや戦うしかないと呟いていた。

「あ・・・ぁあ・・・こんな、こんな事が・・・」

 その囁いた言葉は、この静寂の中ですら掠れて消える。
 しかし彼女の囁いた言葉の意味を、聞き逃すことはない。
 何故ならその瞬間、彼女の足元から湧き上がった闇から這い出そうとしている者達が、まだこの世に現れ出でていないにもかかわらず、圧倒的な死の気配を漂わせているのだから。
 ヴェロニカの背後へと立ち上った闇からは、何か巨大な瞳が覗いており、それはただただじっと目の前のマーカスの事を見つめている。
 それは一目で、決して人間には敵わない存在であると理解出来る。
 そんな存在に自らを認識されたマーカスは、恐怖に震える身体に思わず、その手に握ったタリスマンをも取り落としてしまっていた。

「・・・どうしてそれを手放すの、戦うのではなかったのかしら?あぁ、ごめんなさいね!怖がらせてしまったかしら?安心して頂戴、貴方の相手をするのは彼らではないわ。貴方にはもっと、相応しい相手がいるもの」

 命を懸けてでも戦うと決意した男が、今その得物を手放して震えている。
 その姿を目にしては不思議そうに首を傾げたヴェロニカは、その原因が自らの背後の存在にあると思い至り、うっかりしていた両手を叩いていた。
 彼女はにっこりと笑った唇に指を添えると、彼にはもっと相応しい相手がいるのだと、本当に嬉しそうに宣言する。
 そんな彼女の足元から一筋の闇が伸び、それは人一人がすっぽりと収まるほどの穴を形成していた。

「出てきなさい、私の可愛い勇者・・・いいえ、ゾンビ勇者リタ・エインズリー」
 彼女の呼称を訂正したヴェロニカは、その唇をさらに恍惚で濡らしている。
 ヴェロニカの足元から伸びた闇から音もなく這い出してきたのは、かつて勇者であった少女、リタ・エインズリーその人であった。

「ふふっ、いい子ね。流石は私の子供達。さぁ、リタ。それを使って、目の前の男を殺してしまいなさい」

 彼女の足元から広がり、そこから這い出そうと手を伸ばしている怪物達は、この部屋の片隅に転がっていた聖剣を拾っては、それをリタの足元へと差し出している。
 その様子に心底嬉しそうな笑みを漏らしたヴェロニカは、嬉々としてリタにマーカスを抹殺するように命令を下していた。
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