ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

そうしてボクは産声を上げる 4

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「はい、マスター」

 かつては、天真爛漫とした振る舞いをみせていた彼女からは想像も出来ないような機械的な声で、リタはヴェロニカの命令に了承を告げると、足元の聖剣を拾い上げる。
 穢れたアンデッドへと堕ちた身体に、その手は聖剣によってじゅうじゅうと激しい音を立てながら焼かれていく。
 しかしヴェロニカの死霊術は、その程度で駄目になってしまうようなやわな身体で、彼女を再誕させてはいない。
 事実、煙を巻き上がらせながら焼かれているリタの手の平は、その端から再生を繰り返しているようだった。
 それは彼女の皮膚と聖剣を癒着させてしまっていたが、それはそれで構わないのだろう。
 少なくとも今はまだ、彼女はそれを手放すことを許されてはいないのだから。

「そんな・・・リタ、あなたは・・・あぁ、何て事を・・・何て事を私は」

 目の前の少女の姿は、マーカスにとって絶望の形そのものだ。
 勇者という人類の希望をむざむざ死なせてしまっただけではなく、それをアンデッドとして魔物達の手に渡してしまうなど、決して許される事ではない。
 その事実は、彼に死という罰だけではなく、人類の戦犯として歴史に記されるという制裁までも与えるだろう。
 しかし彼が今絶望に目を見開き、涙を零しているのはそんな未来に絶望したからではない。
 それはただただ、目の前の少女の姿が、リタの姿が余りに惨めで可哀想で堪らなかったからだ。

「―――逃げ、て」

 そう、絞り出した声が耳元で囁かれたのは、その身体が遠く弾き飛ばされてしまったのと同じタイミングだ。
 一瞬の内にマーカスとの間合いを詰めたリタは、その聖剣を振るうと彼を弾き飛ばす。
 それが聖剣の腹の部分であったことは、彼女が支配へと抗ったからか、それとも主人がそれを望んだからか。
 しかし少なくとも、喉から絞り出したようなその声が、彼女の意思によって紡がれたことだけは間違いようのない事実であった。

「リタ・・・それでも、それでも私はせめて、貴方だけでも救いたい!そのためなら―――」

 リタの振り絞った声はしかし、逆にマーカスに強い決意を齎していた。
 それは彼女の願いとは、相反する覚悟だろう。
 そんな覚悟を抱いても、彼にはその得物すらない。
 しかし彼の回復魔法の技術を考えれば、アンデッドであるリタを何とかすることは可能なのかもしれない。
 事実、彼の両手はうっすらと光を帯び始めていた。

『ヴェロニカ、調子の方はどうなのじゃ?さきほど、セッキの奴が運ばれておるのとすれ違ったが・・・』

 しかしその決意も、その存在が横を通りがかるまでだ。
 彼の存在などまるで気にも掛けない様子で、その横を通り過ぎていったのは年老いた猫であった。
 それが明らかに言葉を話しているのは、確かに奇妙な様子ではあったが、この場所では驚くに値しない。
 しかしどこかで一度、目にした記憶のあるその姿は、以前のそれとは全く違ってしまっていた。
 大仕事を終えて興奮してしまっているその猫は、以前被っていた皮を完全に剥いでしまっている。
 その身体から放たれている圧倒的な迫力は、同じ魔法使いであるからこそマーカスにははっきりと伝わり、そして恐怖してしまう。

「ひぃっ!!?・・・あぁあぁ・・・・ぁぁ・・・ぁぁあぁぁぁぁああぁぁあっっ!!!!??」

 思わず漏れてしまった悲鳴は、その心が既に恐怖に支配されてしまったことを示している。
 そんな悲鳴を耳にして、その猫が彼へと向けた視線は、音が鳴った方へと顔を向ける反射の類でしかないだろう。
 しかしそんなただ仕草すらも、今の彼には絶対的な恐怖を齎して、もはやその場にいることすら許さない。
 思わず漏れてしまった悲鳴を絶叫へと変えたマーカスは、ただただ一目散に出口へと向かって駆け出してしまっていた。

『・・・なんじゃ、あ奴は?』
『ふふふっ、別に何でもないの。貴方が気にする事ではないわ、ダミアン。でもそうね、助かったわありがとう』
『ふむ、何の事かさっぱり分からんが・・・まぁ、助かったのならばよしとしよう』

 彼の姿を見るや否や、悲鳴を上げて逃げ出してしまったマーカスに、ダミアンはその後姿へと目をやりながら不思議そうな表情を浮かべていた。
 そんなダミアンの反応に笑みを浮かべたヴェロニカは、彼へと感謝の言葉を述べている。
 それはマーカスを逃がす事が、彼女のもともとの目的であったからだろう。
 そんな彼女の言葉に、何の事がさっぱり分からないと頻りに首を捻っていたダミアンは、もはや理解は諦めたと嘆息を漏らす。
 彼にはどうやら、それよりも気になる存在があったようだ。
 それは恐らく立ち去ったマーカスの後姿を、虚ろな瞳で見詰め続けている少女の事だろう。
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