ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

文字の大きさ
307 / 308
カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

大魔王

しおりを挟む
「あの子が、目覚めるよ」
「くすくすくす。えぇ、そうね。ねぼすけなあの子が、ようやく目覚めるの」

 その暗い部屋には、明かりが全く差し込まず、何も見通すことが出来ない。
 しかしその響き渡る声に、そこが相当な広さを持った空間であることが分かる。
 そこから聞こえてくる声は、無邪気な少女のようにも疲れきった老婆のようにも聞こえた。

「・・・それは、いつの話しだ?」

 そして今、響いた声は殊更に重い。
 その重々しい声は、この広い空間を余す事なく押し潰すように響いている。
 それはそのボリュームが囁くような小ささにもかかわらず、まるでそんな物理法則など無視するかのように、この空間を塗りつぶしていた。

「もうすぐよ、もうすぐ」
「でも、どうかしら?この前目覚めたあの子は、貴方達の時間では百年前?千年前だったかしら?」
「お姉様。そんな話、私には分からないわ」
「えぇ、そうね。私達には、そんなこと関係ないわね。もうすぐよ、もうすぐ。私達の可愛い末妹が目を覚ますわ」

 囁かれた重々しい声は、それを向けられた者の頭を自然と垂れさせてしまうような威厳に満ちていた。
 しかしそれに答える少女のような声は、まるで気にした風もなくコロコロとマイペースに言葉を転がしている。
 それは結局、彼の質問にはまるで答えようとはせずに、適当にはぐらかしてばかりいた。

「・・・そうか。場所は分かるか?」

 しかしその重々しい声の主も、それを気にしようとはしない。
 彼は短く嘆息を漏らすと、彼女達から何とか情報を聞き出そうと、今度はその場所について再び尋ねていた。

「遠い、遠い場所よ。ね、お姉様」
「そうね。この世の果ての場所よ、我が主。全てが始まったあの場所で、妹は目覚めるの。こんなに嬉しい事はないわ」

 彼の言葉に、少女達は歌うように答えている。
 その言葉はやはり、彼の望んだ内容ではなかった。
 しかし恍惚に濡れるその言葉の響きに、彼はどこか聞き覚えがあると感じていたようだった。

「・・・その言葉、聞き覚えがあるな」

 この世の果ての場所という言葉を、最近どこかで耳にしたような。
 そんな感覚を覚え、暗闇の中で一人、彼は顎に手をやっては思考を巡らせている。
 そんな彼の耳に、どこかから慌てて駆け寄ってくる騒がしい足音が届いていた。

「閣下!!大魔王閣下、大変でございます!!!」
「・・・何だ、騒々しい」

 もうそこまで手が届きそうだった思考は、その騒がしい声によって掻き消されてしまった。
 巨大な扉を押し開いてやってきたリザードマンによって、この部屋にもようやく光が差し込んでくる。
 そうしてようやくここが、謁見の間など呼ばれる部屋である事が分かっていた。
 そしてその玉座に鎮座し、入ってきたリザードマンを見下ろしている彼こそがここの主、大魔王その人なのだろう。

「し、失礼しました!!お話の最中だとは露知らず、お邪魔してしてしまい・・・はて、お相手の方は何処に?」
「それを知る必要がお前にあるのか?いいから、話せ」
「は、ははぁ!!その通りでございます!!」

 押し入る瞬間に聞こえてきた声は、紛れもなく誰かと会話しているものであった。
 主の会話を、しかもかなり個人的な込み入った話を邪魔してしまったと考えるそのリザードマンは、必死に頭を下げてはそれを謝罪している。
 しかし平伏した視線でチラリと覗く部屋の中には、玉座に腰を下ろす主人の姿しか見当たらない。
 その事実に疑問を感じ、それを率直に言葉にしてしまった彼の言葉に、玉座の主は不機嫌そうに喉を鳴らしていた。

「魔王ダンメンハインが配下、カイ・リンデンバウムなる男が勇者を打倒し、聖剣アストライアを奪取したとの事です!!」
「・・・なるほど。そういう事か」

 その驚くような事実を耳にしても、玉座に座る男は動揺を見せることはない。
 それどころか、彼は全て納得したとばかりに僅かに頷くと、玉座の後ろへと目を向ける。
 そこには彼の表情を窺うように顔を覗かせている、二人の少女の姿があった。

「ダミアン・ヘンゲ・・・お前は向こうにつくという事か。ふっ、おもしろい。どこまで出来るものか、やってみるがいい」

 彼が一人呟いたその言葉は、誰に対して向けたものでもない。
 しかしその言葉を耳にした少女達は、どこか楽しそうにお互いの耳に耳打ちを繰り返していた。

「その・・・何か為されないのでしょうか?このような成果を上げた、件のカイとか言う男に恩賞を与えるなどは・・・?」

 彼が呟いた言葉は小さく、緊張し感覚が鈍くなっているそのリザードマンには届かない。
 彼はそんな大事件の報告を受けても、一向に動こうとしない玉座の主の姿に、不思議そうな表情を見せると、恐る恐る窺うような口調で何かしてみてはどうでしょうかと問い掛けていた。

「ふっ・・・恩賞だと?何を馬鹿な・・・しかし、そうだな」

 恩賞を与えてみてはどうかと尋ねてきた目の前のリザードマンの言葉を、玉座の主は鼻で笑っている。
 勇者を倒したというその男が、恩賞などで喜ぶような器である筈がない。
 それどころか彼の考えが正しいのなら、それは敵に塩を送るような行いだ。
 そんな事を、わざわざ喜んでする訳などない。
 しかしそんなリザードマンの言葉にも何かを思い立った玉座の主は、そこから腰を上げ、身体纏わりついた外套を翻し歩き始める。

「では、動くとしよう」
「は、ははぁ!!では何を恩賞として与えましょう?彼の者は失態によって僻地へと押しやられと聞きます、であればこのインペリアルダウンに呼び寄せてみては?」

 玉座から離れ、この部屋の出口へと進む主の姿に、リザードマンはすぐさまその進路から身体を退けると、その脇へと跪いている。
 彼は主がそこを通り過ぎたのを確認すると、すぐにその後ろへと付き従っていた。
 動くと宣言した主の言葉に、彼はまだそれが恩賞の話しだと考えているようだったが、それはすぐに訂正されることになる。

「―――勢だ」
「は?申し訳ありません、閣下。聞き逃してしまい・・・もう一度言って頂けますか?」

 ドンドンと歩みを進める、主の足は速い。
 その後ろにつき従い、彼の邪魔をしてしまわないように静かに歩くリザードマンは、そちらにばかり注意が向いてしまい、彼の言葉を聞き逃してしまっていた。

「大攻勢だ、大攻勢を掛ける。お前の働きも期待しているぞ、バルタザール」

 そうしてこの玉座の主、大魔王ゲルハルト・ベルクヴァインはもう一度繰り返す。
 大攻勢を掛けると。
 それは、人類の終焉を意味していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...