ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

文字の大きさ
295 / 308
カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

そうしてボクは産声を上げる 4

しおりを挟む
「はい、マスター」

 かつては、天真爛漫とした振る舞いをみせていた彼女からは想像も出来ないような機械的な声で、リタはヴェロニカの命令に了承を告げると、足元の聖剣を拾い上げる。
 穢れたアンデッドへと堕ちた身体に、その手は聖剣によってじゅうじゅうと激しい音を立てながら焼かれていく。
 しかしヴェロニカの死霊術は、その程度で駄目になってしまうようなやわな身体で、彼女を再誕させてはいない。
 事実、煙を巻き上がらせながら焼かれているリタの手の平は、その端から再生を繰り返しているようだった。
 それは彼女の皮膚と聖剣を癒着させてしまっていたが、それはそれで構わないのだろう。
 少なくとも今はまだ、彼女はそれを手放すことを許されてはいないのだから。

「そんな・・・リタ、あなたは・・・あぁ、何て事を・・・何て事を私は」

 目の前の少女の姿は、マーカスにとって絶望の形そのものだ。
 勇者という人類の希望をむざむざ死なせてしまっただけではなく、それをアンデッドとして魔物達の手に渡してしまうなど、決して許される事ではない。
 その事実は、彼に死という罰だけではなく、人類の戦犯として歴史に記されるという制裁までも与えるだろう。
 しかし彼が今絶望に目を見開き、涙を零しているのはそんな未来に絶望したからではない。
 それはただただ、目の前の少女の姿が、リタの姿が余りに惨めで可哀想で堪らなかったからだ。

「―――逃げ、て」

 そう、絞り出した声が耳元で囁かれたのは、その身体が遠く弾き飛ばされてしまったのと同じタイミングだ。
 一瞬の内にマーカスとの間合いを詰めたリタは、その聖剣を振るうと彼を弾き飛ばす。
 それが聖剣の腹の部分であったことは、彼女が支配へと抗ったからか、それとも主人がそれを望んだからか。
 しかし少なくとも、喉から絞り出したようなその声が、彼女の意思によって紡がれたことだけは間違いようのない事実であった。

「リタ・・・それでも、それでも私はせめて、貴方だけでも救いたい!そのためなら―――」

 リタの振り絞った声はしかし、逆にマーカスに強い決意を齎していた。
 それは彼女の願いとは、相反する覚悟だろう。
 そんな覚悟を抱いても、彼にはその得物すらない。
 しかし彼の回復魔法の技術を考えれば、アンデッドであるリタを何とかすることは可能なのかもしれない。
 事実、彼の両手はうっすらと光を帯び始めていた。

『ヴェロニカ、調子の方はどうなのじゃ?さきほど、セッキの奴が運ばれておるのとすれ違ったが・・・』

 しかしその決意も、その存在が横を通りがかるまでだ。
 彼の存在などまるで気にも掛けない様子で、その横を通り過ぎていったのは年老いた猫であった。
 それが明らかに言葉を話しているのは、確かに奇妙な様子ではあったが、この場所では驚くに値しない。
 しかしどこかで一度、目にした記憶のあるその姿は、以前のそれとは全く違ってしまっていた。
 大仕事を終えて興奮してしまっているその猫は、以前被っていた皮を完全に剥いでしまっている。
 その身体から放たれている圧倒的な迫力は、同じ魔法使いであるからこそマーカスにははっきりと伝わり、そして恐怖してしまう。

「ひぃっ!!?・・・あぁあぁ・・・・ぁぁ・・・ぁぁあぁぁぁぁああぁぁあっっ!!!!??」

 思わず漏れてしまった悲鳴は、その心が既に恐怖に支配されてしまったことを示している。
 そんな悲鳴を耳にして、その猫が彼へと向けた視線は、音が鳴った方へと顔を向ける反射の類でしかないだろう。
 しかしそんなただ仕草すらも、今の彼には絶対的な恐怖を齎して、もはやその場にいることすら許さない。
 思わず漏れてしまった悲鳴を絶叫へと変えたマーカスは、ただただ一目散に出口へと向かって駆け出してしまっていた。

『・・・なんじゃ、あ奴は?』
『ふふふっ、別に何でもないの。貴方が気にする事ではないわ、ダミアン。でもそうね、助かったわありがとう』
『ふむ、何の事かさっぱり分からんが・・・まぁ、助かったのならばよしとしよう』

 彼の姿を見るや否や、悲鳴を上げて逃げ出してしまったマーカスに、ダミアンはその後姿へと目をやりながら不思議そうな表情を浮かべていた。
 そんなダミアンの反応に笑みを浮かべたヴェロニカは、彼へと感謝の言葉を述べている。
 それはマーカスを逃がす事が、彼女のもともとの目的であったからだろう。
 そんな彼女の言葉に、何の事がさっぱり分からないと頻りに首を捻っていたダミアンは、もはや理解は諦めたと嘆息を漏らす。
 彼にはどうやら、それよりも気になる存在があったようだ。
 それは恐らく立ち去ったマーカスの後姿を、虚ろな瞳で見詰め続けている少女の事だろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた

ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。 遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。 「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。 「異世界転生に興味はありますか?」 こうして遊太は異世界転生を選択する。 異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。 「最弱なんだから努力は必要だよな!」 こうして雄太は修行を開始するのだが……

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

処理中です...