ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

夜の国 3

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『今、何と言ったのじゃ?妾の聞き間違いではなければ、勇者を殺したと聞こえたが・・・』
「間違いではございません、私は確かにそう言いました。そして恐らくなのですが・・・彼らは勇者をアンデッド化し、使役しているものと思われます」

 アーデルヘイトがその言葉を聞き返したのは、何もフィリップの声が聞き取れなかったからではないだろう。
 彼が話した事実の余りの突拍子もなさに、彼女はそれを俄かには受け止められなかったのだ。
 しかしフィリップは、その事実を淡々と肯定する。
 それどころか彼は、自らが調べたさらに恐ろしい事実までをも口にしていた。

『・・・くふふ、くふふふっ、あーっはっはっは!!!中々、面白い事をするではないか!!そのカイとやら!!くはははっ!いやー、愉快愉快!中々、笑わせてもらったぞ』

 僅かな沈黙を挟んで、転がるように笑い始めたアーデルヘイトに、フィリップは無表情でその笑い声を浴びている。
 そのアーデルヘイトの笑い声は、まさに童女のように無邪気なもので、聞いている者の心を和ませるだろう。
 しかし彼女の本性を知っているフィリップからすれば、その感情の発露は恐ろしい振る舞いの予兆にも思える。
 そのため彼は静かに背筋を伸ばし、彼女の次の言葉をただただ待ち構えていたのだった。

『勇者を手中に収めるとはな、まさかそんな方法があるとは夢にも思わなかったのじゃ!しかしアンデッド化とはな、それはやはり・・・』
「えぇ、あの屍姫ヴェロニカの手によるものでしょう」
『そうかそうか!やはりあの娘か!!ううむ・・・やはり欲しいのぅ。何とかして、手に入らないものか。いっそ、妾自ら・・・』
「お望みとあらば、すぐにでも攫って参ります」

 アンデッドの王たる吸血鬼の姫は、やはりその存在が気になって仕方がないようだ。
 勇者がアンデッド化したのが、屍姫の異名で呼ばれるヴェロニカだと知ったアーデルヘイトは、濡れそぼった唇をなぞっては舌なめずりをしている。
 そんな彼女の様子に、フィリップはすぐさまその願いを叶える為に行動すると宣言していた。

『いいや、まだじゃよ。まだ駄目じゃ、エルベルトよ。あれはまだまだ青いからのぅ、もっともっと甘ぅ甘ぅ熟れてから、そこをもぎ取るのじゃ・・・くふふふっ、楽しみじゃのう』
「・・・左様でございましたか。これは失礼致しました」

 フィリップの忠義溢れる言葉にも、アーデルヘイトはまだ駄目だと、甘い口調でそれを叱りつけている。
 彼女にとって、ヴェロニカはまさに甘い甘い、ご褒美といってもいいご馳走なのだろう。
 うっとりとした口調で、それについて語っている彼女は、それを刈り取るのはまだ早いと、まるで自分に言い聞かせるように唱えている。
 それを耳にしてフィリップは何を思ったのか、少なくとも彼はその表情に何の感情も浮かべてはいなかった。

『じゅるるる!おっと、涎が・・・しかし、中々面白い事をしておるなぁ、そのカイ・リンデンバウムとやらは。その名前は噂で聞いた事があるという程度じゃったが・・・これは、一度話してみても良いかも知れんのぉ』
「・・・同盟、ですか?」
『場合によっては、な。あれは恐らく、勇者を手中に収めたことを秘匿しておるのじゃろう?』
「はい、外には知らせてはいないようです」
『ふふふっ、そうじゃろうそうじゃろう。勇者とその剣は、かの大魔王にも届きうる牙よ。それを秘匿するという事は、奴に反旗を翻す意思があるという事・・・中々、面白い事じゃと思わんか?』
「・・・私には、分かりかねます」

 カイが為した行いに、アーデルヘイトは興味を示した様子を見せる。
 彼女は殊更、彼らが勇者をその手中に収めたことを重要視しているようだ。
 彼女が考えている通り、彼らは勇者をその手中に収めた事を外には漏らしてはいない。
 勇者は魔を断つ剣そのものであり、その刃は大魔王の喉下にも届くだろう。
 そんな存在を秘匿し、その手中に収めるという事は、その事自体が大魔王に反旗を翻しているのに等しい。
 それが愉快で堪らないという様子のアーデルヘイトは、彼らとの同盟すらも考えているようだった。

『そうか?まったく、エルベルトはお堅いのぅ・・・まぁ、よい。どちらにしても、まだ先の話よの。しかし当然、お主には引き続きその者達に探りを入れてもらうぞ?』
「勿論でございます、アーデルヘイト様」
『うむ、任せたのじゃ!しかし、真面目に話すと腹が減るのぅ・・・』

 フィリップのお堅い態度に、残念そうな吐息を漏らしたアーデルヘイトはしかし、すぐに気を取り直すと彼にさらにカイ達へと探りを入れるようにと命令を下す。
 その言葉に跪き、頭を垂れたフィリップに満足げな態度を見せたアーデルヘイトは、その話の終わりに可愛らしくお腹を鳴らせると、腹が減ってしまったと呟いていた。

「っ!では、私は仕事がありますのでこれで!」

 今、空腹を鳴らした彼女は、一体何を口にするのだろうか。
 少なくとも彼女の眼前には、まさに獲れたてぴちぴちの新鮮な肉が転がっている。
 それを咀嚼する音を聞きたくないフィリップは、慌てて踵を返すとその場を立ち去ろうとしていた。

『別に、ゆっくりしていっても良いのじゃぞ?あぁ、行ってしもうた。ほんに真面目じゃのぅ、エルベルトは』

 そんな彼の心情など知る由もなく、アーデルヘイトはそんな暢気な感想を漏らしていた。
 彼女が今後、何を口にするかは分からない。
 しかし今もお腹の辺りを押さえているその空腹に、彼女がもはや調理を待つ気はないということだけは確かであった。
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